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【 それぞれの未来 】

いつか必ず

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 ――そこは、雨の降る山林だった。
 石を切り出したような剥き出しの巨大岩の上に、豊かな森が広がっている。
 巨大岩はかなりの高低差があり、壁は垂直だ。スースィリアなら登れるが、徒歩で此処を越えろと言われたら即Uターンする自信がある。

「かなり寒いなここは。それに雨が結構きつい」

「ちゃんと全身覆っているでしょう?」

 確かにテルティルトは雨ガッパのような形状になってくれている。
 それに雨粒はぼたぼたと大きいが、雨足がきついわけではない。だがこの領域は結構寒いので、精神的に来るのだ。
 一方で、エヴィアは着ていたセーターを体の中に収容していた。かなり大切にしているようで、なんだかこちらが嬉しくなる。

「魔王もいつかは貰えるかな」

「そうだと良いんだけどな。そういや、ここは竜の住処なんだっけ? どんな竜が住んでいるんだ?」

「向こうから来ているのである。もうじき接触するのであるぞ」

 既にスースィリアの触角が捉えているらしい。だが視界が悪いな。
 そんなことを考えながら辺りを見渡していると――来た。
 全体のフォルムとしては爬虫類。そして巨大な翼は確かにドラゴンだ。氷結の竜アイスドラゴンと違い、後ろ脚が大きく前足は小さい。彼らと違い、二足歩行型だ。全長は尾まで含めて20メートル程だろう。
 巨大生物ではあるが、同じ竜種の氷結の竜アイスドラゴンと比べるとかなり小さく感じる。
 全身は鮮やかな緑の鱗に覆われ、縦長の瞳もまた美しい緑色。いや、単なる緑ではない。少し透けていて、僅かな明かりがその中で反射し、美しい光彩を放つ。

「あれは翠玉竜エメラルドドラゴンか!?」

 同時に一つ疑問が出る――すぐに目を閉じ領域の許可を確認する。最初の頃は全く分からなかったが、さすがに微生物レベルまでやると掴んでくる。彼等には領域の移動許可は出ていない。

【魔王よ、よくぞ我らの地に来た。全ての翠玉竜エメラルドドラゴンは貴殿を歓迎しよう】

 眼前に現れた竜の、低く澄んだ声が雨の中に響く。
 やはり彼らも氷結の竜アイスドラゴンと同じく、魔王を歓迎するのか……。
 地に降りた翠玉竜エメラルドドラゴンは魔人達に対しては首を垂れ、やはり崇拝の姿勢を取っている。竜たちの習性、そういったものだろうか。

「なあ、リアンヌの丘に君達の仲間がいたはずだ。何か知っているか?」

 かつてリアンヌの丘には翠玉竜エメラルドドラゴンが住んでいた。それをリアンヌとかいう人間が死を賭して討伐した――そう聞いている。

「ジャラックはあの地に住む者たちを愛していた。だから前魔王が領域に戻るよう命じた時、彼は自らの翼と足を引き裂き、彼の地に残った」

「それで倒されてしまったのか……」

 少し複雑な気分だ。もしも……。

「なあ、君達の領域移動を許可したら、君らは人間に復讐するのか?」

 もしも彼らが自由に移動できるのなら、仲間を助けるために人と戦ったのだろうか? そして今、彼らに復讐心はあるのだろうか?

「魔王よ、それは我らが同胞の事を考えてくれたからだろうか? ならば感謝する。だが、我等は自らの力の大きさを知っている。魔人の命が無い限り、無用に人間を殺すような真似はしない」

 無用に……その言葉で多少は察することが出来た。仲間は助けただろう。だがそれ以上の事はしなかった。そういう事なのだろう。

「君達の領域移動を許可する。もしも必要な時が来たら、共に戦ってほしい」

「了解した。我らに指示する魔人の声は、如何なる所からでも届く。必要があれば、いつでも命ずるが良い」

「助かるよ。それで、この地域の魔王魔力拡散機の場所を知っているか? 精霊にはまだ会っていないけど、ここにもいるし、当然あるんだろ?」

「この地域の魔王魔力拡散機は無限図書館にあるかな。精霊もそこにいると思うよ」

 エヴィアの意外な知識! いや、誰か他の魔人から記憶を共有しただけかもしれないが。しかし無限図書館……なんとなく心をそそられるな。

「多少の寄り道は予定済みだ。スースィリア、そこへ向かってくれ」

「分かったのであるぞー」




 ◇     ◇     ◇




 それは遠くから見た時、何の飾りも無いチョコレートケーキに見えた。
 天井は平らで、全体は円形だろう。表面は艶やかな漆黒で、天井と壁の境目さかいめは少し丸みを帯びている。
 直系は20メートルはあるだろうか。高さは8メートル程もあり、かなりの大きさだ。

 場所はかなり標高の高い位置にあり、地上からでは行く気にもならなかっただろう。と言うか、地形の関係で下からでは見つからない。
 一見したところ入口は見つからないが、近くに行くとギギギギギと金属が擦れるような音がして、淵に沿って両開きの扉がスライドして開いていく。
 自動ドア? だが建付けは相当に悪そうだ。それに錆びているのだろうか、開き方がぎこちない。
 と言うよりもですね……。

「真っ暗なんだけど……」

「明かりが無いと、魔王はどうしようもないね。地道な努力が実を結ぶって誰かが言ってたよ」

 そう言いながら指差したところにあるのは、取り付けられた魔導炉だ。
 魔道言葉を覚えないと、本すら読めないのかー。初心者用の魔法教本みたいのがあると期待していたが、これでは仕方が無い。やっぱり魔法を覚える前に、基本中の基本らしい魔道言葉とやらを覚えないと、どうにもならないか。
 少し残念だが、いずれ手段を考えよう。

 離れると再びギギギギと音を立てて扉は閉まっていく。
 いつか必ず、戻って来るぞー!
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