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【 それぞれの未来 】

魔王とマリッカ 前編

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 マリッカが2頭連れてきた時点で判ってはいたが、移動は徒歩ではなく馬だ。
 騎乗なんてのは生まれて初めての経験だが、言葉が通じるのはありがたい。
 後ろにエヴィアもちょこんと乗っているので、まあ振り落とされることは無いだろう。

「それにしても、君達は人間に飼われているんだろ? 魔王を運んじゃっていいものかね」

『そだねー、いいんじゃない?』

 馬の返事は何ともいい加減だ。深くは考えていないように見える。
 まあ意志疎通は出来るが、根本的に知力が違うのだから仕方が無い。難しい思考はしないのだろう。
 だが、いつか炎と石獣の領域で見たムカデよりも馬鹿っぽいのはどうなのよ。
 しかし考えてみれば、馬に命令してもらえば人間の騎馬隊を無力化できたのではないだろうか? 今更ながらに、そんなことが頭をよぎる。

「出来たかな。でも魔王が命令しないからしなかったよ」

 くそー、何という放任主義。

「常々思っているんだが――」

「そろそろ野営地です。そこで休憩しましょう」

 少しエヴィアに聞きたい事があったが、先にマリッカから声がかかる。
 確かに馬に乗りっぱなしは疲れる。休憩できるのはありがたいが――

「そういや聞いてなかったな。目的地までは何日かかるんだ?」

「8日間です。途中町にも寄りますが、基本は無人地を通ります」

 なるほど……やはり警戒の為だろうな。
 こんな大氷原ではなく、もう少し人間世界を見たかった気もするが仕方が無い。立場が立場だ、そこは弁えよう。

 そんな事を考えていると、遠くの方に小屋が見える。
 石造りだろうか、大きくはないが堅牢そうな建物だ。あそこが今夜の宿という事か。

 入口はうまやと一体型になっており、中に馬を止めて更に奥へと入る造りだ。住む場所というよりも、完全に旅人仕様だなこれは。

「どんな人間が、こんな場所を利用するんだ?」

 誰が用意したのか分からないが、ちゃんと飼葉も準備してある。普段はどんな目的で使われているのだろうか?

「ここはかつての狩場の中継跡と聞いています。今では永らく放置されていましたが
 貴方の為に準備したのですよ」

「それは助かるよ」

 彼女はさっさと奥の扉を開け、やはり石造りの部屋へと入っていく。
 後ろにくっついて入ると、中はそれなりに広い。中央には八角形の小さなテーブルが設置されており、その周囲を囲むように木の長椅子が置かれている。その奥には荷物を置くためだろうか、大きな棚が置かれ、その更に奥には金属製の2段ベッドが配置してある。

 ただ外程では無いが、中も相当に寒い。ここで野営と言っても……。
 そう考えていたが、マリッカはテーブルの下で何かをすると、部屋全体が温まってくる。

「これは暖房か? この世界にもあるんだ」

「どうやって生活していると思ったんですか? それにホテルにも設置されていたでしょう?」

「ホテルはそれほどには寒くはなかったしな。それにしても、やっぱりホテルを知っているか。それに君が来たことにも驚いたよ」

 暖房の使い方は分かりませんでしたってのは、言わないでおこう……。

「そうですか? まあ自由に動けて魔王を護送できる人材は限られていますからね。私が選ばれたのは近くにいたからでしょう」

 そう言って外套をばさりと脱ぐと、壁に掛ける。
 今までよくわからなったが、やっぱり女性だ。
 背はやはり160センチ程で、全体的に少しむっちりとした女性らしい肉付きが見て取れる。
 髪も見えていた通りの白銀で、エヴィアと似た感じの丸みのあるショートカット。ただ前を伸ばしており、両目をその前髪で隠している。ちょっと変わった髪型だ。

 下に着ていたのは、襟の立った白い軍服に青い膝上丈のスカート。軍服の襟と胸ポケットには階級章のようなマークが付いている。
 これ服装やマークにも微妙に見覚えがあるが、スカートについている三つ星に流線の模様は忘れようもない。確かコンセシール商国の紋章だ。

 というか、軍服はあつらえではなく普通の物なのだろう。押さえつけられた胸元が不自然なほどに、それこそぼわんと擬音が付きそうな程に主張している。今にもボタンを弾き飛ばして出て来そうな迫力だ。
 見ていいものか……いや、なんとなく見るのが気恥ずかしくなって、つい目を背けてしまう。

(魔王も男ですね……)

 そんな相和義輝あいわよしきの様子を見ながら、マリッカは魔王の脳内ポジションをスケベの位置に移動させた。

 とりあえず、俺の外套になっていた部分はにゅるりと収納され、エヴィアも既に脱いでいる。先ずは座って一休みだ。

「身分証で予想はついたけど、君はコンセシール商国の人間だったんだな。リッツェルネールだったか……彼は息災かな?」

 知り合いかどうかは分からないが、人間が残した資料では、それなりに偉かったと思われる。同じ国の軍人なら、知っていてもおかしくはなさそうだ。

「そう言えば顔見知りでしたね。報告書によると、最初は牢屋に入っていたとか。そこで会ったんですよね」

「ああ。今から考えれば出来レースだったんだろうが、それでも命の恩人だと考えているよ。こんな立場じゃなければ、会って挨拶したいところだ」

「確かに魔王という立場では、気軽に会って昔話とはいかないでしょうね。あの人は元気に動き回っていますよ。少々困るくらいです」

 俺の言葉を冗談だと思ったのだろうか? マリッカは出会って初めての微笑みを見せた。
 正面から見ると、右の瞳は完全に隠れているが、左は碧色の瞳が少し見えている。斜めに切ったいびつな髪型だ。
 大きな瞳に少しふっくらとした頬。かなりの童顔に見える。そして少しでも下に視線を向けると、そこにそびえる凶悪なブツ。視線に困る……。
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