この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

人間の世界へ 前編

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 人間の世界に行く事が決まって10日。エヴィアらの魔人と共に様々なパターンをシミュレートし、ようやく俺は人間界に向けて出発した。
 まるで面接練習の様相だったが、実際どんなきつい追及が来るか分からない。考えすぎと言う事は無いだろう。
 並行して人間社会の事を勉強したが、理解できたのは精々国の名前くらいだ。実際の所は、行ってみないと分からない。何と言っても、常識も文化も俺の世界とはまるで違うのだから。

 途中までの移動はスースィリア。人間世界まで一緒に行くのはエヴィアとテルティルト。
 エヴィアは既に人間に交じっても、全く遜色がない程に表情と仕草を学んでいる。多少常識に問題ありだが、これは目をつむろう。いざというときの頼もしさは折り紙付きだしな。
 問題は……。

「今度はいきなり剥がれないでくれよ。会談中にマッパになったら全部お釈迦だ」

「わかってるわよー」

 本当は下に服を着ておきたいが、裸でないと張り付けないというのだから仕方がない。
 形状は、現地で用意してくれた服を真似ると言う事で決着がついた。今はいつもの魔王服だ。

 ヨーツケールはユニカの移動手段としてホテルに残すことに。なんだかんだで一番相性が良いらしく、いつも収穫に連れて行っているので問題ないだろう。

「任せろ、魔王よ」

 ウラーザムザザはもうじき南極行きという事で今回はパス。
 そしてゲルニッヒには付いて来てほしかったが、やはりあの姿は人間社会では目立ちすぎる。そんな訳でお留守番だ。

「一応、海岸まではついていきマスヨ」

 多少の不安はあるが、このメンバーで確定だ。

「海岸までは火山帯から、西に行っての竜の住処、それに更に西の幽霊屋敷ゴーストハウス? だったな」

「そうなのである。吾の足ならすぐに通り抜けられるのであるぞ」

 まあスースィリアに乗って行けば大丈夫だろう。
 俺は最初、また偽の身分証明書とかを使って入るのかと思ったが、それは無理らしい。セキュリティは万全という訳だ。おそらく、最初に身分証を貰えたのはカルター王の計らいみたいなものだったのだろう。

 因みに飛んで行くか、地下を進むかとも思ったが、こちらもダメ。地上はおよそ上空1000キロまで揚力が失われる仕掛けで、鳥すらも一度壁の上に降りないといけないらしい。地下も結構深くまであり、しかもその下にはセンサーがあるそうだ。
 どちらにしても、越えることは出来ても同時にばれてしまう。あまり騒ぎになったら、今度は人間世界で移動が困難になるだろう。

「じゃあ行ってくる。みんな、朗報を楽しみにしていてくれ」

 そう言いながら、2階でこちらを覗いているユニカに手を振って出発だ。
 これでやっと人間と話し合える。これ以上、無駄な血が流れないように……。




 ◇     ◇     ◇




 魔王がホテルを出発した日。
 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月13日。
 東の大国ジェルケンブール王国は、ティランド連合王国へと攻め入った。
 第一次動員総兵力は、正規兵士800万人。民兵7500万人。飛行騎兵2千騎。大型浮遊式輸送板12万枚。そしてその中に、鋼のケンタウロスの姿が混じる。

 およそ4000キロメートルに渡る国境線全域からの進軍。正規の兵士だけでも、1回の魔族領遠征に相当する軍勢だ。
 もし人工衛星などがあれば、国境線に沿って燃え上がる炎が見えただろう。

 その報告を、カルターは執務室で聞いた。

「そうか……仕掛けてきたか」

 慌ただしく報告に来た事務官に対し、カルターも、また同席していたハーバレス宰相にも、動揺は見られない。
 内心では驚いている。だがそれ以上に、結局こうなったかという思いの方が強かったからだ。

 ――お互い生きていたら……か。オスピアめ……。

 おそらく、あの通信会談の時点で既に分かっていたのだろう。慧眼には恐れ入るが、もし条約違反をする国があればジェルケンブール王国だろうとの予測もあった。
 彼らが魔族領の次は自分達の番だと思っていたように、世界もまた、魔族領の次はあの国だと思っていたのだから。これはある意味、お互い様というものだ。

「しかし、我々も舐められたものだな」

 多少、面白そうな感情の籠るカルターの言葉に、ハーバレス宰相も頷いた。

「我々がどんな国だったのかを、少し思い出せてやるのも一興でしょう」

 ティランド連合王国。徹底した軍事政策を行ってきた軍事国家。
 軍事しか知らない、戦しか出来ない……その弊害は、何処の国もが知るところだ。
 だが逆に言えば、ただそれだけで人類社会を生き抜き、超大国にまで拡張した国家。こと戦争においてのみなら、何処の国にも負けないだけの事をしてきたのだ。

「北の飛行騎兵は残し、他は動かす。コンセシールの包囲も解いて良い。先手は取られたが、ただそれだけの事だ」

 既に続々と、各地からの急報がもたらされている。カルターの意識は完全に軍務にシフトし、対策を考え始めた。だが頭の隅に、一人の男の影が浮かぶ。
 ジェルケンブール王国軍に混ざっているという人馬騎兵――コンセシール商国、いやリッツェルネール……奴が動いていた事は間違いない。さて、いったいこの戦争に、どれだけ関与しているのか。
 常識で考えれば、小国の一武官が大国の戦略に係わる事は無い。だが商人という側面から考えれば、関与の余地はいくらでもある。

「俺も出る。王位継承順位を軍事態勢に変更しておけ」

「畏まりました。それで、浮遊城はいかが致しますか?」

 浮遊城、人類最強の決戦兵器。この世界には、現在11の浮遊城が存在する。
 中央を介して作れらた、七つの門を守護する七つ。ティランド連合王国、ハルタール帝国、ジェルケンブール王国がそれぞれ1つ。そしてムーオス自由帝国が建造中の1つだ。

 建設には最低でも三百年、長いものでは七百年の歳月がかかっている。更に武装の準備にも百年以上が必要となる。膨大な物資と資金、そして時間を消費し、維持するだけでも大変なものだが、その戦闘力は折り紙付きだ。
 もし万が一失えば、残った方がこの戦争で勝利する。誰もがそう考えるだけの物であり、それ故にいきなりの博打では使えない。
 出すとしたら、最後の最後、それを使わなければ滅びる所まで追い詰められてからだろう。
 その為――、

「動かさん、向こうも動かさないだろうしな」

 深々としたハーバレス宰相の礼を見ることなく、カルターは慌ただしく執務室を飛び出していった。
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