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【 大火 】
三人の魔人 後編
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「他の生き物はどうなんだ?」
「「「勿論、全ての生き物に共通です。我々は、人間だけを特別視はしません」」」
「だがそれが失敗だった。人間は特別である、そう彼らは考えていたのだ。だが我らは人間と他の生き物の間に差を付けなかった。それが彼らの不満を爆発させた。なぜ自分達を特別視しないのか? 我等はそれに正しく答える事が出来なかった。」
「やがて、人間は自分達に都合の良い神を作り出し、その考えに従うようになったデシ」
「それで他の生物との間に軋轢が生まれたのか?」
「「「それは正しく、少し違います。他の生物とではなく、人間同士で軋轢が生まれました」」」
「人間同士?」
一瞬の疑問を呈したが、聞く必要はなかったかもしれない。3人集まれば派閥が出来る。その時点でどれだけの人間が集まっていたかは知らないが、神を作り社会を構成するほど……おそらく相当の年月があったのだろう。
「人間の中は、他の生き物と共存すべきと言う意見と、この星を人間だけの世界にすべきだと言う意見に分かれたデシ。我々は暫く静観したデシが、最終的に共存の意見を採用したデシ」
「その共存派の代表の一人が、初代の魔王だ」
途中から薄々は察していた。魔人は人間と他の生き物との区別をしなかった。もし俺の世界に強大な力を持つ神のようなものが存在し、「これからは人間と同じ権利を他の動物にも与えよ」、なんて言ったら大変な事になる。絶対に、あの邪神……偽神を討伐しろとなるだろうな。
だが同時に、それに従おうとする者もまた出てくる。そのリーダーが、人間にとって都合の悪い存在――魔王と呼ばれることになったわけか。
「それまで人間に与えた特権。どうしてそれを剥奪しなかったんだ?」
領域の移動制限、それを剥奪するだけで問題は解決すると思われる。後は他の生き物と同じように、増え過ぎたら減り、減り過ぎたら増え、ギリギリのバランスを保ちながら生きていくだろう。万が一絶滅しそうになったら、その時だけ干渉だけをすれば良い。閉鎖された社会だ。きっと、それこそ神と崇められることだろう。
「「「我々が作ったシステムは、長い時間をかけて複雑に組みあがっていました。管理は一人の采配に任せ、領域の移動などは種別ごと、寿命などすべての命に関わるものは全体にという様に作られており、変える事は出来ませんでした。人間種を制限する事は、魔王を制限する事と同じです。これには複雑な安全装置を設けており、今日まで干渉したことは有りません」」」
成る程なと思うと同時にふと疑問が出る。共存派のリーダーが権限を持っていたから良かったが、そうで無かったらどうなったのだろう?
だがそんな考えは霧のようにふわっと消える。考えてみれば、自然な流れだ。
おそらく人類の我が儘は、魔人にではなく管理人たる人間――魔王に向けて発せられたのだ。だがここまでの話だと、まだ魔人は致命的な失敗をしていない。責任の丸投げ前だ。
上司に魔人が居て、下の人類からは突き上げをくらう。中間管理職である魔王の辛い立場が目に浮かぶようだ。
「魔王と人類の確執はそこからなのか?」
「微妙に正しいデシ。人類は遂に、魔王を殺せば世界管理システムを奪えると考えるようになったデシ。そして、魔王を殺そうとしたデシ」
「その為、我らは人類をこの世界から消した……いや、失わせたか? いや、滅亡させたのだ」
一瞬眩暈がする。当時の人類がどのくらいの数かは分からないが、全て殺し尽くしたのか……。
いや待て、そうすると魔王は!?
