この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

開戦 後編

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「コンセシールが売った以外の線は無いだろうな。共同開発でもライセンスでもない。あれは商国の騎体だ」

 ユベントは魔族領で実際に人馬騎兵を見ている。もしジェルケンブールで独自に作ったのなら、外装はその国に合わせて微妙に差異が出るはずだ。だが街を業火に包んだ黒い人馬騎兵の形状は、完全に以前見たものと同じだった。違いといえば塗装位なものだ。生産工場は同じと見て良いだろう。

「商国からの資料によれば、開発は4年前となっています。年間生産量は20騎とも申請されていますね」

「いや、それだと開発から量産化までの期間が短すぎる。おそらく、もっと以前に基礎設計は終わっていたはずだ。そこから開発、試作、そして工場の建設、技術者の育成……量産に入るまでかなりの時間が必要だろう。それに申請された年間生産量も出鱈目でたらめだろうな。商人なぞ、信じるものじゃない」

「では既に?」

「ああ、相当量が作られていたと考えるべきだな。そうでなければ、奴――リッツェルネールはゼビア王国に300騎もの大口契約は出来まい」

 今考えてみれば、これから受注してから生産という形での300騎購入は有り得ない。完成まで何年も待つのであれば、なぜゼビアは直ぐに開戦した? 随時運ばれてくる公算があったから始められたのだ。

「もう300騎出来上がっていたと? 事前生産にしても少し多すぎると思われますが」

 確かに、お披露目分や不良時の交換などを考えても、50騎も在庫があれば十分だろう。売れ行きが好調なら、以降は注文に応じた受注生産に切り替えればいい。そうすれば、もっと早くに販売を開始できたはずだ。
 だがコンセシール商国は、300騎も貯め込んでいた。その在庫ストックの考えられる使用意図は……。

「奴の事だ、我等ティランド連合王国相手に独立戦争をするつもりだったのだろう」

「確かに……主力は魔族領に遠征中でしたし、もし300騎の人馬騎兵に攻め込まれたら対処は難しかったでしょう。あの国は世界でも異例の6千を超える飛甲騎兵も有していますし。でも状況が変わった……?」

「おそらく何かがあったのだろうが……」

 魔王討伐戦の後、商国はユーディザード王国に12騎の人馬騎兵を供与した。
 だがあれは、運用テストという名のお披露目会であった。各国から重鎮が使節としてカルタナ盆地に赴き、その圧倒的な力を宣伝した。

 ロイ・ハン・ケールオイオンが戦わずして撤退したのは、勿論実験データを満載した人馬騎兵の保護もあった。だがそれ以上に、各国の要人に万が一があってはならないからだ。
 そしてその中には、ゼビア王国の大使もいた……。

「いや、違うか」

 ユベントは独り言を呟き、思考をまとめる。
 それでは時期が合わない。

 もっと早くから輸送を開始しなければ、百騎近くの人馬騎兵は運べない。組み立て、起動試験、解体、そして輸送……かなりの時間が必要なのだ。

「どうして彼はゼビア王国に売ったのでしょう? その……独立戦争に使わずにです」

「その方が得と感じたからだろうが……」

 だが、その得が何処を向いての事だったのか。奴はコンセシールの商人であると同時に軍人だ。どちらの思考で考えたのかは分からない。

「それと、ゼビア王国に売ったはずの人馬騎兵がジェルケンブール王国にある理由もです。正直言えば、これが一番理解できないのです。海路が使えない今、輸出規制が始まった時点でジェルケンブールへの輸出は出来ないはずでしょう? 商国は両国へ同時に販売していたのでしょうか?」

「それは無いだろう。増えれば増えるほど機密は漏れやすくなる。特に一度売り始めてからは、世界中の注目の的だからな。そんな事をすればどこかしらが気付く」

 何と言っても、組み立てての起動試験は目立ちすぎる。各国諜報員だけでなく、民間人もあの新兵器には興味津々だ。世界中のマニアが注目する中、隠し通すことは出来ないだろう。

「いや、待て。輸出規制が始まった時期はいつだった?」

「確か今年の1月17日発令です」

「それまでにゼビア王国に運ばれた数は?」

「そうですね……確か90騎前後だったと思いますが」

 ユベントの頭にカレンダーが書き込まれる。魔族領での戦いから、今日までの間にあった出来事。それを改めて考えると、一つの結果が導き出される。

「間違いないな……奴は保有していた人馬騎兵の全てを、名目上はゼビア王国に売った。だが実際にはジェルケンブール王国にも流していたんだろう」

「それはさすがに契約違反ではないでしょうか? 途中から商品が来ない、しかもそれを別の相手に売ったとなれば、商国の信用は失われます。いくら彼でも、商人は商人です。それはしないと思いますが」

「いや、ティランド連合王国が行った輸出規制。これを前提にしていたのだろうな。理由は分からないが、奴はそれが行われる事自体を読んでいた。だからその前に、組み立て前の状態で運んだのだろう。それなら目立つことも無い」

 パナーリアは顎に指をあてながら考えるが、やはり幾つかが判らない。

「それだけの輸送となれば、新規の運送組織を支度しなければいけません。その時点で判りそうですが……」

「あそこには海運を専門としていた商家がいる。だが海が使えなくなって手空きのはずだ。そいつらをそのまま陸路に回せば、新組織を立ち上げる必要はない。それに海の混乱で各国の貿易状態も大きく変わったからな、増減自体にはさほど注目がいくまい」

「部品のまま運んだとして、組み立てはどうするのです?」

「あそこは大国だ、組み立て工場くらいは直ぐに作れるだろう。それに魔族領を国内に抱えている事も大きい。その周辺はいつ魔族が出てくるかも分からない状況だ。当然、戒厳令下にある。そうなれば、外国人もわざわざそんな所には行かない……機密は守られているはずだ」

「では……」

 パナーリアの端正な顔に困惑の色が浮かぶ。考えられる状況は最悪であった。
 リッツェルネールの考えの全ては分からない。いや、人の考え全てが判る人間などいない。
 だが一つ確実に分かる事がある。奴は自分達で独立戦争を起こすのではなく、ジェルケンブール王国を利用してティランド連合王国を瓦解させようというのだ。
 だとしたら、商国はこれ以上在庫を抱える必要が無い。ジェルケンブールの戦力は多ければ多いほどいいからだ。

「至急本国に連絡しろ! ジェルケンブール王国は200騎を超える人馬騎兵を保有している可能性が高い。知らずに戦ったら壊滅の恐れがある。」

 ユベントは配下に銘じ、本国及び近隣全ての国家に対して警告を発した。
 だが後手を踏んだことは否めない。開戦で先手を取られ、更に情報面でも後れを取った。
 最前線の国家は、もはやバラント王国の様に成す術なく潰されるだろう。

 ――商国が降伏した時、奴だけは始末しておくべきだった……もし次にまみえる日が来たら――必ず殺してやるぞ、リッツェルネール)

 遠くで燃える城塞都市を後にし、ユベント率いる部隊はこの地を去った。
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