この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
207 / 425
【 それぞれの未来 】

謁見が終わり 後編

しおりを挟む
 では魔王が勝利したら?
 太陽が輝き、海の恵みも再び甘受できる。あの狭い魔族領を奪うなど、それこそ意味を失うほどの恩恵であろう。
 だがそれだけでは本質は変わらない。人は増え、やがて限界が来る。

 その時、人は選択する。
 魔王が再び恩恵を奪う事を恐れて人間同士で戦い続けるか、それとも魔王を打倒して未来永劫の安念を求めるか。
 結局、過去の人類は後者を求めて失敗した。だがそれは教訓にはならないだろう。
 散々に人間同士で殺し合い、和解し、人類一丸となって魔王を倒そうと団結する……それはもう、決まったサイクルなのだ。

 だが今度の魔王は、そこに寿命という新たな概念を導入するという。
 それは、誰もが等しく老い、そして死んでいく世界。
 わざわざ死に方を考える必要は無い。魔王が殺してくれるという事なのだから。
 当然、今より更に魔王への憎しみは募るだろう。なぜこの様な理不尽な死を迎えねばならぬのかと嘆くだろう。

 だが――確かに戦争は終わる。
 仮に何処かが始めたとしても、今よりも頻度も規模も桁違いに少なくなることは確実だろう。
 人類社会を維持するためには、より多くの子供を産み、育て、そして働けない老人を養わねばならなくなるのだから。
 しかも戦いで死ぬのは、若い働き手であり、同時に増えることが出来る繁殖期の人間だ。
 それを今のように簡単に、何百万、何千万と殺していたら、人類社会自体の存亡にもかかわる。
 とてもではないが、現在のような規模の戦争などやっている余裕は無い。

 余力が無い故の平和……結局、人類に不老とは過ぎた願いだったのだろうか。
 かつて、父やその仲間たちが願ったという。子供達に永遠の命をと。
 魔神はそれを叶えた。だが、不死を与えることは出来なかった。

 目を閉じ、考える……。
 リッツェルネールが作る徹底した管理社会。
 魔王が考えた、豊かだが寿命のある世界。

 どちらも問題を内包しつつも、今よりは良い世界ではある。
 だが、それは父や仲間が求めた楽園であるのだろうか。

「どちらにせよ……悪くは無い、それだけだの」

 オスピアは静かに立ち上がり、小さな謁見室を後にする。

「滅びるならそれも良かろう。だが、天秤にかけるべき未来は、ちと物足りぬ。先代魔王よ、お主が言う結末とは、この程度であったのかの……」

 扉が閉まり、そこには誰もいなくなった。




 ◇     ◇     ◇




「あれも買ってほしいかな。それと、あれもだよ。ユニカが欲しがっていたかな」

「魔王、砂糖も買って。沢山、大量に、積めるだけ全部」

 一度中庭まで戻ると、そこには飛行騎兵は無かった。もう本来の発着場に移動したそうだ。
 そんな訳で俺は観光も兼ねて買い物に来たのだが、こいつらかなり要求が多い。
 料理のレシピ本、編み物の本、衣服のカタログ、どれも魔族領では手に入らないものだ。
 もしかしたら無限図書館にはあるのかもしれないが、やはりこういった最新版は現地でしか手に入らない。

 そしてテルティルトに要求された砂糖。
 ケーキなら魔族領で作れるんじゃないか? と思ったのだが、どうにも砂糖が無いらしい。
 代用品なら幾らでもありそうなのだが、残念ながらその辺りの知識は無いそうだ。
 まあ、作るのが好きと食べるのが好きは違うから仕方ない。

「あのキメの細かい高級って書いてあるの! あれ買って!」

「分かったから興奮するな。バレたら大事なんだぞ」

 買い物をしている金属ドームのような建物は、どうやら複合施設の様だ。ぐるりと回れば粗方の買い物は済んだ。
 天井に輝くシャンデリアの光で眩しく照らされ、床はゴムのような感触だ。
 そこら中にショーケースで区切られたブースが並ぶ当たり、デパートの様子を思わせる。
 だが質実剛健とでも言えば良いのだろうか、あまりカラフルな感じは無い。商品が値段付きで並ぶだけで、少々味気ない感じもするな。
 この世界の人間は、あまり過剰宣伝には興味が無いらしい。

 砂糖に本に黒砂糖と高級砂糖、結構買い込んだが、それでも使った額は微々たるものだ。
 今後も人間世界に来ることになるとは思うが、その時お金に困らないのは助かる。
 用意してくれた人に、今度お礼を言いたいものだ。

「そうだ、マリッカは何か必要なものはあるか? これは経費みたいなものだから、必要なら言ってくれ」

「そうですね……ではこれをお願いします」

 そう言った彼女の手には、いつの間にか紙箱が収まっている。
 だんだんカラクリが分かってきたが、あれは擬態して透明になったアンドルスフが運んでいるんだな。たまには喧嘩もするようだが、いいコンビじゃないか。

「んー、アンドルスフが一方的に働かされているだけかな」

 そうとも言うな……

「それで、それは何だ? ええと……精力増強、妊娠確実、スーパー媚薬エリキシル×80倍……へえ、人口抑制している世界なのに、こんなのもあるんだな」

 薬用のようだし、それはそれで不妊治療などもあるのか。
 増やす行為と増えてはいけない社会。矛盾はあるが、世の中とはそういうものだ……って違うわ。

「まだ諦めてなかったのか」

「諦めるとか、そういった次元の話では無いと思いますよ。本当に人類を守る気は有るんですか?」

 そう言われると少し困ってしまうが、まあどちらにせよ――

「どうせ次の戦いには間に合わないだろ。そして、その戦いで終わらせる。悪いが、俺の子供を戦わせるような世界にはしないよ」

「そうですか。ですが、実際に世界がどう動くかは分かりません。貴方の予定通りにいかなかった場合、最終的には実力行使も辞さぬつもりです」

 思いっきり逆レイプ発言だ。俺に愛ある営みが訪れる日は来るのだろうか……。
 いつの間にか、彼女が手に持っていた紙箱も消えている。ああ、棚に戻しに行ったんだな。アンドルスフも大変だなー。




 こうして重要な1日が終わり、俺達は用意された部屋へと移動した。
 果たしてきちんと出来たのだろうか?
 予想通り、今回で和平とはならなかった。と言うより、試練を課された感じだ。
 これから数か月後に、人間の大規模攻撃が始まる。それを勝ち抜いた先に、ようやく和平……いや、和平へのきざしがあらわれる。
 大変だが、やるしかないんだよな。

 用意された部屋は複合施設の最上階。
 目の前に設置された樫作りの豪華な扉を見れば、タダの一般客用で無い事が判る。
 用意された資金といい、この部屋といい、それなにりに気を使わせているようだ。
 小市民としては逆に息が詰まるが、まあ、魔王という立場だからと納得しよう。

 そんな、呑気な気分で扉を開けると、そこは真っ暗な部屋。
 だが、明かりを何とかしよう思わなかった。
 なぜなら、そこに漂うのは薄緑の淡い光。
 死霊レイスのルリアが、中に居たからだっだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...