この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

服と武器 中編

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「思い出?」

「殆どの魔王は、わたしたちを憎んで、罵ったの。そして恨みをもって、壊れて、死んでいった……それでも、わたしたちには魔王が必要だったの。だから魔王が死ぬ時には新たな魔王を召喚するけど、怖くて会いたくはないのよー」

 うーん……と少し考える。確かにシステム上、魔王が必要なんだろう。だが召喚された人間は納得しなかった訳か。そして仕事を押し付けられた上に、何度も何度も死を体感する。
 しかも同じ人間との交流は無しか。どのくらいの間生きていたのかは分からないが、相当に孤独だったに違いない。その気持ちは多少は解らないでもない。だけど――、

「もう既に一回死んでいるんだから、多少は納得してもおかしくは無いんだけどな、俺みたいにさ。そういや気になってたんだ。俺と今までの魔王の召喚って、何か違いがあったのか?」

「今まではまぁ、てきとーかなー。魔人を生贄にして他所から生き物を召喚するんだけど、取り敢えずで魔王に適合するのを呼び出していたの。より正確に言うと、こちらの世界にコピーを作るのよ」

 ――生贄? また物騒な言葉が飛び出した……。

「だけど貴方の時は、先代の魔王が選別を行ったのよ。他の手順は同じよー。その方法は先代魔王と共に消えちゃったけど、案外何処かに書き写してあるかもよー」

「俺が選ばれた経緯は不明か……だがなんとなく分かる気がする。それにしても、手順が同じって事は魔人を生贄にしたのか?」

「そうだよー。わたしたちは無から生物を作る事が出来ないの。だけど、わたしたちの体に複写する形でなら、他の世界の生き物を作れるのよ」

 死は魔人にとって最大の興味……ゲルニッヒが言っていた言葉だ。おそらく魔人には――いや、魔人次第ではあるだろうが、生贄になる事にあまり抵抗が無いのかもしれない。
 それに領域に関しての三段階。その最後も察しがついた。

 壊れてしまった領域の修復には俺の魔力。そして真っ新な地を領域にするには、それに加え魔人の技。そして領域に命を呼び込むには魔人の命。おそらく本来なら、2番目と3番目は順序が入れ替わるのだろう。

 だがそう考えると、この体は魔人のものか……案外、それで今まで魔人達に危険を感じていなかったのかもしれない。そしてそれは、代々の魔王も同じだったのだろう。
 ならば、もうちょっと優しく接してやれとも思う。
 待遇は悪かっただろうが、話せば気の良い連中だ。中にはそうでもなかった魔王もいたのだろうが、基本的にロクでもない関係をズルズルと引っ張って、結果、互いの奇妙な距離感が出来上がったのか。

 ん……? 何かが心に引っかかる。だがそれは小さくて、曖昧で、一体何が引っ掛かったのかは俺には分からなかった。

「とりあえずありがとう。色々知る事が出来たよ。人間側では向こうの服にするけど、魔王としての服のデザインはちょっと検討しよう。色々変えれば、かなり格好いい服になると思うんだ」

「そうねぇ……じゃあ、脱いで」

 魔人テルティルトの言葉は簡潔で判りやすかったが、意味を理解するまでに暫く呆然としてしまったのだった。

 ユニカはエヴィアとヨーツケール、それにゲルニッヒの3人の魔人を伴って水路へ食料調達に出かけていた。
 魚や貝を採るのは主にヨーツケールの仕事であり、ユニカは指示役。他二人はただの見物人だ。
 そんな中、魔人ゲルニッヒの視界の先に魔王が映る。

「オヤ、魔王があそこにイマスネ」

「スースィリアもいるから分かりやすいかな」

 そんな二人のガヤを無視しつつも、やはりユニカとしては魔王が気になって視線を動かしてしまう。
 そこでは今まさに、魔王が服を脱ぎ全裸になっているところだった。

「服を脱ぎ始めたかな。温かくなってくると、おかしな人が出るって誰かが言ってたよ」

「マァ、まだ冬なのデスガネ。ハハハ。ユニカさんは見ないのデスカ?」

「そこ! うるさいわよ! 口だけじゃなく手だけを動かしなさい!」

 指示された二人の魔人がすごすごと水路に降りていくのを見送りながら、魔王はいったい何をやっているのだろうかと、少し腹立たしさを覚えていた。



 ◇     ◇     ◇



「一応全部脱いだけど、これでいいのか?」

 魔王相和義輝あいわよしきは言われるがままに真っ裸になっていた。
 この領域にも四季があるとはいえ、本来の自然よりずっと暖かい。凍える事は無いが、それでも少し恥ずかしい。

「いいわよー。じゃあお邪魔して……」

 そう言うなり、尺取虫シャクトリムシの体が白い餅のように変化する。
 あれ? これは確か、魔人が他の魔人と融合する時になる形では……。
 嫌な予感が全身を駆け巡る。だがそんなこちらの感情などお構いなしに、テルティルトは液状になってぞわっと両足から登ってくる。かつて掘られた記憶が呼び覚まされ、慌てて尻穴を抑えてしまうが……。

「それとは違うわよー」

 そう言うと体に張り付き、その姿、色合い、質感が見る間に変化する。
 白い液状だった体は、革とも金属とも言えないような質感に変化し、見た目は服とも鎧とも言えないような奇妙なデザインに変化する。高い襟が付いているが、全体は甲殻類の外骨格を纏ったと言えば良いのだろうか?
 色は赤と黒を基調にし、甲殻の接合部分は鈍く金色に輝いている。この配色は、やっぱりこいつの趣味だったか。
 だがこんな変化をしてしまっては――テルティルトの命のカタチが崩れてしまう!?

 しかしそんな心配をよそに、テルティルトは以前その名を保っている。
 不定形……それが本来の姿なのだろう。とは言え……。

「この格好で人間世界に行ったら、それこそ一触即発なんですが」

「ここから変えるのよー」

 よく見れば、首もとに小さな尺取虫の顔がある。声はここからか。そんなことを考えていると、ふぁさっといつもの魔王服に変化した。

「おー、こうやって変えるのか! これなら確かに、デザインさえ別にすればバレそうにないな」

 そう言いながら足を上げると、靴底部分もしっかりと覆われる。一応手と顔は剥き出しだが、必要に応じておおってもらえばいいだろう。
 だけどこうしたって事は――

「もしかして、付いて来てくれるのかな?」

「あたしもいくよー。魔王一人だと危ないしねー。他に付いて行けるのはエヴィアくらいでしょう?」

 確かにその通りだ。幸い、エヴィアは人間と見分けがつかない程に仕草と表情を覚えている。一緒に行っても問題無いだろう。だがやはり、共が魔人一人だけなのは心もとなかったところだ。

「吾も行きたいのであるぞー」

 スースィリアは少し不満そうだが、それは無理だ。今回は戦争に行くわけじゃない。

「スースィリアはお留守番を頼むよ。それとテルティルト、武器も作れるか?」

 生兵法は大怪我の元と言うが、生きるか死ぬかの一線を越えるかもしれない状況になるかもしれないのだ。選択肢は多い方が良い。
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