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【 それぞれの未来 】

あの日の出来事 後編

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「で、なんでああなったんだ? 俺はリッツェルネールやカルタ―王に救われたんだが? つかさ、何で檻に入りっぱなしだったんだよ」

「マリッカが疲れたーって言ってさぼってたからだよー。檻は演出さ。捕まっていたように見せないと、色々と説明が面倒でしょー」

「サボっていたのではありませんよ、アンドルスフ。あれは休憩というのです。大体、余計な人間は全て魔人が排除する約束だったでしょう? なんであんなに居たんですか。領域を出るまでに何日かかったと思っているんです? そもそも貴方たちの計画はいつもずさんで……」

 なんか変な方向に話が脱線しているな。察するに、大量の人間に侵入されて対処が遅れていたと。
 それで場当たり的に対処している内に、彼らが来てしまった訳だ。あそこでラジエヴが攻撃してきたのは、それを排除するためかな。
 だが倒せなかった……この際これでいいやと考えたのか、それともラジエヴが本当に追い返されたのかは謎だな。今度本人に直接聞いてみよう。
 さて、向こうが口論している内に、こっちも聞いておこう。

「エヴィア、なぜイヤンカイクって魔人は、魔王と一緒に消滅したんだ?」

「イヤンカイクは魔王付きかな。最後まで行動を共にするよ。それに正式に引き継ぐためには、前の魔王は死んでいないと出来ないかな。人間は一人で死ぬのは寂しいんだよね? だから一緒に死んだんだよ。これは昔からの約束だよ」

 なるほど、魔王を殺すのは魔人……以前にも聞いている。
 引き継ぐだけなのに、なぜ先代は死ぬ必要まであったのか疑問だったが、そういう事か。そしてどっかの魔王が、一人で死ぬのは寂しいとか言ったと……。
 まあ情けないとは思わない。人それぞれ宗教や生死観はあるしな。だけど――

「俺付きって言うと、エヴィアだよな。いや、たとえ違ったとしても、その約束は今後無効だ。俺が死んでも、誰も後を追う必要は無い」

「それが魔王の決定なら従うかな」

 エヴィアは少し、寂しそうな微笑みを見せた。
 一緒に死にたいという訳ではないな。俺の死とは、すなわち人類の死だ。その場合、どちらにせよ人との生活を求めたエヴィアという生き方は終わってしまうのだろう。

「それで、そっちの話は終わったかい?」

「ええ、大丈夫です。魔王としての父に関してはオスピアさんに聞いてください。私より、ずっと多く会っていますから」

 なるほどねー。ここまで何度も来ているって事は、結構風来坊だったのだな。あの魔王の居城にも、やはりあまり居なかったのだろう。居心地悪いしなー。

「まあ良いか。詳しい事は、そのオスピアさんに聞こう。そういえば金貨とか銀貨とかを色々と持ってきたんだが、使えるかな?」

 そう言ってジャラりとテーブルの上に金貨を置くが――

「どれも古い貨幣ですし、見た事の無い国の物です。これでは使えませんね。現地でいきなり出されないで良かったです」

「やっぱり国ごとに違うのか―。そんな気はしていたけど、金としての価値はどうなんだ?」

「そうですね――」

 そう言いながら幾つかの金貨を握り――そのままギュっと握り潰した。
 唖然あぜんとする俺の前に、ごろりと潰れた金の塊が転がる。いやどんな握力だよ。その腰の短剣、いらないだろ!

「こうして金塊にすれば換金も容易ですが、一応は渡した身分証に当座のお金は入れてあります。それを使うと良いでしょう」

「え!? これ財布なの?」

 そう言いながら確認するが、薄っぺらい金属板だ。効果や紙幣が入るような部分は一切無い。

「当面、1万ハルタール金貨に換算するデータが入っています。登録は銀行で行いますが、正規の店であればそれで支払い出来ますよ」

 へえ、電子マネーみたいなものかな? すると――

「この数字は残高とかか?」

「そんなわけないでしょう。頭から、生まれた先年暦の番号、年号、月、日――」

 頭の数字は43-1-1-1……先年暦で43と言うと4万3千年目の暦か。人類社会の歴史の長さを今更に知ったな。その後は1月1日か。うん、適当に決めた感が強いな。

「その後ろが登録された血統番号に、現在の血族数、それに貴方の直系血族数です。階位っていうのは身分ですね。14が最低で、その下は非登録市民です。階位が8になると、地方議員の資格を得られますよ。頑張ってください」

「いや、頑張らないよ!」

 俺の数字は57122-2-0。つまりコンセシールって国の57122番に登録されている血統で、血族は俺ともう一人……ああ、エヴィアか。それで子無しと。
 うん、大した情報は無いな。正に偽造と言う適当な値だ。こういう所はもう少し凝って欲しい気もするが、おそらく気にする人間などいないって事だろう。

「残高は買い物をした時にレシートを貰えますから、それで確認してください」

「分かった。買い物に不安が無い点だけ分かれば十分だよ。この金貨は君が使ってくれ。身分証に入れてくれたお金の、当面の補填だ」

「かしこまりました」

 彼女のその言葉を合図に、互いに食事を済ませ出発した。
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