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【 それぞれの未来 】
激突 前編
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翌朝、碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月28日夜明け。
ティランド連合王国本隊は、ジェルケンブール王国軍本隊を視認できる場所にまで侵攻していた。
互いに、地平線の先に相手のカラーが見える。赤紫と黒、互いの正規兵の集団だ。
そして上空では既に、両軍の飛甲騎兵が激しい空中戦を繰り広げていた。
ティランド連合王国軍、本隊21万人。
全てが浮遊式輸送板に搭乗しており、飛行騎兵から見れば、大地に赤紫のタイルを張り付けたようにも見える。
この後方には、分散した部隊が合計10万人。そして予備軍8万人も健在だ。ここまで本隊に損害と言えるほどの被害は出ていない。
だが駐屯地の生き残りが存外にしぶとく、どちらの部隊も交戦中である。
後方からの援軍は望めて2万人といったところだろう。
北方の左翼軍は予想通り敵少数部隊との交戦に入っており、こちらは乱戦模様だ。
「グレスノームは何と言ってきた」
「右翼軍はマリセルヌス王国軍と合流を果たしました。しかし、夜明けと共に人馬騎兵隊を擁する敵部隊と交戦。戦況は芳しくないとの事です」
「そうか。まあ最初から俺達だけでやるつもりだったからな。構わねえさ」
◇ ◇ ◇
そう言うカルタ―の眼前に迫るのは、ジェルケンブール主力部隊である正規兵44万人。
更に地平線の両翼へと広がりを見せているのは、200万を超す民兵隊だ。
正規軍は全て大型の浮遊式輸送板に搭乗し、その様子を上空から見れば、こちらも連合王国と似たような黒塗りのタイルの様に見える。
一方で、民兵は全て徒歩。彼らはこの機動戦に関わる事は殆ど無い。空を飛ぶ機動部隊には無力だからだ。
だが一度下に落ちれば、彼らは虫のように群がりその兵士を殺すだろう。
そして、投入された人馬騎兵は30騎。全てが完全に起動し、出撃の合図を待っている。
夜中の襲撃からここまでで、襲撃された駐屯地は14カ所。その総兵力は正規兵30万人と民兵500万人程だ。
最大規模であったウィンバート駐屯地が陥落した他、幾つもの駐屯地が壊滅した。
だが、多くの駐屯地は今も抵抗を続けている。いくら軍事大国ティランド連合王国軍でも、これだけの要地・兵員を一夜にして滅することは出来ない。
数としてもこちらが多く、それぞれ10日から20日は持ちこたえられるだろう。
当方の援軍としては当てにできないが、あちらの援軍も防いでくれる。そして何より、退路を断てる位置にいる点が大きい。
今は守勢だが、連合王国本隊が潰走したとなれば、一気に攻勢に転ずる事が出来るのだ。
今現在、双方の主力は2キロメートルほどの距離を取って睨みあっているが、これはティランド連合王国が随時集結し、部隊を配備しているためだ。こちらが防衛する立場とは言え、それが終わるまで待ってやる義理は無い。
「人馬騎兵隊、突撃せよ!」
クライカ王の命を受け、30騎の人馬騎兵が突撃を開始した。
◇ ◇ ◇
戦場に激震が走る。
人馬騎兵の重量は、約2千トン。それが時速100キロを超す速度で走るのだ。
大地は地響きを立て、そこにある岩は勿論、木すらも根こそぎ掘り返す。
局地的な大地震が移動してくるようなものだ。徒歩であれば、近くを走られただけで足の骨が砕けるだろう。
「いよいよですね、陛下」
重甲鎧のスピーカーから、エンバリ―の声が聞こえてくる。
「ああ、夕べの奴はまともに動かない木偶人形だったが、今回は本番だ。各員、予定通りだ! 気合を入れろよ!」
