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【 それぞれの未来 】
十家会議再び 後編
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その事情は予想していた。食料事情の悪化は、何も四大国だけではない。我々商国も例外なく困窮している。
当然、その分食い扶持は減らさねばならい。そこでどの商家も、誰が死ぬかを選んで送り出すのだ。
おそらく、相当数の志願がジャナハムの下に来ているだろう。
こちらとしても国民は減らしたい。それ自体は良いのだが――、
「どうしても食料の輸送が厄介だな。キスカ、例の追加装備はどうなんだ?」
「人馬騎兵に荷台を引かせるってやつかい? 一応設計図は作ったけど、あれ本気かい?」
「実地テストは組み立ててからとなりますが、理論上は問題無いと報告が上がっています」
「出来るか出来ないかって話よりね、中間素材の件だよ。うちの国はゴムが致命的に少ないからね。ラハ、その点どうなんだい?」
「フゥォォオオオォロロロロロロロ!」
「フム、それならばアンドルスフ商家からも供出しよう。それよりも当主、肝心の食料自体の方はどうする? 平常の食料を軍用レーションに作り直すには、少々備蓄が足らぬ。だが、今輸出するほどの食料を持っている国などないが……」
「あ、ああ。そうだな……」
参ったね……ラハの様子に気を取られて、注意を削がれていた。
元々この十家会議で、魔族に関して少し探りを入れようかと考えていたが甘かった。
まさかここまで堂々と魔族が混ざっているとは、夢にも思わなかったな。
「フォォォォオオロロロロロロロロロロ!」
――なんだ!? 今の発言は、自分に向けられた……そんな予感がしたが、だからどうしろというのか。
「ああ、そうでした。いや、ラハは訛りが凄いですからな。これは失敬」
訛りとかそういう次元じゃないだろう……。
僕以外は理解している。そして違和感も覚えていない。
おそらく魔法。それも、尋常でない程い強力な精神系か……魔法魔術は魔族の範疇、今更な事だ。商国に魔族がいるのであれば、考えるべき事だった。
――起動させるべきだろうか。
ゆっくりと、腰のバックルに手を伸ばす。
嗜みとして、普段から対魔法道具は持ち歩いている。
元々交渉の席で、エンバリーらの魔術師が持つ真実の髑髏などに対抗するためのものだ。
だがこの程度で……。
『ああ、効かないよ。我等からすれば、その程度は玩具の様なものさ』
突如聞こえてきた、男とも女とも言えない声。
だが周囲の人間は気にも留めず、話し合いを続けている。
――魔族か。
取り敢えずはラハを確認するが、こちらに注目している様子は無い。いや、それがなんだというのだ。相手は魔族だぞ。
『違うよ、彼ではないさ』
その言葉で、リッツェルネールは声に出す必要は無いと判断した。
同時に、偽りが効かない事も。
――何の用かな。今は会議中でね、用件があるのなら手短に頼むよ。
無数の思考が渦巻いた末、彼の出した結論は『なるようになれ』だった。
だが、諦めたのではない。一応、対魔法道具は起動させたし、精神作用に対抗するために意識を集中させる。
一方で、”魔族がいるぞ!”等と叫ぶことはしなかった。今この状態で、それが何になるというのか。
出来得ることは全てやった以上、後は流れに身を任す。それが、彼がこれまでの人生で学んだ処世術だ。
『用、というほどではないよ。ただ、商国の新たな当主に挨拶に来ただけさ』
――なるほど。では用件は済んだと言う事かい? ではこちらから一つ質問だ。わざわざ挨拶をする意図は何だい? 僕がこの件を公言しないとでも?
『それは終わったよ。もしこの国の魔族の事を他者に話そうとしても、それは出来ない。もし気になるのなら、好きなだけ試すと良い』
――対抗策は全て意味が無かったと? まあいいさ、それはいずれ試すことにしよう。だが妙だね。今僕らは、ここで魔王を倒し魔族を滅ぼすための話し合いをしている。それだけの力があるのなら、それをまずどうにかすべきではないのかい?
『しないよ。魔王は勿論大切さ。だけど人間も好きなんだよ。ああ、大好きだ。だから手は出さない。好きなだけ戦うと良いよ』
――助かるね。では、手を貸してくれないだろうか? 正直、手持ちだけでは少々心もとなくてね。
『それはダメだよ』
――なぜだい?