「「「烈火のごとく怒りました。我々は、彼以外の全ての人類を殺したのです。彼の家族も含めてです。当時の我々は、システムである魔王さえいれば問題ないと考えていました」」」
「我々はやってはいけない事をしてしまったのだと、その時になって気づいたデシ。我等は反省し、魔王の為に新たに人間も召喚したデシ。今度こそは大丈夫だと思ったデシ」
「それでまた失敗したのか……」
「全く同じ事が繰り返された。だが我々は、再び人類を絶滅させる愚は犯せなかった」
そこから先は、もう聞かなくても大体分かる。
新たな人間種もまた、以前の人類種と同じ権限を持っている。魔王がそうだからだ。そして同じように行動し、結局同じ考えに至り、魔王を糾弾し、最後は泥沼の戦争へと突入したのだろう。
だが魔人は同じ結果にはしたくない。だから、人間をどこまで間引くのか……そういった辺りの線引きを、同じ人類である魔王に一任したのだろう。
増え続ける自分たち人類を殺し、魔族を守る存在……そりゃ拗れるよな。
ごつごつとした岩肌の天井を見ながら考える。いっそ、ホテルで永遠に暮らすか……。
人類種の領域移動禁止。魔王も動けなくなるが、それが一番手っ取り早い。
事情を話せば、ユニカは案外分かってくれるかもしれない。そうでなくても、長い時間を掛ければ次第に打ち解けてくれるだろう。最悪別居だが、幸い住む所は沢山ある。
産まれてくる子はちょっと大変だ。なんと言っても人間は父親と母親しかいないのだ。エヴィアは居てくれるだろうが、それでも寂しがるだろう。もしかしたら、一生……それこそ何千年も恨まれるかもしれない。だがそれで、人類と魔族の間に恒久的な平和が訪れるのだ。
こうして考えると、魔王の子供を人間社会に流すのは、案外真っ当な事だったんだな。
いや、待てよ? もし俺が欲望に負けて、10人とか20人とか子供を作ったらどうなるんだろう。
最も遠い血縁でも2×2のインブリードだ。繰り返される近親相姦は止められず、相当な不幸が予想される。だがやがては増える。そして一度軌道に乗れば鼠算だ。いずれは一つの領域では狭すぎる事になり……。
うーん、少し前に絶滅しない程度に放っておけばいいと考えたが、いざ自分の子供となるとそうもいかない。結局は、平和と言う名の不幸を押し付けるだけで本質は何も解決していないのだ。だが――、
「「「勿論、全ての生き物に共通です。我々は、人間だけを特別視はしません」」」
「だがそれが失敗だった。人間は特別である、そう彼らは考えていたのだ。だが我らは人間と他の生き物の間に差を付けなかった。それが彼らの不満を爆発させた。なぜ自分達を特別視しないのか? 我等はそれに正しく答える事が出来なかった。」
「やがて、人間は自分達に都合の良い神を作り出し、その考えに従うようになったデシ」
「それで他の生物との間に軋轢が生まれたのか?」
「「「それは正しく、少し違います。他の生物とではなく、人間同士で軋轢が生まれました」」」
「人間同士?」
一瞬の疑問を呈したが、聞く必要はなかったかもしれない。3人集まれば派閥が出来る。その時点でどれだけの人間が集まっていたかは知らないが、神を作り社会を構成するほど……おそらく相当の年月があったのだろう。
「人間の中は、他の生き物と共存すべきと言う意見と、この星を人間だけの世界にすべきだと言う意見に分かれたデシ。我々は暫く静観したデシが、最終的に共存の意見を採用したデシ」
「その共存派の代表の一人が、初代の魔王だ」
途中から薄々は察していた。魔人は人間と他の生き物との区別をしなかった。もし俺の世界に強大な力を持つ神のようなものが存在し、「これからは人間と同じ権利を他の動物にも与えよ」、なんて言ったら大変な事になる。絶対に、あの邪神……偽神を討伐しろとなるだろうな。
だが同時に、それに従おうとする者もまた出てくる。そのリーダーが、人間にとって都合の悪い存在――魔王と呼ばれることになったわけか。
「それまで人間に与えた特権。どうしてそれを剥奪しなかったんだ?」
領域の移動制限、それを剥奪するだけで問題は解決すると思われる。後は他の生き物と同じように、増え過ぎたら減り、減り過ぎたら増え、ギリギリのバランスを保ちながら生きていくだろう。万が一絶滅しそうになったら、その時だけ干渉だけをすれば良い。閉鎖された社会だ。きっと、それこそ神と崇められることだろう。
「「「我々が作ったシステムは、長い時間をかけて複雑に組みあがっていました。管理は一人の采配に任せ、領域の移動などは種別ごと、寿命などすべての命に関わるものは全体にという様に作られており、変える事は出来ませんでした。人間種を制限する事は、魔王を制限する事と同じです。これには複雑な安全装置を設けており、今日まで干渉したことは有りません」」」
成る程なと思うと同時にふと疑問が出る。共存派のリーダーが権限を持っていたから良かったが、そうで無かったらどうなったのだろう?
