この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

襲撃 後編

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 ――ジャッセムの腕があっても、これは不利ですね……。

 飛甲騎兵に動力を送りながらそんな事を考えていると、目の前の金属板から突然指が生えてくる。
 魔王が座っている中央の椅子と動力士の間は、3センチほどの鉄板により隔離されている。断面図を見れば、竹の節の様な形状だ。
 だがそれが目の前で、粘土板の様にメキョリと剥がされ、その穴からエヴィアの覗き込んでくる。

「どうなっているのかな?」

 表情は無く、光彩は輝き、今までの雰囲気とはまるで違う。
 この逃げ場のない無い動力室で見るエヴィアの姿は、マリッカに恐怖と緊張を与えた。

「ゼビア王国軍の飛行騎兵に攻撃されています。正確に言うのであれば、間違いなくコンセシールの部隊ですね」




 後ろからマリッカの声が聞こえてくる。やっぱり壊したか。
 だが、これで会話が出来るのは少し助かる。

「どういう事だ!?」

「簡単です。ここで魔王を殺してしまおうと言う事でしょう。他に理由が要りますか?」

「そいつは冗談じゃないな。振り切れないのか?」

 言うと同時に飛行騎兵が縦に一回転し、その衝撃で内臓が口から飛び出す様な衝撃を受ける。

「ぐえっ!」

「しゃべっていると舌を噛みますよ。こちらの方が型は新しいのですが、如何いかんせん大型の三人乗りです。旧式とはいえ、速度と運動性はあちらが上ですね」

 ――任せるしかないのか……。

 飛行騎兵同士の戦闘は、大型の投射槍による遠距離攻撃と、衝角、翼刃による体当たりの二種類だ。
 互いに揚力で飛んでいる訳ではないため、でたらめな軌道でポジションを取り合う。当然、少しでも早い方が圧倒的に有利だ。
 しかも相手は3倍の数。状況は最悪と言える。
 というか、このでたらめ軌道の衝撃がきつすぎる。右への慣性が残っているのに上へ、そして下に。騎体が動くたびに、全身の骨が悲鳴を上げる。

 初めて乗った時はワクワクしたが、空を飛ぶ体当たり兵器の現実を目の当たりにするとキツい。脳が振り回され、吐きそうだ。

 ――ガガッ!

 右から金属の擦れる大きな音が響き、騎体が大きく傾く。

「大丈夫なのか?」

「少しぶつかっただけです。状況としては、あまり良くないですが」

 いつもの冷静なマリッカの声。だが少し、焦りも感じられる。
 こんなところで死ぬわけにはいかない。だが、どうやって打開する?
 ――そんな時だった。

 「魔王、墜とす?」

 テルティルト?
 ホテルに行く時のように、魔人が指示をすることはあった。だが、あの時はそれが必須事項だったからだ。
 彼らは基本的に放任主義で、こちらが言わない限り何かを言って来る事は無い。
 だがそれは、紛れもなく魔人が行った提案だった。

 テルティルト……他よりも積極的に口を出す魔人。それを加味したとしても、珍しい事だ。
 魔人もやはり焦っているのだ。行ってどうなるという事ではない。だがそれでも、俺達は一刻も早くユニカの元へ行きたい。その気持ちは、おそらく同じなのだろう。

「分かった。やってくれ」

 同時に、俺の体――正確には、張り付いているテルティルトの体に光の輪が浮かび、消える。

 その瞬間、外を見ていたジャッセムとマリッカは戦慄した。
 自分達を囲む3騎の飛行騎兵。それがまるで深海に缶を落としたように、ボコンと潰れ、墜ちていったからだ。
 互いが、不規則な高速移動をしながらポジションの奪い合いをしている真っ最中。しかも、胴体部分にあるのはたった一つの覗き穴。3騎を同時に確認することは不可能だ。
 だがそれを、見もせずに正確に当て一撃で落とす。

 マリッカは勿論、魔族であるジャッセムも驚く魔道の技。
 もし自分達が敵であったのなら、対処の術も無い。待っているのは理解すらできない確実な死だ。

 ――リッツェルネールは、本当にこの様な者達に勝てるのですかね……。

 マリッカは、心の中でそう呟いた。




 ◇     ◇     ◇




 翌日、リッツェルネールは宿泊しているホテルのロビーで報告を受け取った。

「やはり失敗したか」

「昨日の指令かい? あんたが失敗するとか珍しいねえ」

 平然としている彼を見ながら、リンダは少し意外であった。
 天才軍略家とうたわれ、完璧主義に見える彼の事だ。失敗でもしようものなら、さぞ悔しがるだろうと思っていたのだ。

「僕は失敗ばかりですよ。ただ成功した事だけが、喧伝けんでんされているにすぎません」

 そう……どれ程失敗しても、最後に成功を収めていればいい。
 今回の失敗も、魔王の力を見るのに役に立ったと言えるかもしれない。

 ――飛行騎兵3騎を同時に瞬殺か……。

 白き苔の領域戦。あの時、中央の命令で飛甲騎兵を突入させた。
 だがそれは、一瞬にして千騎以上が墜とされるという、とてつもない大失敗だった。
 あれに比べれば、魔王相手に3騎程度、大した損害ではない。
 どちらかと言えば、考えなければいけないのは別の問題だ。

 ――やはり、魔族相手に機械兵器は分が悪いか。だが使わなければ勝てない。使い処を見るためにも、まだまだ実験が必要だな。

 だが、当面は必要もなければ実験する余裕もないだろう。
 今はそれよりも先にやるべきことがある。
 オスピア帝は、コンセシール商国の当主に命を与えた。つまり、あの内示はまだ空手形だ。これから形にしなければいけない。
 それを終え、生きていたら続きを考えよう。そう思いながら、リッツェルネールは新たな電文を起草し始めた。
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