この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

謁見 魔王、相和義輝 その3

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 ようやく交渉の始まりだ。
 一つ小さな深呼吸をして、いよいよ本題に入る。

「人類が作った壁。そこを線引きとして、不干渉ふかんしょう地帯を作る。人間と魔族、互いに不可侵だ。将来的には友好関係を築きたいと思うが、それはまず戦いを止めてからだな」

「まあ妥当な要求であるの。だが、魔族領侵攻戦はいわば遠征。疲弊はせども、社会をくつがえすほどの事ではない。一時的に止めたとて、百年もすれば再び攻め込むだけよの」

「そうならない為に、こちらから人間に提供する物がある。太陽と海だ。空を覆う雲は消し、海の魔族は元の住処すみかへと戻す。人間世界は今よりずっと豊かになるはずだ。だけど、魔族領に攻め込むのならそれは没収だ。太陽と海の恩恵が大きいほど、今の状況には戻りたくないだろう? 後は、人間社会で問題を解決していけばいい」

「確かに魅力的には聞こえるの。だが海は別として、太陽は同じことを考えた魔王がかつてもいたの」

「他にもいたのか?」

 それは初耳だが、そういえば昔は壁が無かったんだ。今より人間と魔王との距離も近かっただろうし、交流の結果そうした魔王がいてもおかしくはない。
 だが今は太陽が隠れていし、ゲルニッヒも嫌がらせだと言っていた。
 まあ魔人が嫌がらせをするとは思わないので、魔王と色々とあったわけか。

「うむ、かつて太陽が出ていた時期はあった。だが最も近いのは1万5千年以上の昔であるの。当時は領域も豊かで、人も大いに発展した。だが……」

「結局は飽和したわけか」

「そうだ。平和であるほど、そして社会が安定するほど人は増える。当然、増えた人間は死なねばならぬ。結局、人間が増えるほどに、争いは激しさを増しただけであったの」

「それでまた隠したのか。魔王は相当に恨まれただろうな」

「そうだの。だからお主の提案は、既に失敗した道だ。それで平和がなるという甘い考えであれば捨てよ。最後には、今とは次元の違う規模の殺し合いが待っているだけぞ」

「……ああ、そうだな」

 この辺りは予想していた。いや、俺が考え付く程度の事など、全て実行されていたと考えていいだろう。人間は馬鹿ではないのだから。
 だが、ここからの事。それは、まだ誰もやったことが無いと確認済みだ。そして問題を根本的に解決するためには、俺はこれしかないと思っている。

「だから……寿命を与えることにするよ」

 その言葉を、魔人達は静かに……いや、モグモグと食事をしながら聞いていた。
 様子が全く変わらないので、魔人達の考えは分からない。だがスースィリアの様子を見るに、気にしてはいてくれているのだろう。しかしそれでも、俺の決定と覚悟を認めてくれているわけだ。

「そうか、寿命か……」

「やはり、知っているか。そうだ、この世界に召喚された人間達には元々寿命があった。それを前提とした命なんだ。だけど、こっちの世界では寿命が無い。だから色々とおかしくなっているんだよ」

「一つ伺いますが、ジュミョウとは何ですか?」

 マリッカは知らないか。まあ先代魔王が教えなかったのだろう。

「要するに、30歳くらいになるとだんだん衰え始めて、100歳になる頃には死ぬ、そういった……うーん、自然のシステムみたいなものかな」

「それは最悪ですね。私の人生設計はどうなるのです? そんな事をされるのなら、ここでいっその事……」

 急激にマリッカの殺気が膨らんでくるのが判る。こいつ本気マジだ!
 ――が、透明な何かがその後頭部をボカンと殴る。首がもげるような音がしたが、怪我は見られない。なかなか頑丈だ。

