この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

両国の会談 後編

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 次に考えねばならないのは、北の帝国の動きだ。
 リッツェルネールとハルタール帝国は明確に繋がっている。そんな事は、もはや子供でも知る事実だ。
 だが、互いの間にどのような盟約が交わされているかは分からない。
 こいつの命が、なんらかのキーになっている可能性……最悪は、ハルタール帝国による北部侵攻である。
 魔族領侵攻を控えている今、その公算は低い。だが控えているからこそ、最初に奇襲を受けたら巻き返す時間は無い。
 とは言え、オスピア帝はそういった類の暴挙は行わないと考えていいだろう。それは、これまでのハルタール帝国の歴史が証明している。
 だが、口実さえあればやる。やるべき時にやらねば、逆に国家の不安定化を招くからだ。

 目の前の男を殺した場合、ティランド連合王国側に非がある可能性……。
 一番考えられるのは、次の魔族領侵攻戦にいて、重要な地位ポストが与えられている可能性だ。
 だが中央のシャハゼン大臣からは何の連絡も来ていない。しかし、それは何の保証にもなりはしない。今こちらは戦争中の身で、情報の入りが遅くなるのは仕方がない。

 勿論、魔族領侵攻戦の人事関係には連合王国も絡む。
 だがこれだけの戦争の後だ。出せる戦力には限りがあり、比例して大した発言権は得られないだろう。それを見越して内定している可能性がある。

「分かった。コンセシール商国は独立した。もはや、お前らの政治に口は出さねぇ」

 今は国家元首同士の会談中、他の誰も口を出せる立場にはない。
 だが、誰一人言葉を発せずとも空気は変わる。重苦しい、もういつ誰かが暴発し、リッツェルネールに斬りかかってもおかしくない雰囲気だ。

「だが戦争したいってわけじゃねぇだろ。何か出せ。気に入ったら攻めないでいてやる」

 その物言いは、まるで野盗のそれである。
 だがリッツェルネールからすれば、これ以上ない程に分かりやすい言葉だった。

「コンセシール商国の、この戦いへの不干渉。十分な価値があると思いますよ。いかがですか?」

 単純明快。だがその意味は大きい。
 現在ハルタール領にいるコンセシールの主力部隊。それがジェルケンブール軍に加勢しないという確約だ。

 同時に、ハルタール帝国の脅威も消える。
 オスピアは聡明であり、何より人類社会の秩序を旨とする。そして、国内では内乱が起きたばかりであり、また東方戦力はジェルケンブール王国ににらみを利かしたまま動いてはいない。
 もし今を機として連合王国に攻め入るのであれば、先鋒を担うのはコンセシール商国の飛甲騎兵隊しかない。他の部隊であれば、現在の守備隊だけで対応できる可能性があるからだ。
 魔族領侵攻を控える今、条約を破った挙句、何の戦果もありませんでした……そんな事を、あの女帝が行うわけがない。

 これで、北方の脅威は完全に消える事になる。
 今までは対抗する戦力を割かなければならなかったが、これである程度は動かせる事になるだろう。
 その代償が小さな商国一つを失う程度であるのなら、確かに安いものだ。

 だが、これまで問題の全てを差し引いてでも、ここで殺しておくべきだろうか?
 カルタ―は、頭によぎるその考えを、なかなか消せずにいた。
 危険人物であることは間違いない。祖国独立の為にここまでも事をやらかした男だ。ここで放置すれば、どんな禍根かこんを残すか分からない。
 自分の為ではない。連合王国の為でもない。人類の為に、ここで始末をつけた方が良いのではないだろうか?
 それに、この男は敵にはならないかもしれないが、間違いなく真の意味で味方にはなり得ない。常に損得を天秤にかけ、こちらを損と見れば即切るだろう。




 カルタ―の熟考の意味を、リッツェルネールは正しく判断していた。

 ――ここで僕を始末した時の問題を考えているね……。

 オスピアから浮遊城の使用許可を得た事、そして主席幕僚に内定した事。それを話せば話は簡単だ。
 だがそれは出来ない。第九次魔族領侵攻戦までには、まだまだ時間があるからだ。
 カルタ―の反対いかんでは、この話もひっくり返る可能性がある。
 もう今更変更は出来ない――となる時期まで、この話は秘匿する必要があった。

 その結果殺されるなら、仕方ないだろう。
 もしそうなった場合、コンセシール商国飛甲騎兵隊はジェルケンブール軍の北方軍を支援して行動を起こす手はずとなっている。間違いなく、ティランド連合王国北方の国々は蹂躙されるだろう。
 また、ハルタール帝国の国民にも十分に恩を売った。連合王国の反撃によって祖国が灰燼に帰しても、軍部は帝国内に臨時政府を立てて残るだろう。
 今後は、自分がいなくても祖国独立までは行ける。例え無理でも、ティランド連合王国の弱体化は避けられない。チャンスは幾らでもあるさ……。

 そう、ある種の刹那的な考えも浮かびはするが――、

「ここに不戦条約を締結するための書類も用意してきました。中央に提出し、受理されるまでおよそ12時間もあれば完了しましょう。またこれまでと、これからの国家間の友好を考え、ささやかながら援助物資を用意してあります。さて、どうします?」

 ――リッツェルネールは自己犠牲や自己陶酔には縁が無い。
 より実務的な現物を出して、カルタ―の背を押した。




 ◇     ◇     ◇




 翌日、ティランド連合王国の陣から青い飛甲騎兵が飛び立った。
 その様子を、クライカ王は納得した様子で見送った。

「あちらの話はまとまった様だな。おそらく、互いに不戦条約を結んだといったところだろう」

「それだけでしょうか? もし商国軍が北方から攻めて来たら、今の戦力では対処しきれますまい」
「国内には商国人技術者が大勢います。しかしそれが人質にはならない事は、ゼビア王国の一件からも明らかです」

 重臣達の心配も、もっともである。これは政治の話だ。どんな些細な点も見逃すことは出来ない。
 だがクライカは、今回の彼の行動にいささかの心配もなかった。
 リッツェルネール自身は感情が希薄な男だが、その作戦行動にはしっかりと人の感情を盛り込んでいる。それこそ兵達の食事内容から野営地のベッドの堅さまでをも考えて作戦を立てる男だ。

 故に、今現在のティランド連合王国との共闘は有り得ない。両者の関係は、何らかの条約を結んだから即解決とはいかない程にこじれているのだ。
 無論むろん、彼自身が商国軍の実務指揮を取れば話は別だ。天才軍略家の名は伊達ではない。
 だが、そのような余裕はあるまい。彼にとって今最も大切な事は、商国を掌握することにあるのだから。

「商国はもう放置してよい。それよりも、今はこの戦線が問題だ。動員可能な限りの民兵を集めよ。数の圧力で奴らの動きを止める。犠牲をいとうな」

「畏まりました、我らが王よ」

 周囲にいた将軍たちは、それぞれの持ち場へと向かっていった。
 今日も、連合王国が攻めて来る。その圧倒的な戦闘力は、さすがは軍事大国だと認めるしかない。だが、ここを抜かせるわけにもいかなかったのだ。
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