連合王国も、カルターの指揮の元、一斉に突撃を開始した。
◇ ◇ ◇
先頭を走る人馬騎兵のコクピットから、紡錘形で突撃してくる部隊が見える。
先頭は装甲騎兵。そしてその上には、巨大な重甲鎧が悠然と立つ。
幸いにして、昨日のカルターの戦闘は報告されていなかった。
獲物を見つけた人馬騎兵は、悠然とランスを構えて加速する。
動きの鈍い重甲鎧など一撃――そう考えたのだ。
そしてそれは間違ってはいない。相手がカルターでないのならば。
◇ ◇ ◇
真っ直ぐに突き立てられたランスを斧の腹でいなす。
上から押される形になるが、装甲騎兵は柔軟に高度を変え人馬騎兵の腹部分に体当たりを敢行した。
人馬騎兵の腹部に特攻を仕掛けた装甲騎兵は、轟音と共に無残にも拉げ落下する。
だが同時に、人馬騎兵側も人間部分を左肩から人馬の接合部までを、バッサリと斬られていた。
「なんだと!? あれはカルタ―か!」
遅れて後方にいた2騎の人馬騎兵達が、目標が何者であるかに気付く。
カルタ―の扱う重甲鎧は、それなりに有名だ。いや、敵にとっては悪名と言って良い。
幾多の人馬を葬り去った赤紫の巨兵。それも体高は4.6メートル。通常の重甲鎧の2倍ほどの大きさだ。
必要な魔力も桁違いであり、並の人間に扱えるものではない。
だが何より他と違うのは、その特異な機動性だろう。
チャリチャリチャリチャリ――、
鎖の音が戦場に響く。
操縦席を断ち切られた人馬騎兵の胴に、いつの間にか一本の斧が刺さっている。副兵装として、背後の装備されていたものだ。
柄には金属の鎖が取り付けられており、それを本体が巻き上げている音だった。
通常であれば、鎖程度で重甲鎧の重量を支えられるものではない。
だがこの鎧は、それを可能にしたものだ。
この大きさだと、もはや鎧の様な外骨格的な運用は出来ない。完全に乗り物だ。
扱いとしては、飛甲騎兵とほぼ同じと言って良い。炉も同じ物が使用される。
だが重すぎる事と一人乗りと言う事もあり、空を掛けることは出来ない。
しかし僅かに浮かすことが出来るため、その身軽は他の重甲鎧とは比較にもならないだろう。
ティランド連合王国本隊は、ジェルケンブール王国軍本隊を視認できる場所にまで侵攻していた。
互いに、地平線の先に相手のカラーが見える。赤紫と黒、互いの正規兵の集団だ。
そして上空では既に、両軍の飛甲騎兵が激しい空中戦を繰り広げていた。
ティランド連合王国軍、本隊21万人。
全てが浮遊式輸送板に搭乗しており、飛行騎兵から見れば、大地に赤紫のタイルを張り付けたようにも見える。
この後方には、分散した部隊が合計10万人。そして予備軍8万人も健在だ。ここまで本隊に損害と言えるほどの被害は出ていない。
だが駐屯地の生き残りが存外にしぶとく、どちらの部隊も交戦中である。
後方からの援軍は望めて2万人といったところだろう。
北方の左翼軍は予想通り敵少数部隊との交戦に入っており、こちらは乱戦模様だ。
「グレスノームは何と言ってきた」
「右翼軍はマリセルヌス王国軍と合流を果たしました。しかし、夜明けと共に人馬騎兵隊を擁する敵部隊と交戦。戦況は芳しくないとの事です」
「そうか。まあ最初から俺達だけでやるつもりだったからな。構わねえさ」
◇ ◇ ◇
そう言うカルタ―の眼前に迫るのは、ジェルケンブール主力部隊である正規兵44万人。
更に地平線の両翼へと広がりを見せているのは、200万を超す民兵隊だ。
正規軍は全て大型の浮遊式輸送板に搭乗し、その様子を上空から見れば、こちらも連合王国と似たような黒塗りのタイルの様に見える。
一方で、民兵は全て徒歩。彼らはこの機動戦に関わる事は殆ど無い。空を飛ぶ機動部隊には無力だからだ。
だが一度下に落ちれば、彼らは虫のように群がりその兵士を殺すだろう。
