この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

三人の魔人 中編

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「「「封印に賛成する魔人はいませんでした。それをお伝えいたします。封印は、あくまで可能性の話です。賛成者がいて発案された訳ではありません」」」

「なるほど、誰かがそうしようと言った訳では無くて、そうしたらどうなるかを検討したわけか。良かったら、その結論に至った理由を教えてもらえるか?」

「「「良いでしょう。言葉に直すことに少々慣れていないため、余計な話が入るかもしれません。あれはまだ私が魔人ギリエルメントであった頃の事です。春の暖かな日差しの中、私は獲物である灰色熊グリズリーを探し山中を彷徨っていました。その日降った雨をよく覚えています。その雫が木の葉に当たる音はまるで音楽の様で……」」」

「ストップ! 予想ではその話はどの位で終わる」

「「「推定132万215日です。もしかしたら、もう少し掛かるかもしれません」」」

「ゲルニッヒ! ヘルプ!」

 またもや前言撤回だ。少々の難じゃねぇ、大分難だぞ。ゲルニッヒに分かりやすく翻訳してもらわないと話が通じそうにない。魔人は色々と個性的だし一緒にいて楽しいが、今はとにかく分かり易くまとめてくれる方が有難い。
 だが当のゲルニッヒはと言うと……。

「私は彼らがどのように検討し、ソレをどのような言葉にして話すのか、大変興味がありマス。ササ、続けてクダサイ」

 ……この野郎。

「大丈夫だ。我が話そう。我らは全てを魔王に委ねた……任せた?……託した?」

「おい、こいつら何とかしろ。話が進まない!」

 エヴィアに捕まってしまったスースィリアは別として、なんだかんだんで最初に集まってきたのは、それなりにコミュニケーション能力が高い魔人達だったのだと実感する。魔王、そして人という存在に、元々興味を持っていたのだろう。
 一方で、彼らの興味はそれ程ではない。だから会話することを前提とした思考になっていないのだ。

「では説明するデシ」

 ……一瞬誰が発言したのか分からなかったが、もう他には一人しかいない。影の魔人、ヨーヌだ。

「魔人は魔王に、この世界の管理を委託しましたデシ。その理由はもうお分かりデシね」

「ああ、失敗したから丸投げしたんだろ?」

 今まで魔人が説明してきたことは絶対正しいと思っているが、ここで否定されたら大前提が全部吹き飛ぶなー……。
 そんな心配もあったのだが――

「その通りデシ。その時に、代償として魔王の身を守り、魔王の望みを叶えることを約束したデシ。姿を現さない魔人達は、その制約故に自己を制限される事を恐れているのデシ」

 何でも言う事聞くって約束しちゃったから避けてるのか……子供か!

「そもそも魔王ってのは何なんだ? 最初の魔王、それはいつ誕生したんだ?」

「では説明するデシ。少々長くなりますがよろしいデシか?」

「ああ、これは絶対に必要な事だ。聞こう――だが程々にな」

 その言葉に返事をするように、まるで影が湧きたったかのように大量の泡を出すと、魔人ヨーヌは世界、そして魔王と云うものについて語りだした。

『我らがいついかようにして誕生したのかは不明デシ。しかし、我らが自我を確立した時、この星には我々しかいなかったデシ』

 言葉を紡ぐたびに、その影の体からポコリポコリと泡が湧きたっている。

『意識と知性を獲得した我々は、ありとあらゆる事柄を学習し、研究したデシ。そして数千万年の時が過ぎたある日、遂に他の世界から生き物を召喚する事に成功したデシ。それは魚と呼ばれる種族だったデシ』

 場所次第だが、いきなり失敗しそうなものを呼び出したな……。

「そうデシ。それはすぐに死んでしまったデシ。我々は、特定の場所でしか生きられない生き物というものを見た事が無かったのデシ。デシが、その体には多数の微生物も入っていたデシ。そこで我らは、初めて命というものが存在する事を知ったデシ。そこからは、長い研究と試行錯誤の日々だったデシ」

「その微生物から、この世界の生き物は分化したのか?」

「「「それは違います。我らの興味は1回では尽きませんでした。同時に並行して、無数の生き物を召喚しました」」」

「そうしている内に、その生き物たちは我々とは根本的に……いや抜根的に……根源的に?」

「本質的に異なる生体を持つことが分かったデシ。特定の環境や、特定の栄養源が無ければ生きられない……当時は理解できない知識だったデシ。多くの失敗を経て、我等はこの行為を続けていいか日々考えたデシ」

「「「そんな時、人間が召喚されました。今でも覚えています。その人間が、他の生き物の死骸を食べる姿を」」」

「ちょい待ち! 魔人も物を食べるよな? それまでどうしてたんだよ」

「「「食べる、その行動に衝撃を受けた魔人の多くは食べる事を真似し、日々の行動に組み込みました。私のように本来の生態を取る魔人は、太陽の発するエネルギーのみで動きます」」」

 ――あぶねぇ! こいつが誘うつもりじゃなかったら、それこそ永久に追いかける羽目になったかもしれないのか。

「話が逸れたな。召喚された人間は我等に無い知識を持っていた。同じ生き物の知識だ」

 ようやくラジエヴが詰まらずに言えたか。俺の見立てではこいつは賢いはずだ。だがあの言葉の詰まり方……完璧主義者的なものだろうか。

「我々は、長い歳月の末、生き物を管理する助言者アドバイザーを手に入れたデシ。当初は言葉の壁もありましたが乗り越えたデス。そして星の魔力を空に上げ、巨大な管理システムを構築したデシ。その辺りも聞くデシか?」

「いや、大丈夫だ。続けてくれ」

「「「我らは生き物を管理するため、人間に様々な権限を与えました。領域の生成、無制限の移動、温度や湿度、大気などの環境整備など様々です。当初は実にうまくいっていました。世界は領域で分割され、そこに生きる生物達は我々に新鮮な驚きを与えてくれました。ですが……」」」

「人間の飢えは……いや渇望は、いや違う、希望は」

「欲求は止まらなかったデシ。ですが我々は、それを与え続けたデシ。貴方は寿命に関して聞いたデシね? 予想しているでしょうが、我々がシステムに組み込んだのデシ」
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