この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

謁見 魔王、相和義輝 その4

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 酷い話だ……。
 結局人類との戦いは避けられない。浮遊城とやらも出てくる。なかなかハードな展開だ。
 だけど結局はやるしかないんだよなー。
 既に引き返せない所まで来ているのは実感している。仕方がない、とりあえず俺も何か食べながら落ち着こう。

「これが甘かったかな」

 そう言って、ピクピクと動く目玉がいっぱいついた洋ナシのような果物を差し出してくる。
 今度は毒じゃないんだろうな?
 ――うん、確かに甘い。微妙に肉っぽい感じはするが、その点は考えない事にしよう。

 そんな魔王相和義輝あいわよしきを見ながら、オスピアは今までの魔王にはない違和感を覚えていた。
 会見の最初に、魔王がテルティルトを止めようとした。そしてエヴィアが冗談を言った。それが少し信じられなかったのだ。
 そして今も、何事もないかの様に会話しながら食事をしている。
 相和義輝にとっては、この世界に来てからの日常的な風景。だが、彼女からすればあまりにも異常な光景だ。

「魔神とは、随分と近い関係の様だの」

「へ?」

 近い……今一つ、言われた意味が解らない。
 だがそう言えば、初代魔王の娘だったか。全ての魔王とこうして会っていたかは分からないが、色々な魔王を見てきたのだろう。だが、今までと何か違うのだろうか?

「普通だと思うけど、何か違うのかい?」

「今までの魔王と魔神の関係はお主とは違うの。使役させるか、はたまた機械のような関係と言えばいいかの。だが、どちらにせよ常に怖れと隣り合わせであった。魔神もまた、それを分かった上で距離を取っておったが……。お主は、そ奴らといて恐怖を感じなんだか?」

 ああそういえば、魔王と魔人は長い間確執かくしつがあるんだったな。
 しかし恐怖? そんな事は感じた事も無い。
 勿論、魔人が俺に積極的に危害を加える事は無いだろうなとは思っている。
 だがそんな考え以前に、こいつらと敵対する道を感じ得ないのだ。

「ないですよ、そんなもの。なんて言ったらいいのかな……まあ、気の良い連中です」

「気が良いか……お主はどう思う?」

 そう、食事中のマリッカを見ながらオスピアが訪ねる。
 こちらが謁見中で緊張しているのに、さっきから平然と食って飲みしている神経のずぶとさは凄い。さすがは先代魔王の娘と考えていいのだろうか。

「そうですね、正直に言えば恐怖は感じます。今は抑えているようですが、神格をあらわにしたら咄嗟とっさに武器を握ってしまうかもしれません」

 だがそんなマリッカから出る意外な言葉。つかアンドルスフと一緒にいるんだろ?と思ったが、あれはいつも見えていないか。
 というか、お前さっき喧嘩しようとしていたよな?

 しかし神格ねぇ……。

「ピンと来ないけどな……」

「そ奴らは魔神……神であるぞ。分かっておるのか?」

 は? それはさすがに『この人は何を言っているの?』だ。
 左を見れば、エヴィアは蜜をたっぷりと乗せた林檎をもぐもぐと食べている。
 右を見れば、こちらはテルティルトが短い脚で器用にケーキを掴み夢中で食べている。まるでバキュームカーの様に食いまくっているが、欠片一つ飛ばさないのはさすがだ。執念すら感じるな。

「うん、こいつら只の食いしん坊です」

 だが冷静に考えてみれば、納得できる点も無いわけではない。
 大地を作り、生命を創造する。それは確かに神の所業ではある。
 あの日、エヴィアは『まじん』と名乗った。いや、そういう言葉に翻訳された。
 あの時俺は、その姿から魔人ととらえて今日まで来た。だが実際はどうなのだろう? あの時、もしかしたら魔神と名乗ったのではないだろうか……。

 人間は自分達に都合のいい神を作り、その言葉に従ったという。
 そして敵である魔族――それを守る、自分達が考えた最強の存在である神にも匹敵する力。
 それはまさしく、魔族の神だ。そういった意味で付けられた名前なのだろうか。
 だがしかし――、

 エヴィアとテルティルトの頭を撫でる。
 魔人達を、今更神様だとあがめる? それは有り得ない。

「こいつらはちょっといい加減で、呑気のんきで無責任で、そのくせ食い意地が張ってるけど、俺の大事な仲間……いや、家族だよ。今更神様とか言われても、もうこの関係は変わらないな」

「そうであるか……いや、良い」

 オスピアは前魔王との会話を思い出していた。確かにあの日言われたように、目の前の魔王からは何の才も感じ取れない。ごく普通の人間だ。
 だがそんな力なき人間が、魔神を家族と呼ぶ。
 おかしなものよ……人の世界から隔離され、同じ人間から命を狙われ、異形の者に囲まれ暮らす。狂気と孤独の世界であろう。だがそれでも自己を見失わず、それどころか人間との共存すら考えておる。

 これは確かに、目に見える才能ではない。だが、こじれ、歪み、からまってしまった人類と魔族の関係。それを壊せるのは、実はこういった人間なのかもしれぬ。

「やはり惜しいの、魔王よ。悪い事は言わぬ、魔族領は捨てよ」

「それは……海にでも逃げろという事か?」

「それも良し。だが、必要であればハルタール帝国が面倒を見ようぞ。そして魔族領を消し去っても、人の世は変わらない――その現実を人類が知った時、改めて人の世を変えればよい」

 それはすなわち、魔族領に住む生き物達を見捨てるという事か……。

「それは却下だな。俺には、彼らを見捨てることは出来ないよ。だから戦う道を選んだんだ。それに、なんかいきなり負ける前提になってないか?」

「相手が相手だ。正直に言ってしまえば、勝てぬだろうの」

「つまり浮遊城の使用許可を出した相手は、リッツェルネールであるという事ですね」

「彼か!?」

 まさか彼と戦う……いや、今までも実は戦っていたのかもしれない。しかし面と向かって戦う事になるとは思っていなかった。
 そもそも、確か結婚して人間世界で暮らす様な事を言ってなかったか? なぜそうなったかは色々あるのだろうが――、

「彼は強いのか?」

「強いというか、軍略に関してなら右に出る者はいませんよ。なんと言いましょうか、真綿で首を締める様な戦い方が大好きな男です」

「戦略、こと軍略に関しての専門家エキスパートだの。これまでの、中央を介した緩慢かんまんとした攻め方ではない。次の魔族領侵攻戦は、具体的かつ迅速に行われるであろう」

 二人から説明が入るが、正直戦略とか軍略とか全く分からい。いや、言葉くらいは知っているが、具体的にどうするのかは想像もつかない世界だ。
 だがまあ、かなり大変な相手だという事は理解できる。今のままでは、確かに厳しいかもな。

「心配してもらえるのはれしいけど、俺はやっぱり逃げるより戦う道を選ぶよ。それは、この世界で魔王になった時から変わっていないさ」

「意固地な男であるの」

「誉め言葉として聞いておくよ」
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