この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
213 / 425
【 それぞれの未来 】

反抗準備 後編

しおりを挟む
「現在動かせる戦力はこの様になっております」

 ミューゼ参謀長の手渡した資料を確認する。
 要塞軍の守備兵力を除くと、正規兵72万人に民兵220万人。
 数だけならそれなりだが、浮遊式輸送板は2万枚程だ。機動戦力として数えられるのは、合わせて120万人といった所だろう。
 正規兵の内22万人は騎馬ではあるが、人馬騎兵が走るだけで使い物にならなくなる可能性が高い。今回は、馬は要塞に置いて行くことになる。
 そして機甲部隊として用意できたのは、装甲騎兵2千騎、飛甲機兵300騎となる。

 ――やはり足りねぇな……。

 対するジェルケンブール軍は、正規兵100万人に民兵680万人。
 大型浮遊式輸送板による機動戦に対応できる兵員は推定で100万人。要は、正規兵は全て高速浮遊部隊となる計算だ。
 それに装甲騎兵が数百騎。近隣に展開中の飛甲騎兵は、推定で約200騎。
 そして最大の難問である人馬騎兵。その数は40騎と推測されている。

 人馬騎兵と歩兵との彼我戦力ひがせんりょくは測りようがない。一般兵士など、何万人集めても勝負にならないからだ。
 だがこれまでの戦闘結果を基にすれば、正規兵がおおよそ20万人殺される間に1騎破壊できる計算となる。40騎が相手となれば用意すべき戦力は800万人となるが……。

「数が足りないのは仕方ねぇ。だが、これ以上は奴らを野放しには出来ん。連合王国の力を見せよ」

 叫ぶでも怒鳴るでもない、カルターの静かな言。
 それに合わせ、会議室にいた全員が一斉に立ち上がり敬礼する。
 同時に響いたザッという軍靴の響きが反響する中、カルターは部隊編成を発表した。

 出撃可能な72万人、それが全員投入される。更に装甲騎兵と飛甲機兵も全てだ。ここで余力を残す意味はない。
 中央主戦力にカルター王率いる32万人。中央予備部隊8万人。
 右翼主力部隊15万人。右翼予備部隊4万人。
 左翼主力部隊8万人。左翼予備部隊3万人。

 西側から東へと攻める為、左翼が北方、右翼が南方を進む事になる。
 右翼軍が多いのは、健在するマリセルヌス王国軍と歩調を合わせる事で、第二の主力部隊として機能させるためだ。
 左翼軍は、北方のディノソラス王国領から来る敵兵に対するものだが、もし来なければ遊撃部隊として機能する。
 当然ながらどちらの軍も、役割としては中央軍に劣るものではない。

 だが最も重要なのは、全軍を束ねる総司令部直属隊2万人。
 数としては少ないが、もとより最前線で戦う部隊ではない。全軍の頭脳である。
 本来であれば、それはカルター自身が行うのが通例であるが――

「俺は前線に出る。総司令はグレスノーム、お前がやれ」

 カルターが将軍達の中から一人を指名すると、会議室にいた幕僚達からざわめきが起きる。
 だが、一番狼狽したのはグレスノーム本人だろう。黒い瞳には、明らかな焦りの色が濃く映る。

「お、お待ちください。私ではなく、もっと別の方でよろしいでしょう。ここはティランド血族の者が率いるべきです!」

 グレスノーム・サウルス将軍は、元々はティランド血族の出身だ。
 だが病弱だったため、サウルス血族に養子に出された男。要は役立たずとして捨てられたのだ。
 そしてここには、ティランド血族の将軍が多数控えている。
 しかもただの将軍ではない。幾多のティランド血族の中でも、特に軍事的な才覚を示してきた王位継承権保持者たちだ。
 彼等を差し置いて、自分が連合王国軍の指揮を執るなど、あってはならぬ事だった。

「お前が一番上手くやると思ったから任せた。他に異論が無ければ詳細配備を通達する。先ずはヘリアナ将軍……」

 カルターが部隊編成表を読み上げている中、グレスノームの心を様々な思いが巡っていた。捨てられたことを嘆き、恨んだこともあった。そして、自分自身の弱さを呪った。
 努力を重ねたが、今でも正直言えば弱い。だが、用兵術を学び、幾多の戦乱を経て将軍職にまで上り詰め、魔族領では共に戦い、生き延び、今こうして大役を任された。
 彼の心にあるものは――自負。努力を認められたことを、何よりも嬉しく感じていた。

 そんな感動に打ち震える弟を見ながら、兄であるリンバート将軍は、ふと部隊編成に疑問点を感じていた。

「陛下、民兵隊はいかがいたしますか?」

「補給、整備、設営に必要な分だけ連れて行く。他は要塞に待機だ」

 カルターのその言葉は、先程よりも幕僚達を驚かせた。
 民兵隊は、確かに一般市民だ。鎧はせいぜい革程度で武器も粗末な物が多い。
 だがそれでも、魔道言葉を使える分、魔王である相和義輝あいわよしきが率いる蠢く死体ゾンビよりも強いのだ。

 それに戦いは数がものを言う。
 どれ程優れた兵装があっても、使うのは生身の人間だ。戦い続ければ、疲労には勝てない。
 たとえ捨て駒ではあっても、使い方次第では王すら倒す可能性だってある。

 だが今回は、編成には組み込まれなかった。
 その理由を、カルター自身も言葉にすることは難しい。
 ただ、無駄に殺したくはない……そんな、曖昧な理由だったからだ。

 こうして全軍の出撃計画が決まり、各員が支度に向かおうとした時だった。

「陛下、緊急電文が入っています。北部国境の街ラーンからです。最重要の案件だと……」

 北部国境の街……ハルタール帝国への玄関口。そこから入る電文となれば、何処どこ絡みかなどは今更聞く必要もない。
 だがその内容は、誰一人として予想しないものであった。

「コンセシール商国”当主”、リッツェルネール・アルドライトが陛下に会見を申し込んできました」

 会議室の将兵達が、拳を握りしめ歯をギリリと鳴らす。
 彼らがこの世で最も殺したい人間……それは今戦争中のジェルケンブール王国人でも、それを統率するクライカ王でもない。
 人馬騎兵を供与し、人類社会に放火し、ゼビア王国の内乱以来、裏で殺戮の糸を引いていたこの男なのだ。
 そしてそれは、属国の一軍人とあなどり、彼を放置していた自分達への怒りでもあった。

 だがカルターはさほど興味がなさそうに――、

「今は忙しい。時間が出来たら会ってやると伝えろ」

 ――とだけ伝え、会議室を出て行った。

「か、畏まりました……」

 その静かな態度の内に、渦巻くようにたぎる地獄の業火を感じながら、伝令は震えながら敬礼を返した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...