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【 それぞれの未来 】
祖国への帰還 前編
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碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月36日。
もう太陽も殆ど沈みかかった頃、魔王相和義輝を乗せた魔人ファランティアは、魔族領――あの日に出発した海岸線に到着した。
行きと違い、帰りにかかった日数はほぼ20日。相当に急いでくれたのだろう。
「まおー……」
海岸に降り立った俺を出迎えたのは、魔人スースィリアだけだった。
「詳しい事を聞きたい。ゲルニッヒとヨーツケールはどうした?」
おそらく、スースィリアも記憶は受け取っている。だからここで聞いても良かったのかもしれない。
だが俺としては、やはり当事者から聞きたかった。事の顛末、その全てをだ。
「ゲルニッヒもヨーツケールも、ホテルで待っているのである。なのであるが、ヨーツケールは動けないのである」
「動けない?」
少し分からないが、とりあえず行くしかないだろう。
ホテルまでの5日間が長く、もどかしい。
次第に闇に包まれていく空を仰ぎながら、俺はスースィリアの頭の上へとよじ登った。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月39日、早朝。
リッツェルネールの乗る飛甲騎兵が、コンセシール商国の国境を越えた。第6次魔族領に参加して以来、28年と395日ぶりの祖国の地だ。
だが彼には、懐かしさに浸る時間も気持ちも無い。それよりも、これから行う事の方が遙に重要だったのだから。
飛甲騎兵の発着場に降り立った彼を迎えたのは、当主専用の装甲騎兵だ。
国家の色である鮮やかな青に白い流星のマーク。それに金の装飾が施されている。
リッツェルネールは勿論、前当主ビルバックの趣味でもないが、元々要人を出迎えるためにも使われるものだ。多少は派手であっても問題は無いだろう。
不安があったわけではないが、予定がきちんと進んでいる事に安心を感じる。
「お久しぶりでございます、リッツェルネール様」
装甲騎兵を降り出迎えたのは、身長170センチほどの男だった。
見た目は17歳ほどだろう。黒茶の短髪に覇気の強い緋色の瞳をし、服は商国の軍服だ。
襟についている階位章は8を示している。階級のあり方が地球の軍隊とは違うため一概には言えないが、かなりの高官と言って良い。
君主制の国では、将軍と呼ばれるクラスである。
「生きていたとは驚いたよ、ミックマインセ。君の件については、何の報告も受けていなかったものでね」
かつて炎と石獣の領域で、マリッカが所属していた部隊の隊長だ。
当然、その時の最高司令官であるリッツェルネールの部下という事になる。
だがあの戦い以来行方不明となっており、彼の下には一切消息は入ってこなかった。
「聞かれなかったため、答える必要も無いと判断いたしました」
美しく敬礼をしたのは、後ろに控えていたもう一人の人物。マリッカ・アンドルスフだ。
魔王を北限の海岸に降ろした後、そのまま直通で商国へと帰還していたのだった。
「酷い女でしょう? でも朗報です。彼女は今度、当主様の護衛武官となりました。お好きなように調教してやってください」
「御免被るね」
肩をすくめ苦笑しながら、リッツェルネールは装甲騎兵へと乗り込んだ。
コンセシール商国首都ヤハネバ。
金属ドームの建物が重なり合って並ぶ姿は、遠目に見れば極彩色のマッシュルーム畑にも見える。
建物の色は商家によって決まっているが、国家の色である鮮やかな青は、全て公共の建物だ。
その中の一つ。さほど大きくもない1階建のドームに、リッツェルネールら三人が入る。
だが、彼以外の二人は入り口までだ。その奥は、たとえ護衛といえども入ることは出来ない。
その扉の先は円形に部屋を囲む廊下があり、その先は当然円形の部屋だ。
さほど広くも無い部屋の中央には銀補強されたガラスのテーブルが配置され、その周囲には革張りの豪華な椅子が十脚配置されている。
既にその内8脚は埋まり、2つは空席だ。
一人は欠席となるため、リッツェルネールが最後の来訪者であった。
それぞれ、立場によって就く位置が決まっている。現在空いているのは、当主の席とナンバー8の席だ。
だが彼は、迷わず当主の席を選ぶと周囲を見渡し――
「ビルバックがいないようだね」
第一声として、そう静かに発言した。
部屋からは失笑が漏れる。だが、リッツェルネールは余裕を見せたわけでも冗談を言った訳でもない。
確かに、自分を魔族領で殺そうとした男だ。だがここまで商国を維持してきた彼の手腕と業績はきちんと評価するところだった。
当人が納得するかどうかは別としても、正規の手段で引継ぎを済ませたかったのである。
彼の右に座るのは、眩い美貌を踊り子のきわどい衣装で包んだ女性。濃い褐色の肌に、切れ長の金色の瞳。そして艶やかな黒髪が、天井から灯された魔道の明かりで輝いている。
コンセシール商国ナンバー2、イェア・アンドルスフだ。
その右には、はちきれんばかりの筋肉を真っ赤なドレスで包んだ男。
商国ナンバー4。諜報機関を統括し、情報から宣伝までを全般を扱うフォースノー商家の当主、ケインブラ・フォースノーが座る。
今日のドレスはミニスカートで、胸元にはハート型の穴。そして紅の髪には白いユリの花が飾られている。