「アンドルスフ! 手を上げましたね!」

 だが相当頭に来たのだろう。椅子から立ち上がり、後頭部を押さえながら左右を見まわしている。
 正直、ここで喧嘩を始められても困る……。

「大丈夫だ、マリッカ。既に不老の人間には関係ない。これから生まれてくる人間だけだよ」

「フロウという言葉は分かりませんが、問題が無いのなら好きにしてください。アンドルスフは、後で話があります」

 そう言いながら着席する。
 まあマリッカが本気っぽかったので、アンドルスフは魔王の方を優先したのだろう。
 その辺りは古からのしきたりのようなものだ。何とか喧嘩は避けてもらいたい。

「話が逸れたが、そういう事だ。寿命があれば、人間は戦争どころじゃない。これからはいかに人間が死なないように、そして長く健康でいられるように考えるはずだ」

「寿命に手を出すか……それかかつての魔王達すら手を出さなかった事ぞ。永遠に若く生きたいという人の夢、それを踏みにじり永遠の苦しみを与えるか」

「その永遠に若く壮健なままだけなら文句はないよ。だけど、この世界はそれじゃ維持できない。自己満足の為に殺される魔族はたまらないんだよ」

「なるほど、考えは分かった。だがわらわの知る限り、その変更は全世界規模であるの。魔王よ、お主は耐えられるのか? 魔神達はどうなのだ? 許すのであるか?」

「魔人は魔王の決定に従うかな。それはオスピアも知っているはずだよ」

 パイナップルの様な果物を皮ごと食べながらエヴィアは賛成してくれる。まあ、魔人から反対は出ないだろう。
 俺としても、リスクを考えればこの手札は切りたくはないさ。
 人類と魔族による和平と未来の為に、俺は廃人化する。だが同時に、空に貯まった歴代魔王の憎悪……人間を憎む気持ちもこの世から消える。
 次の魔王は、きっと俺よりももっと上手くやるだろう。

 俺がこの結論に至ったのは、別に全てを投げ出して死にたいと思ったからじゃない。だけど、永遠に人を殺し続ける人生に、俺の心は耐えられないと予想できてしまったからだ。
 そういった意味では、マリッカ……いや、先代魔王の計画も考慮はしている。
 だけど今この話は無しだ。俺自身の心が決まっていない事を、口に出しても仕方がない。

「そうか……。ならばお主は人類の敵。人類から永遠を奪ったわざわい。それこそ世界最悪の魔王として永遠に呪われるであろうの」

「そりゃまあ、そうなりますよね」

 覚悟はしての決断だったが、改めてチクチク言われると居心地が悪い。
 彼女としては、やはり人類側に立つ身なのだろう。
 だけど分かっているはずだ。この世界は歪んでいる。どこかで誰かが正さなければいけないと言う事を。

「しかし、それもお主が死ねばご破算であるな。次の魔王がその考えを継承する保証はないの。やはり、この辺りの話は全てが終わってからよの」

「あー、その件なのですが……」

 俺は正直に、俺が死んだら次の魔王は誕生しない事、そしてその時は魔人が人類を滅ぼすことを話した。
 いや、隠しておいても仕方が無い事だしな。

「それはまた……面倒な事になっておるな。あ奴め、そんな重要な事を相談もせずに決めておったか」

 そう言いながらオスピアはエヴィアを見る。
 一応確認をと言う事なのだろうが――

「事実かな。魔王が死んだら、魔人は人類を滅ぼすよ」

「そうか……だが、それが真実かを実証する術は人類には無いの。やはり魔族領侵攻は止められぬ。精々死なぬことだの」

「いやまあ、死ぬつもりはないですけどね」

「どうかの。実は先ほど、浮遊城の使用許可を出したばかりでの。だが出したものは仕方がない、対処は任せる」

 何という他人事感!

「その浮遊城って何ですか? 確か門の近くにあったと思ったけど」

「人類最上の決戦兵器であるの。7つの門にそれぞれ配置されておる。壁は所詮壁でしかない。実際に魔族から人間世界を守るのは、浮遊城の力よの」

「そんな大事なもの、動かしていいのかよ。つか動かさないでくれ」

「お主がもう1日早ければ許可は出さなかったやも知れぬ。だが過ぎた事だ。善処を期待するの」
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