この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

両国の会談 前編

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 碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月35日。
 双方の死体が山のように積まれる戦場上空を、青い飛甲騎兵が飛行していた。

 ――順調に殺し合っているようだね……。

 戦場のあちこちに、破壊された人馬騎兵も見える。数は十数体ほどか。
 あれだけ壊せるのは大したものだと思うが、同時にジェルケンブールの運用にも問題を感じる。

 ――僕なら多少の犠牲は払っても、ここに100騎は集合させたろうな……。

 勿論、言うほど簡単な話ではない。
 此処ここにいない人馬騎兵の力があったからこそ、これまで版図を広げることが出来たのだ。
 その辺りは上策下策というよりは、戦略的な方向性の相違であっただろう。
 リッツェルネールは逆転の隙を与えない戦略を重視し、ジェルケンブール王国は逆に、多少の危険性リスクに目をつむりつつ拡張を優先させた結果に過ぎない。

 ――だが、このままではティランド連合王国が勝つか。

 戦況に圧倒的な差は無い。軍事大国相手に、よく頑張っているものだと思う。
 だがそれも、人馬騎兵と言う強大な戦力あっての事だ。数が減るごとに、戦況は加速度的に不利になってくる。だが――、

 ――さて、貴方の選択をお聞きしましょう。カルター陛下。

 リッツェルネールの乗る飛行騎兵は、戦場のど真ん中に設営されたカルターのテントへと降りて行った。




 ◇     ◇     ◇




 その様子は、ジェルケンブールの軍からも見えた。

「陛下、商国の飛行騎兵がティランドの陣へと降下していきました。あの国の事です、もしや我等を売るつもりではないでしょうか?」

 配下の心配ももっともだ。何と言っても商人の国である。絶対の信用など置けるわけがない。
 たとえ違約金を払うように契約してあっても……いや逆に、それ以上の利益があると感じたら、迷わず契約を破棄するのが商人というものだからだ。

 だが、クライカ王には問題無いという確信があった。
 様々な社会情勢と、彼が無能ではない事を十分に理解していたからだ。




 ◇     ◇     ◇




 指定ポイントに降下したリッツェルネールを待っていたのは、予想通り憎悪の瞳だ。
 テント周辺にいる兵士たち全てが、等しく睨みつけてくる。

 ――これはまた、随分と嫌われたものだ……。

 だが、十分に理解しているからこその余裕で降り立つと、目の前にいる女性に対して用件を告げる。

「リッツェルネール・アルドライトだ。カルター陛下へお取り次ぎを願おう」

 いつもの商人としてではない。胸を張り、国家の代表とした堂々たる態度。
 それが逆に周囲の憎悪を焚きつけるが、応対した女性は静かな姿勢を崩さない。

「すでに陛下のご準備は出来ております。ご案内いたしますのでこちらへ」

 そう宣言すると、くるりと振り返り先導する。
 鮮やかな緑の髪は昔のままだ。だが、リッツェルネールは一瞬誰だか分らなかった。
 動くたびにたゆんと揺れていた豊満な脂肪は、これまでの心労と忙しさですっかり減少。相和義輝あいわよしきが評したビア樽からは程遠い、少しふっくらとした位にまで痩せていたからだ。

 カルター付き魔術師、エンバリ―・ キャスタスマイゼン。
 いや、最近ではすっかり魔力量も減り、その地位は伝令程度にまで落ちている。
 残念ながら、彼女はサイアナの様な特異体質ではなかったのだ。
 ここは実力主義の人類社会でも、特にそれが厳しい国だ。長くカルターに仕えていたからと言って、実力の伴わない職席にはいられない。

 とぼとぼと肩を落としながら歩く彼女の真意はリッツェルネールには分からないが、その様子からは、カルターに問題が起きたのだと思わせるのに十分だった。

 ――まあ、たとえ傷病の床にあっても王は王だ。僕の行動に変わりはない。

 そう考えながら、テントへと入って行った。




「久しいな。元気そうじゃないか」

 ――だが、入って早々に声をかけてきたのはカルタ―だった。
 ジェルケンブール王国からの戦利品だろうか、足元には豪華な絨毯が敷かれ、その上にテーブルと2脚のパイプ椅子が設けられている。
 その一脚には堂々とした姿のカルターが座り、もう片方は無人だ。当然、そこに誰が座るのかは決まっている。
 一応、形だけでも謁見っぽくしたというところだろうか。
 実に粗野そやな国らしいが、リッツェルネールは嫌いではない。どちらかといえば、質実剛健しつじつごうけんなこの国の方針は、事務的な彼の生き方に近いと言えるだろう。

此度こたびは謁見のかない、誠に恐悦きょうえつにございます」

 リッツェルネールは、入室――いや、入テントし、深々と一礼する。
 一応は国家元首としての謁見だが、実際にはまだコンセシール商国の党首の座には就いていない。そして相手は四大国の一つ、ティランド連合王国の盟主だ。どちらかといえば、拝謁はいえつといった立場である。それは当然の礼儀であった。

「無用だ。とっとと席に着け」

 だがカルタ―は、様式などにはこだわらない。そんなものに拘泥こうでいする時間があるのなら、さっさと要件を済ませたい性格であった。

「相変わらずだね。それで国王としての責務を果たせているのかい?」

 そう言いながら、少し笑みを湛え、目の前のパイプ椅子に座る。

「全く問題はねぇ。それで、用件は?」

「コンセシール商国の独立を宣言しに来たよ。用件はそれだけさ」

「なるほどな……」

 顎に手を当て考えるそぶりをするが、実際はそんな事はとうに分かっている。
 それ以外の所を聞きたかったが、やはり交渉という席では相手が悪い。
 カルターとしては、『独立の交渉に来た』と言って欲しかったのだ。
 そしてそれは、リッツェルネールも分かっている。だから、あえてそう言わなかった。

 仕方なしに、カルターは状況を冷静に考える事にした。
 即決即断の彼としては珍しい熟考だ。
 実際の所、今ここでリッツェルネールを始末しても誰にも咎められる事は無い。
 むしろここで彼を始末すれば、間違いなくカルターの求心力は高まり、兵達の士気も上がる。
 それほどまでに、今商国の人間は嫌われているのだ。

 だがリッツェルネールは、それを理解した上でここに来ている。
 たとえ死んだとしても、当然引き継ぎの準備は全て整えてきているだろう。
 いや、場合によっては死ぬ事すら作戦に含まれている可能性が高い。

 ここに来て、即時にリッツェルネールは独立宣言をした。
 その時点で、宣戦布告が成立するとすると同時に属国からも外れる事になる。もう既に国家間の戦争であり、他国の介入が可能な状態なのだ。

 その事は他国はまだ知らない……などと考えるほど、カルターは政治音痴ではない。
 間違いなく、この会見の時間に合わせて、世界中に独立宣言がなされている。
 知らないのは戦場にいる我等だけ。そして、戦場にいたから知りませんでしたなどという言い訳は、ただの恥の上塗りでしかない。
 国際社会において、知らぬはすなわち罪なのだ。

 対外的に考えれば、『連合王国が用意した交渉の場で独立国の国家元首を殺す』――それがどれほど今後の外交活動に支障を与えるか……到底、たった一人の命と釣り合うものではない。

 ――オスピアが何を考えているか……。
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