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【 それぞれの未来 】
反抗準備 前編
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魔王、相和義輝が悶々と海中を移動している頃、四大国同士の戦争は、もはや収拾がつかない程にまで拡大していた。
もし今の勢力図をそれぞれの国のカラーに色分けすれば、赤紫と黒のモザイク模様に見えただろう。
互いに地形を無視した高速移動手段を持ち、この世界の技術は防御よりも攻撃に特化している。
当たれば血液を沸騰させ即死させる矢、金属を切り裂くほど鋭く、また軽々と扱える巨大な武器。そして人馬騎兵や飛甲騎兵をはじめとした機甲部隊。
更に通信技術も発展しており、火薬が無い以外は近代戦とほとんど変わらない。
いや、ある意味弾薬という枷の無い分、近代戦よりも壮絶だ。
だがそれでも、要害と言えるような拠点を落とすことは難しい。
その為、双方共に要地を避け、小さな村や町から襲撃していった。
しかも物資は無人となった占領地からの現地補給。補給線など無視しての殺し合い、奪い合い。地図など何の役にも立たないほどのペースで勢力図を塗り替える。
こうして双方共に数を減らし合っていたが、全体を見れば、やはりジェルケンブール王国が圧倒していた。
人馬騎兵の破壊力と機動力、そして何より、その大きさが脅威となって守備兵を襲う。
防塁も堀もバリケードも、殆どが人間を相手に構築されたものだ。要害でもない限り、人馬騎兵が来た時点で覚悟するしかない。
パーシェ要塞群に入ったカルターは、そんな全体地図を眺めていた。
黒い軍服に毛皮の付いた赤い革のコートといった出で立ちで、鎧は付けていない。
ここは要塞陣地の中枢にある会議室であり、直近の戦闘は無いからだ。
会議室は地下ではあるが、魔道の灯りにより昼のように明るい。
部屋はビルの一階分はありそうなほどに広く、そこには将軍、参謀、事務員や伝令など数十名が集合していた。
ティランド連合王国軍は、現在作戦会議の真っ最中だったのである。
「伸びきったな。ここらが限界ラインか」
「そうですね。横槍の危険がある以上、人馬騎兵はこれ以上先へは行けないでしょう。あれさえ無ければ、我等に負けはありません」
ミューゼ参謀長が地図を指し示しながら状況を確認する。
開戦当初、国境が隣接していた国家群は人馬騎兵によって散々に蹂躙された。だが戦線が複雑化するに従って、人馬騎兵の動きは鈍くなる。
何と言っても虎の子だ。帰路を塞がれ包囲されるような戦線には投入できない。
一方で大型浮遊式輸送板による高速部隊は、手近な街や村を襲い奥へ奥へと進んでいく。
結果として、ジェルケンブール軍は連合王国領土を大きく切り取った半面、その戦線は限界点まで広がっていたのだ。
だが時間を置けば、飛び石となっている領土も人馬騎兵により陥落するだろう。
しかし今より早ければ、敵の数を前に不利な戦いを強いられた事も間違いない。
タイミングとしては今しかない。いや、この時を待っていたのだ。
「主力部隊で奴らの首都を落とす。そろそろ決め手が必要だからな」
カルターはカレンダーを確認する。
今は、碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月27日だ。
8月には魔族領侵攻戦が控えている。それを考えれば、6月には互いに停戦する事になるだろう。
たとえ大戦中であろうとも、人類全体の利益の為には従う。これは条約を無視して攻め込んだジェルケンブール王国も同じだ。
この線を越えてしまうと、もう人類全体から総スカンを食ってしまう。たとえこの戦争で勝ったとしても、次の外交戦は不戦敗だ。それだけは、避けなければならない。
だが今の状態で停戦すれば、ティランド連合王国は領土の多くを失う事になる。
何としてでも、巻き返す戦果が必要だったのだ。
そんな内情だったが、言うほど容易くはない。
ジェルケンブール王国も、その程度の事は重々承知しているからだ。
首都までの間に布陣するのは、人馬騎兵を擁する大軍勢。そして、それを指揮するのはクライカ王本人だろう。
完全実力主義の人間社会。そして四大国の一角の国王。決して無能なはずがない。
だがこれは相手にとっても最終ラインだ。それを抜けてしまえば、相手の首都までの道のりを遮る程の戦力は残されてはいない
そうなるまで戦線が伸びきるまで待ったのだから、むしろそうなって貰わねば困る。
そして北方に目を向ければ、こちらにはディノソラス王国領がある。
いや、もはや元と呼ぶべきか。
ここは既に国家としては機能していない。王家は滅亡し、秩序は失われた。
現在では、互いに牽制しながら戦力を削りあうだけの不毛の地へと変わっている。
ティランド連合王国としてはここを抜かせるわけにはいかず、ジェルケンブールはここを利用して消耗戦をしようという訳だ。
南方のケールオイオン王国の方は、奇跡的ともいえる勝利以来、膠着状況が続いている。
これは、マリセルヌス王国軍の奮闘の賜物だ。
こちらは北方と違い主力が健在なため、ジェルケンブール軍は迂闊に軍を動かせない。
もし下手に動かせば、それこそパーシェ要塞群のカルター軍に挟撃されるのだから。
一応は何度か牽制の動きを見せているが、本格的な侵攻は行われてはいない。