『それは、人間が大好きだからさ。好きなものが滅茶苦茶に犯され、穢され、貶められ、壊される。ゾクゾクしないかい? だから見ているだけ。でも安心していいよ、魔王も同じ位に好きだからね』
――君と友達にはなれそうにないな。少し残念だよ。では好きなだけ見ているといい。君の好きな者達が、互いに殺す合うさまをね。
もう、そこに返事は無かった。
今のは魔族……それもかなりのモノだろう。もしかしたら魔神と呼ばれる存在なのかもしれない。
だが、今はこれ以上考えても仕方が無い。
――手は出さないというが……さて、商人の約束と魔族の約束、どちらが信頼に値するのか……。
そんなことを考えながらも、どちらも信頼には値しない――そう結論づけ、彼の思考は十系会議の席へと戻っていった。
当然、その分食い扶持は減らさねばならい。そこでどの商家も、誰が死ぬかを選んで送り出すのだ。
おそらく、相当数の志願がジャナハムの下に来ているだろう。
こちらとしても国民は減らしたい。それ自体は良いのだが――、
「どうしても食料の輸送が厄介だな。キスカ、例の追加装備はどうなんだ?」
「人馬騎兵に荷台を引かせるってやつかい? 一応設計図は作ったけど、あれ本気かい?」
「実地テストは組み立ててからとなりますが、理論上は問題無いと報告が上がっています」
「出来るか出来ないかって話よりね、中間素材の件だよ。うちの国はゴムが致命的に少ないからね。ラハ、その点どうなんだい?」
「フゥォォオオオォロロロロロロロ!」
「フム、それならばアンドルスフ商家からも供出しよう。それよりも当主、肝心の食料自体の方はどうする? 平常の食料を軍用レーションに作り直すには、少々備蓄が足らぬ。だが、今輸出するほどの食料を持っている国などないが……」
「あ、ああ。そうだな……」
参ったね……ラハの様子に気を取られて、注意を削がれていた。
元々この十家会議で、魔族に関して少し探りを入れようかと考えていたが甘かった。
まさかここまで堂々と魔族が混ざっているとは、夢にも思わなかったな。
「フォォォォオオロロロロロロロロロロ!」
――なんだ!? 今の発言は、自分に向けられた……そんな予感がしたが、だからどうしろというのか。
「ああ、そうでした。いや、ラハは訛りが凄いですからな。これは失敬」
訛りとかそういう次元じゃないだろう……。
僕以外は理解している。そして違和感も覚えていない。
おそらく魔法。それも、尋常でない程い強力な精神系か……魔法魔術は魔族の範疇、今更な事だ。商国に魔族がいるのであれば、考えるべき事だった。
――起動させるべきだろうか。
ゆっくりと、腰のバックルに手を伸ばす。
嗜みとして、普段から対魔法道具は持ち歩いている。
元々交渉の席で、エンバリーらの魔術師が持つ真実の髑髏などに対抗するためのものだ。
だがこの程度で……。
『ああ、効かないよ。我等からすれば、その程度は玩具の様なものさ』
突如聞こえてきた、男とも女とも言えない声。
だが周囲の人間は気にも留めず、話し合いを続けている。
――魔族か。
取り敢えずはラハを確認するが、こちらに注目している様子は無い。いや、それがなんだというのだ。相手は魔族だぞ。
『違うよ、彼ではないさ』
その言葉で、リッツェルネールは声に出す必要は無いと判断した。
同時に、偽りが効かない事も。
――何の用かな。今は会議中でね、用件があるのなら手短に頼むよ。
無数の思考が渦巻いた末、彼の出した結論は『なるようになれ』だった。
だが、諦めたのではない。一応、対魔法道具は起動させたし、精神作用に対抗するために意識を集中させる。
一方で、”魔族がいるぞ!”等と叫ぶことはしなかった。今この状態で、それが何になるというのか。
出来得ることは全てやった以上、後は流れに身を任す。それが、彼がこれまでの人生で学んだ処世術だ。
『用、というほどではないよ。ただ、商国の新たな当主に挨拶に来ただけさ』
――なるほど。では用件は済んだと言う事かい? ではこちらから一つ質問だ。わざわざ挨拶をする意図は何だい? 僕がこの件を公言しないとでも?
『それは終わったよ。もしこの国の魔族の事を他者に話そうとしても、それは出来ない。もし気になるのなら、好きなだけ試すと良い』
――対抗策は全て意味が無かったと? まあいいさ、それはいずれ試すことにしよう。だが妙だね。今僕らは、ここで魔王を倒し魔族を滅ぼすための話し合いをしている。それだけの力があるのなら、それをまずどうにかすべきではないのかい?
『しないよ。魔王は勿論大切さ。だけど人間も好きなんだよ。ああ、大好きだ。だから手は出さない。好きなだけ戦うと良いよ』
――助かるね。では、手を貸してくれないだろうか? 正直、手持ちだけでは少々心もとなくてね。
『それはダメだよ』
――なぜだい?
『それは、人間が大好きだからさ。好きなものが滅茶苦茶に犯され、穢され、貶められ、壊される。ゾクゾクしないかい? だから見ているだけ。でも安心していいよ、魔王も同じ位に好きだからね』
――君と友達にはなれそうにないな。少し残念だよ。では好きなだけ見ているといい。君の好きな者達が、互いに殺す合うさまをね。
もう、そこに返事は無かった。
今のは魔族……それもかなりのモノだろう。もしかしたら魔神と呼ばれる存在なのかもしれない。
だが、今はこれ以上考えても仕方が無い。
――手は出さないというが……さて、商人の約束と魔族の約束、どちらが信頼に値するのか……。
そんなことを考えながらも、どちらも信頼には値しない――そう結論づけ、彼の思考は十系会議の席へと戻っていった。
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