この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

軍事施設

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 ハルタール帝国ロキロア。
 ゼビア王国との戦いに備えて潰された入り口も復旧し、現在では普通に通行可能になっている。
 まだまだ国内に敗残兵が潜伏するなど情勢に混乱は見られるが、外見上は概ね普段通りであった。

「はい、セキュリティチェックは終わりと。いやー、仕組みは壁と同じって聞いてたから緊張したけど、問題無くて良かったよ。あはははは」

 山肌に掘られたトンネルを抜けた青い飛行騎兵。コンセシール商国のものだ。
 壁と違い上空からでも通れるが、そんな事をしたらさすがに集中攻撃の的だろう。
 だが一度抜ければフリーパスである。上空から見るロキロアは周囲を切り立った山に囲まれた円形で、内側にはきちんと区画された畑が放射状に並ぶ。
 所々には金属ドームの建物が密集しており、それらは住居だったり商店だったり軍事施設であったりと用途は様々だ。
 そして中央には大きなドーム状の宮殿、そして離れたところにレンガ造りの小さな離宮が建っている。

 ――あそこが会見場所か……。

 リッツェルネールは移動経路の確認を済ませると、宮殿近くに飛行騎兵を下ろす。
 会見の日はまだ先だが、これからは要人として近くて宿泊する事になっていた。

「僕はこれから色々と用事がありますのが、リンダは自由行動で良いですよ。適当に観光を楽しんでください。ですが、一応は夜には宿舎に戻っている様に」

「わかってるって、その辺りはあたしも弁えてるよ。それで、会見はいつなんだい?」

 リンダと呼ばれた女性。長いストレートな金髪に、鼻筋の通った美人顔。そしてかつて相和義輝あいわよしきを惹き付けた豊かな胸を持つ。
 美しいドレスを着て黙っていれば何処かの貴婦人にも見える容姿だが、ガラの悪さは相変わらずだ。
 元の名前はノセリオ・コンベルディエント。魔王に係わったことで色々と人生設計が壊れてしまった人物だ。
 だが今では新たな名前と正規の身分を手に入れ、こうして彼の補佐官として働いていた。

「4月16日です。今日が10日ですから少し待たされますが、向こうはあの”女帝”ですからね。仕方ないでしょう」

 そう言いながら、リッツェルネールは宮殿近くのホテルへと入って行った。




 ◇     ◇     ◇




 碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月14日、魔王相和義輝あいわよしきはケルベムレンの街に到着した。

「これはまた、面白い所だな……」

 垂直な、崖の様にそびえ立つ石垣の上から、何本も束ねたロープが下まで斜めに引かれている。その上をせわしなく行き来する浮遊式輸送板。まるでロープウェイを上下逆にしたような景観だ。

「一度上に行き、そこで事務報告を行います。1泊したらロキロアへ出発します。それと買い物も良いですが、行きに買うと後が大変ですよ」

 まるで、初めて修学旅行に行く小学生相手のような注意をされる。
 よっぽど、目がキラキラと輝いていたのだろう。何と言っても、初めてまともに見る人間の街だ。ワクワクを押さえられない。

 上に行く浮遊式輸送板に乗る際に身分証明書の提示を求められたが、それ以外はノーチェック。さほど警戒は厳しくないらしい。
 乗った時に渡された紙には9999.98と刻印されている。これがレシートってやつか。金銭感覚はよく判らないが、使ったのは0.02金貨となる。

 ――金属板にデータを入れる技術に、紙のレシートか……。

 小数点以下の貨幣計算という概念は変わっている。だがそれより、技術レベルには驚くしかない。
 発展させる方向性が大きく違うだけで、世界が違えども、やはり人間は様々なものを開発していくのだ。

 登った先は整備された耕地が広がり、その奥には金属ドームの建物が密集して建ち並んでいる。
 確か初めて入った街、ランオルド王国だったか。あそこにもあんな感じの建物が並んでいた。この世界の一般建築の形なんだろうか。

「先にコンセシールの駐屯所に行きます。付いて来てください」

 マリッカはそう言うと、スタスタと先に歩いて行ってしまう。いや待って、置いて行かないで!




 ……何か奇妙な感じだな。街を見ながらそう思う。
 俺のいた世界と違い、建物は四角ではなく円形のお椀をひっくり返したような形状だ。
 外壁には溝の様な窓が付いている。数からして、大程どれも2階か3階建てだ。
 色は微妙に差異があるが、大体はグレーの金属質。
 商店らしい建物には、窓に雑多に服や家具、食品サンプルなどが値段付きで飾られていた。おそらくデパートのような複合施設なのだろう。

 高級そうな服付いている値札には6.02、あまり美味しそうではない薄いスープと駐屯所で食べた硬いパンのセットは0.064。仮にスープセットを640円と考えると、バス代は200円、服は6万2百円か……渡された金額を考えて、少しドキッとする。
 かなりの金額をポンと渡されたわけだ。相当な金持ちなのか、または魔王という存在に過分に気を使ったかだ。

 道は円形と四角で区切られ、道幅は広い。互いが交わる部分に大きなスペースが出来ているが、そこはたまに走っている浮遊式輸送板の停泊場のようだ。
 地面はきちんと清掃された石畳で、人も多く交通量も少なくはない。やはり中世のような未発達ではなく、人間社会は高度な社会体制を敷いているようだ。

 だが、やはり俺の知る世界に比べると違和感が多い。
 街には看板といったようなものが無く、あるのは精々案内標識位なものだ。
 建物の色合いや季節の関係もあり、全体が殺風景に感じる。だが、それだけではないだろう。

 街を歩く人々が、皆若いのは今更だ。だが子供の数が少ない。これも抑制されているからだろうか?
 それに何より、街に活気というものを感じられない。
 人々は若く見えるが覇気は無く、どこか虚ろな目をして黙々と歩いたり仕事をこなしている。
 実際には何十年、或いは百年二百年と生きている人達。戦うために戦い続けた社会を生きる人々。彼らの心を推し量るには、俺には経験が足りな過ぎるな……。

 ドーム建築の中に入ると、さらに驚いた。
 入ってすぐに建物の案内図が表示されていたが、それを見る限りだと、ここの地下は13階層。地面の下が、こんなになっているとは思わなかった。
 住居や事務所、それに倉庫に利用されているが、中には食料プラントや上下水道整備装置区画などの文字も見える。見た目以上に近代的だ。だが――

「あの表示を見た時は、絶対にエレベーターがあると思ったんだけどな……」

「なんですか、それ? そろそろ着きますよ」

 一度地下8階まで下りて、今度は地下3階まで登り。全部鉄階段だ。カンカンという軍靴の音が狭い階段にずっと鳴り響き、俺の足はもうパンパンだ。
 利便性に関しては考えられていないのか……。

「ここは軍事施設だからよ」

 耳元でテルティルトが囁いている。それでこんな造りなのか。
 本来なら直通路なんかもあるのだろうが、権限の関係だろう。
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