共に戦場を駆けぬけてきた仲だが、相変わらず理解が出来ない趣味だ。
だがそれ以上に、恐怖と憎悪を湛える紅蓮の瞳。
――あの一件以来、彼は想定以上に僕を恐れているな……。
もう太陽も殆ど沈みかかった頃、魔王相和義輝を乗せた魔人ファランティアは、魔族領――あの日に出発した海岸線に到着した。
行きと違い、帰りにかかった日数はほぼ20日。相当に急いでくれたのだろう。
「まおー……」
海岸に降り立った俺を出迎えたのは、魔人スースィリアだけだった。
「詳しい事を聞きたい。ゲルニッヒとヨーツケールはどうした?」
おそらく、スースィリアも記憶は受け取っている。だからここで聞いても良かったのかもしれない。
だが俺としては、やはり当事者から聞きたかった。事の顛末、その全てをだ。
「ゲルニッヒもヨーツケールも、ホテルで待っているのである。なのであるが、ヨーツケールは動けないのである」
「動けない?」
少し分からないが、とりあえず行くしかないだろう。
ホテルまでの5日間が長く、もどかしい。
次第に闇に包まれていく空を仰ぎながら、俺はスースィリアの頭の上へとよじ登った。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月39日、早朝。
リッツェルネールの乗る飛甲騎兵が、コンセシール商国の国境を越えた。第6次魔族領に参加して以来、28年と395日ぶりの祖国の地だ。
だが彼には、懐かしさに浸る時間も気持ちも無い。それよりも、これから行う事の方が遙に重要だったのだから。
飛甲騎兵の発着場に降り立った彼を迎えたのは、当主専用の装甲騎兵だ。
国家の色である鮮やかな青に白い流星のマーク。それに金の装飾が施されている。
リッツェルネールは勿論、前当主ビルバックの趣味でもないが、元々要人を出迎えるためにも使われるものだ。多少は派手であっても問題は無いだろう。
不安があったわけではないが、予定がきちんと進んでいる事に安心を感じる。
「お久しぶりでございます、リッツェルネール様」
装甲騎兵を降り出迎えたのは、身長170センチほどの男だった。
見た目は17歳ほどだろう。黒茶の短髪に覇気の強い緋色の瞳をし、服は商国の軍服だ。
襟についている階位章は8を示している。階級のあり方が地球の軍隊とは違うため一概には言えないが、かなりの高官と言って良い。
君主制の国では、将軍と呼ばれるクラスである。
「生きていたとは驚いたよ、ミックマインセ。君の件については、何の報告も受けていなかったものでね」
かつて炎と石獣の領域で、マリッカが所属していた部隊の隊長だ。
当然、その時の最高司令官であるリッツェルネールの部下という事になる。
だがあの戦い以来行方不明となっており、彼の下には一切消息は入ってこなかった。
「聞かれなかったため、答える必要も無いと判断いたしました」
美しく敬礼をしたのは、後ろに控えていたもう一人の人物。マリッカ・アンドルスフだ。
魔王を北限の海岸に降ろした後、そのまま直通で商国へと帰還していたのだった。
「酷い女でしょう? でも朗報です。彼女は今度、当主様の護衛武官となりました。お好きなように調教してやってください」
「御免被るね」
肩をすくめ苦笑しながら、リッツェルネールは装甲騎兵へと乗り込んだ。
コンセシール商国首都ヤハネバ。
金属ドームの建物が重なり合って並ぶ姿は、遠目に見れば極彩色のマッシュルーム畑にも見える。
建物の色は商家によって決まっているが、国家の色である鮮やかな青は、全て公共の建物だ。
その中の一つ。さほど大きくもない1階建のドームに、リッツェルネールら三人が入る。
だが、彼以外の二人は入り口までだ。その奥は、たとえ護衛といえども入ることは出来ない。
その扉の先は円形に部屋を囲む廊下があり、その先は当然円形の部屋だ。
さほど広くも無い部屋の中央には銀補強されたガラスのテーブルが配置され、その周囲には革張りの豪華な椅子が十脚配置されている。
既にその内8脚は埋まり、2つは空席だ。
一人は欠席となるため、リッツェルネールが最後の来訪者であった。
それぞれ、立場によって就く位置が決まっている。現在空いているのは、当主の席とナンバー8の席だ。
だが彼は、迷わず当主の席を選ぶと周囲を見渡し――
「ビルバックがいないようだね」
第一声として、そう静かに発言した。
部屋からは失笑が漏れる。だが、リッツェルネールは余裕を見せたわけでも冗談を言った訳でもない。
確かに、自分を魔族領で殺そうとした男だ。だがここまで商国を維持してきた彼の手腕と業績はきちんと評価するところだった。
当人が納得するかどうかは別としても、正規の手段で引継ぎを済ませたかったのである。
彼の右に座るのは、眩い美貌を踊り子のきわどい衣装で包んだ女性。濃い褐色の肌に、切れ長の金色の瞳。そして艶やかな黒髪が、天井から灯された魔道の明かりで輝いている。
コンセシール商国ナンバー2、イェア・アンドルスフだ。
その右には、はちきれんばかりの筋肉を真っ赤なドレスで包んだ男。
商国ナンバー4。諜報機関を統括し、情報から宣伝までを全般を扱うフォースノー商家の当主、ケインブラ・フォースノーが座る。
今日のドレスはミニスカートで、胸元にはハート型の穴。そして紅の髪には白いユリの花が飾られている。
共に戦場を駆けぬけてきた仲だが、相変わらず理解が出来ない趣味だ。
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