そして、投入された人馬騎兵は30騎。全てが完全に起動し、出撃の合図を待っている。
夜中の襲撃からここまでで、襲撃された駐屯地は14カ所。その総兵力は正規兵30万人と民兵500万人程だ。
最大規模であったウィンバート駐屯地が陥落した他、幾つもの駐屯地が壊滅した。
だが、多くの駐屯地は今も抵抗を続けている。いくら軍事大国ティランド連合王国軍でも、これだけの要地・兵員を一夜にして滅することは出来ない。
数としてもこちらが多く、それぞれ10日から20日は持ちこたえられるだろう。
当方の援軍としては当てにできないが、あちらの援軍も防いでくれる。そして何より、退路を断てる位置にいる点が大きい。
今は守勢だが、連合王国本隊が潰走したとなれば、一気に攻勢に転ずる事が出来るのだ。
今現在、双方の主力は2キロメートルほどの距離を取って睨みあっているが、これはティランド連合王国が随時集結し、部隊を配備しているためだ。こちらが防衛する立場とは言え、それが終わるまで待ってやる義理は無い。
「人馬騎兵隊、突撃せよ!」
クライカ王の命を受け、30騎の人馬騎兵が突撃を開始した。
◇ ◇ ◇
戦場に激震が走る。
人馬騎兵の重量は、約2千トン。それが時速100キロを超す速度で走るのだ。
大地は地響きを立て、そこにある岩は勿論、木すらも根こそぎ掘り返す。
局地的な大地震が移動してくるようなものだ。徒歩であれば、近くを走られただけで足の骨が砕けるだろう。
「いよいよですね、陛下」
重甲鎧のスピーカーから、エンバリ―の声が聞こえてくる。
「ああ、夕べの奴はまともに動かない木偶人形だったが、今回は本番だ。各員、予定通りだ! 気合を入れろよ!」
連合王国も、カルターの指揮の元、一斉に突撃を開始した。
◇ ◇ ◇
先頭を走る人馬騎兵のコクピットから、紡錘形で突撃してくる部隊が見える。
先頭は装甲騎兵。そしてその上には、巨大な重甲鎧が悠然と立つ。
幸いにして、昨日のカルターの戦闘は報告されていなかった。
獲物を見つけた人馬騎兵は、悠然とランスを構えて加速する。
動きの鈍い重甲鎧など一撃――そう考えたのだ。
そしてそれは間違ってはいない。相手がカルターでないのならば。
◇ ◇ ◇
真っ直ぐに突き立てられたランスを斧の腹でいなす。
上から押される形になるが、装甲騎兵は柔軟に高度を変え人馬騎兵の腹部分に体当たりを敢行した。
人馬騎兵の腹部に特攻を仕掛けた装甲騎兵は、轟音と共に無残にも拉げ落下する。
だが同時に、人馬騎兵側も人間部分を左肩から人馬の接合部までを、バッサリと斬られていた。
「なんだと!? あれはカルタ―か!」
遅れて後方にいた2騎の人馬騎兵達が、目標が何者であるかに気付く。
カルタ―の扱う重甲鎧は、それなりに有名だ。いや、敵にとっては悪名と言って良い。
幾多の人馬を葬り去った赤紫の巨兵。それも体高は4.6メートル。通常の重甲鎧の2倍ほどの大きさだ。
必要な魔力も桁違いであり、並の人間に扱えるものではない。
だが何より他と違うのは、その特異な機動性だろう。
チャリチャリチャリチャリ――、
鎖の音が戦場に響く。
操縦席を断ち切られた人馬騎兵の胴に、いつの間にか一本の斧が刺さっている。副兵装として、背後の装備されていたものだ。
柄には金属の鎖が取り付けられており、それを本体が巻き上げている音だった。
通常であれば、鎖程度で重甲鎧の重量を支えられるものではない。
だがこの鎧は、それを可能にしたものだ。
この大きさだと、もはや鎧の様な外骨格的な運用は出来ない。完全に乗り物だ。
扱いとしては、飛甲騎兵とほぼ同じと言って良い。炉も同じ物が使用される。
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