――北は多少不本意だが、南は予定より順調だな……ロイの奴も、思ったよりもやる。この様子じゃ、当分代理王から降りることは出来そうにねぇだろうな。
有利不利の差はあるが、どちらも戦線は膠着中だ。
直近に大きな動きはないだろう。
もし今の勢力図をそれぞれの国のカラーに色分けすれば、赤紫と黒のモザイク模様に見えただろう。
互いに地形を無視した高速移動手段を持ち、この世界の技術は防御よりも攻撃に特化している。
当たれば血液を沸騰させ即死させる矢、金属を切り裂くほど鋭く、また軽々と扱える巨大な武器。そして人馬騎兵や飛甲騎兵をはじめとした機甲部隊。
更に通信技術も発展しており、火薬が無い以外は近代戦とほとんど変わらない。
いや、ある意味弾薬という枷の無い分、近代戦よりも壮絶だ。
だがそれでも、要害と言えるような拠点を落とすことは難しい。
その為、双方共に要地を避け、小さな村や町から襲撃していった。
しかも物資は無人となった占領地からの現地補給。補給線など無視しての殺し合い、奪い合い。地図など何の役にも立たないほどのペースで勢力図を塗り替える。
こうして双方共に数を減らし合っていたが、全体を見れば、やはりジェルケンブール王国が圧倒していた。
人馬騎兵の破壊力と機動力、そして何より、その大きさが脅威となって守備兵を襲う。
防塁も堀もバリケードも、殆どが人間を相手に構築されたものだ。要害でもない限り、人馬騎兵が来た時点で覚悟するしかない。
パーシェ要塞群に入ったカルターは、そんな全体地図を眺めていた。
黒い軍服に毛皮の付いた赤い革のコートといった出で立ちで、鎧は付けていない。
ここは要塞陣地の中枢にある会議室であり、直近の戦闘は無いからだ。
会議室は地下ではあるが、魔道の灯りにより昼のように明るい。
部屋はビルの一階分はありそうなほどに広く、そこには将軍、参謀、事務員や伝令など数十名が集合していた。
ティランド連合王国軍は、現在作戦会議の真っ最中だったのである。
「伸びきったな。ここらが限界ラインか」
「そうですね。横槍の危険がある以上、人馬騎兵はこれ以上先へは行けないでしょう。あれさえ無ければ、我等に負けはありません」
ミューゼ参謀長が地図を指し示しながら状況を確認する。
開戦当初、国境が隣接していた国家群は人馬騎兵によって散々に蹂躙された。だが戦線が複雑化するに従って、人馬騎兵の動きは鈍くなる。
何と言っても虎の子だ。帰路を塞がれ包囲されるような戦線には投入できない。
一方で大型浮遊式輸送板による高速部隊は、手近な街や村を襲い奥へ奥へと進んでいく。
結果として、ジェルケンブール軍は連合王国領土を大きく切り取った半面、その戦線は限界点まで広がっていたのだ。
だが時間を置けば、飛び石となっている領土も人馬騎兵により陥落するだろう。
しかし今より早ければ、敵の数を前に不利な戦いを強いられた事も間違いない。
タイミングとしては今しかない。いや、この時を待っていたのだ。
「主力部隊で奴らの首都を落とす。そろそろ決め手が必要だからな」
カルターはカレンダーを確認する。
今は、碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月27日だ。
8月には魔族領侵攻戦が控えている。それを考えれば、6月には互いに停戦する事になるだろう。
たとえ大戦中であろうとも、人類全体の利益の為には従う。これは条約を無視して攻め込んだジェルケンブール王国も同じだ。
この線を越えてしまうと、もう人類全体から総スカンを食ってしまう。たとえこの戦争で勝ったとしても、次の外交戦は不戦敗だ。それだけは、避けなければならない。
だが今の状態で停戦すれば、ティランド連合王国は領土の多くを失う事になる。
何としてでも、巻き返す戦果が必要だったのだ。
そんな内情だったが、言うほど容易くはない。
ジェルケンブール王国も、その程度の事は重々承知しているからだ。
首都までの間に布陣するのは、人馬騎兵を擁する大軍勢。そして、それを指揮するのはクライカ王本人だろう。
完全実力主義の人間社会。そして四大国の一角の国王。決して無能なはずがない。
だがこれは相手にとっても最終ラインだ。それを抜けてしまえば、相手の首都までの道のりを遮る程の戦力は残されてはいない
そうなるまで戦線が伸びきるまで待ったのだから、むしろそうなって貰わねば困る。
そして北方に目を向ければ、こちらにはディノソラス王国領がある。
いや、もはや元と呼ぶべきか。
ここは既に国家としては機能していない。王家は滅亡し、秩序は失われた。
現在では、互いに牽制しながら戦力を削りあうだけの不毛の地へと変わっている。
ティランド連合王国としてはここを抜かせるわけにはいかず、ジェルケンブールはここを利用して消耗戦をしようという訳だ。
南方のケールオイオン王国の方は、奇跡的ともいえる勝利以来、膠着状況が続いている。
これは、マリセルヌス王国軍の奮闘の賜物だ。
こちらは北方と違い主力が健在なため、ジェルケンブール軍は迂闊に軍を動かせない。
もし下手に動かせば、それこそパーシェ要塞群のカルター軍に挟撃されるのだから。
一応は何度か牽制の動きを見せているが、本格的な侵攻は行われてはいない。
――北は多少不本意だが、南は予定より順調だな……ロイの奴も、思ったよりもやる。この様子じゃ、当分代理王から降りることは出来そうにねぇだろうな。
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