この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

開戦 前編

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 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月24日。
 ティランド連合王国外周に位置する国、バラント王国首都ヨンネル。
 外周およそ63キロメートルを、高さ15メートルの金属製の防壁が囲む。
 世界でも名の知られた城塞都市であり、その威容は巨大な要塞の様だ。

 都市中央には高さ200メートルを超す螺旋状の王城が聳え立っており、その白い輝きは国家のシンボルとして国民に親しまれていた。
 深夜、その尖塔の先から白いドレスの少女が飛び降りる。バラント血族、その最後の一人……。
 夜の街は炎に包まれ、その中を漆黒に塗装され、幾何学的な水色のラインを施された鋼鉄のケンタウロスが行軍し、蹂躙する。ジェルケンブール王国の人馬騎兵隊だ。


 この国は、元々政治的な混乱の中にあった。
 本来の王位資格者であるケスターマン・バラントが魔属領への遠征中に、国内に残ったシェルズアニー・バラントが王位を継承してしまったのだ。
 その為国内は双方の派閥に分かれて対立。ケスターマンが戦死しカルタ―が本国に戻った事で少しは落ち着いたが、一度分裂した国家の軋轢あつれきはそう簡単に修復できるものでは無い。

 だが一方で、防備は完璧であった。
 首都同様の城塞都市を4つ配し、その連携により他国の侵略を打ち破る。その為に歴史とも言える程の長い時間をかけ、土魔法で根本的な国土の地形すら変えた。
 更にこの国は重甲鎧ギガントアーマーの運用に長けており、防衛戦においてはティランド連合王国でも上位に位置する国家だ。

 もしあの日、相和義輝あいわよしきが奇襲という選択をしなければ、いきなり200以上の重甲鎧ギガントアーマーに追い返され全ての歴史は変わっていただろう。

 だがそれでもやはり、その用兵は人間を相手にする事を前提に考えられてきた。





 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月13日。
 ジェルケンブール王国先鋒隊が140万人の正規兵と200万人の民兵。それに30騎の人馬騎兵がバラント王国の国境を越えた。
 その圧倒的な進軍を止める術は無く、国境沿いの街、そして2つの城塞都市はその日の内に陥落した。

 そして2日後、3つ目の城塞都市が陥落する頃になって、ようやくバラント王国は防衛の支度を整え始める。
 どの城塞都市も、本来なら数十倍の数を相手にしても1か月以上は耐えられる計算だ。政治の対立による遅れがあったとはいえ、バラント王国の動きは決して遅くは無い。だが人馬騎兵が相手では遅すぎた。

 218年3月15日、何一つ戦う支度が整わないまま王都は戦場になった。
 それでも9日間、人馬騎兵の猛攻を耐えた事は称賛に価する。王都守備軍であるバラント重甲鎧ギガントアーマー500人、そして正規兵20万。そして急ぎ搔き集められた数十万の民兵隊。あらん限りの知恵と力と勇気を振り絞り、絶望的な戦力を相手に奮戦した。
 だが結局、それだけであった。

 城門が破られると同時に、黒き殺戮者達は都市内部へと突入した。
 バリケードを破壊し、金属ドームの建物に大穴を開け、そこへジェルケンブール王国の兵士が雪崩れ込む。
 それはもう、戦闘と呼べるような状態では無かった。
 国王であるシェルズアニー・バラントは王宮で最後の抵抗を試みるが、圧倒的な数のジェルケンブール兵を相手に討ち死に。残った者達も、戦死か自害により果てた。




 ◇     ◇     ◇




 闇の中、赤々と燃え上がる炎と立ち昇る煙。一つの国が亡びるさまを、援軍として到着した”死神の列を率いる者”ユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵は装甲騎兵の指令塔キューポラから眺めていた。

「陥ちるのが早すぎだろう、話にならねえな」

「将軍、どういたしますか?」

 淡い金髪の髪を掻きながら業火に包まれた街を見つめる彼に対して、一人の女性が話しかけた。
 見た目の年齢は20より少し下位だろうか。長い栗色の髪は後ろに束ねて留めてあり、右目には水晶の方眼鏡を装着。その奥に光る茶色い瞳と固く引き締まった美貌からは、いかにもお堅い切れ者といった印象を受ける。

 紫色の軍用コートに白の軍服。下はコートと同じ紫の、動きやすいミニのスカートを履いている。コートの両肩には金のフレンジがあしらわれ、襟と胸元の階級章は、ハーノノナート公国公爵家血族であり、同時に将軍職である事を表していた。

 パナーリア・アル・ハーノノナート。公国血族の人間であり、同時にユベントと同じ将軍だ。
 ユベントは本来の公爵家の人間に“公爵閣下”と呼ばれることを嫌ったため、自分の事は将軍と呼ばせていた。それは同時に、政治には関わらないという意思表明でもあった。

 一方で、パナーリアは将軍としては二流だが、政治家としては一流であった。この二人が夫婦にでもなればと周囲は考えていたが、実際はそう簡単な話ではない。

 ユベントは今年で197歳。死別した3人の妻との間に9人の子をもうけ、直系子孫は47人になる。またパナーリアは305歳。先立たれた8人の夫との間に13人の子をもうけており、直系子孫は97人。互いに、自分の子や孫、ひ孫達ら子孫の為にも、自分達の子供はこれ以上増やしたくない立場であった。

「どうもこうも無いな。俺達じゃ、あの数相手に手は出せない。お前には策があるのか?」

「いいえ、ありません。私は人馬騎兵を見るのは初めてですが、それほど厄介なのですか?」

 現在のユベント軍の装甲騎兵は四千騎。本国の防衛隊まで全てかき集めての数であり、魔族領での損失は全く埋まっていない。
 それでも、歩兵を相手にするだけなら十分だ。浮遊しながら高速で移動し、しかも全面重装甲の機動兵器。例え何十万人の兵がいようと、恐れる要素は飛甲騎兵くらいなものだった。

 だが人馬騎兵はこれより早く、また強さも圧倒的だ。装甲騎兵の射出槍では当たり所が良くない限りは倒せないし、ボウガンなどかすり傷も付けられない。
 一方で、あちらの兵装は一撃で装甲騎兵を破壊できる。倒せる可能性がある分”蟹”よりマシだが、そもそもの数が違う。受ける被害は同等と予想されるだろう。

「厄介なんてレベルの相手じゃないな。一応、外に出て来れば戦いようはある。だがそれも、損失を無視すればの話だ。市街戦では、どうあがいたって歯が立たんよ」

「ユベント将軍でもそうなのですか……それでは、出るのを待つしかありませんね。ですが……」

 パナーリアが言葉を止めるのは珍しかった。彼女は、常に全ての事は考えてから話すタイプであった。結果として時に無口にはなるが、口ごもることはめったに無い。

「ですが、どうした?」

「いえ、彼らの保有する人馬騎兵です。報告によれば、各戦線合わせて60騎を超える数が確認されています。一体いつ、どのようにして揃えたのでしょう?」

「そうだな……」

 幸い当面の戦闘は無い。ユベントは熟考し、状況を精査する。
 おそらく――、
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