だがそんな考えは霧のようにふわっと消える。考えてみれば、自然な流れだ。
おそらく人類の我が儘は、魔人にではなく管理人たる人間――魔王に向けて発せられたのだ。だがここまでの話だと、まだ魔人は致命的な失敗をしていない。責任の丸投げ前だ。
上司に魔人が居て、下の人類からは突き上げをくらう。中間管理職である魔王の辛い立場が目に浮かぶようだ。
「魔王と人類の確執はそこからなのか?」
「微妙に正しいデシ。人類は遂に、魔王を殺せば世界管理システムを奪えると考えるようになったデシ。そして、魔王を殺そうとしたデシ」
「その為、我らは人類をこの世界から消した……いや、失わせたか? いや、滅亡させたのだ」
一瞬眩暈がする。当時の人類がどのくらいの数かは分からないが、全て殺し尽くしたのか……。
いや待て、そうすると魔王は!?
「「「烈火のごとく怒りました。我々は、彼以外の全ての人類を殺したのです。彼の家族も含めてです。当時の我々は、システムである魔王さえいれば問題ないと考えていました」」」
「我々はやってはいけない事をしてしまったのだと、その時になって気づいたデシ。我等は反省し、魔王の為に新たに人間も召喚したデシ。今度こそは大丈夫だと思ったデシ」
「それでまた失敗したのか……」
「全く同じ事が繰り返された。だが我々は、再び人類を絶滅させる愚は犯せなかった」
そこから先は、もう聞かなくても大体分かる。
新たな人間種もまた、以前の人類種と同じ権限を持っている。魔王がそうだからだ。そして同じように行動し、結局同じ考えに至り、魔王を糾弾し、最後は泥沼の戦争へと突入したのだろう。
だが魔人は同じ結果にはしたくない。だから、人間をどこまで間引くのか……そういった辺りの線引きを、同じ人類である魔王に一任したのだろう。
増え続ける自分たち人類を殺し、魔族を守る存在……そりゃ拗れるよな。
ごつごつとした岩肌の天井を見ながら考える。いっそ、ホテルで永遠に暮らすか……。
人類種の領域移動禁止。魔王も動けなくなるが、それが一番手っ取り早い。
事情を話せば、ユニカは案外分かってくれるかもしれない。そうでなくても、長い時間を掛ければ次第に打ち解けてくれるだろう。最悪別居だが、幸い住む所は沢山ある。
産まれてくる子はちょっと大変だ。なんと言っても人間は父親と母親しかいないのだ。エヴィアは居てくれるだろうが、それでも寂しがるだろう。もしかしたら、一生……それこそ何千年も恨まれるかもしれない。だがそれで、人類と魔族の間に恒久的な平和が訪れるのだ。
こうして考えると、魔王の子供を人間社会に流すのは、案外真っ当な事だったんだな。
いや、待てよ? もし俺が欲望に負けて、10人とか20人とか子供を作ったらどうなるんだろう。
最も遠い血縁でも2×2のインブリードだ。繰り返される近親相姦は止められず、相当な不幸が予想される。だがやがては増える。そして一度軌道に乗れば鼠算だ。いずれは一つの領域では狭すぎる事になり……。
うーん、少し前に絶滅しない程度に放っておけばいいと考えたが、いざ自分の子供となるとそうもいかない。結局は、平和と言う名の不幸を押し付けるだけで本質は何も解決していないのだ。だが――、
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