この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

三人の魔人 前編

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「あれはどこまで飛んでいくんだー」

 相和義輝あいわよしきが魔人アン・ラ・サムを追いかけて早4日。針葉樹の森を抜け、炎と石獣の領域へと侵入していた。

 幸いな事に引き離されるような速度では無い。スースィリアは移動しながら、木に張り付いている多足の巨大黄金虫などをひょいと捕まえては栄養補給をしている。まだ暫くは走りっぱなしでも行けそうだ。

 ゲルニッヒも、たまに何か食べているように大豆頭が動いている。実際に何を食べているかは不明だが……。
 だが補給が必要なのは明らかであり、それは飛んでいるあいつも同様に必要なはずだ。
 ならば、いつか必ず降りるだろう。と言うより、いい加減降りて貰わないと困る。俺の食糧が尽きる可能性があるからだ!

 幸いにもこの領域の高い溝も、スースィリアの巨体からすれば無いに等しい。
 しかしここで捕まえられなければ、その先は修復したばかりの湿地帯だ。今度は逆に、その図体が災いして見失う可能性があった。

 だがそんなことを考えていると、アン・ラ・サムは尾根に空いた穴から山の中へと入っていく。

 ――あの穴は……。

 それはかつて彼が脱出した場所。本来であれば、とっくに領域の自動修復で塞がっている頃だ。それが空いているという事は……。

「懐かしい場所に行ったな。もしかしたら、最初から俺達を呼んでいたのかもな」




 ◇     ◇     ◇




 蔓草が鬱蒼うっそうと生い茂る針葉樹の森に、ユニカはエヴィアとヨーツケールを伴って、いつもの食料調達に来ていた。
 この辺りの蔓草は芋科が多い。早速収穫に取り掛かる彼女に対し、エヴィアは少し遠慮がちに話しかけた。

「ユニカは、魔王の事が嫌いかな?」

「ハァ? そんなの当たり前でしょ!?」

 話しかけられたユニカは物凄い剣幕で振り返る。その勢いで、引っ張っていた蔓が千切れてしまう程だ。
 だがそんな彼女を見ても、エヴィアは動じない。と言うより、見た目と内面の大きな祖語に感じる違和感への興味の方が強かった。

「でもそんなには嫌っていないかな? ユニカはいつも怒っているように見えるけど、あんまり怒っていないよ」

 反論しようとするが、口ごもる。実際に、意地を張っているわけで怒っているわけでは無い。その意地も、もはや何の意味も無いような気がする。だけど……。

「魔族は敵なの。だから魔王も敵……それでいいじゃない」

「奥方、魔王は悪い人間ではない。ヨーツケールはそう思う」

「だから奥方じゃないって言ってるでしょ!」

 大体悪い人間ではないという形容詞自体がおかしい。人間ではなく魔王なのだから。
 確かに見た目は悪人には見えない。むしろ、善人の部類だ。そして、何とかこちらと会話しようとする彼を無下にしている事には、罪悪感すら覚える。

「エヴィアも敵なのかな?」

 言われてハッとなる。確かに敵なのだ……なのに。

「今のあなたは芋掘り係! 卵も集めなきゃいけないんだから、ちゃっちゃと動く!」

「はーいかな」

 指示を受けたエヴィは、実に楽しそうに、そして無邪気に、グイグイと芋を掘り出していく。そんな様子を見ながら、ユニカの胸にチクリと何かが刺さる。
 考えたくなかった。だから、誤魔化した。だがこの事は、いずれは自分の中でしっかりと決めなければいけない事であった。




 ◇     ◇     ◇




 山肌にぽっかりと空いた穴から廊下の部屋へと入る。だがスースィリアが入るには、ちょっと小さすぎだ。それに中の狭さも窮屈だろう。

「吾は外で待っているのであるぞー」

「すまないな、ちょっと行ってくるよ」

 改めてここに来る日がくるとは思わなかった。
 目の前には放置された檻。かつて俺が入っていた場所。
 改めて眺めると、吹きっ晒しで水もトイレも無い。本当に酷い場所に放置されたものだ。

「なあ、わざわざここに呼んだって事は、期待して良いんだよな?」

 そこに立っていた……いや、存在していたのは3体の魔人。
 中央に立つ魔人は、八角形の頭に16本の蛸の様な足が付いた異形。
 目や漏斗と言ったものは見られない、本当にそれだけのシンプルな姿だ。全身共に暗い灰色だが、生物的な足に対して、頭は岩のように見える。その姿から名前が判る――魔人ラジエヴ。

 こいつの蛸足には見覚えがある。いや忘れようとしてもそう簡単に忘れることは出来ないだろう。あの日、いきなり襲撃してきた奴だ。
 だが今ならハッキリと分かる。あれは俺を襲ったわけでも無いし、また何の意味もなかったわけでは無い。明確な意図があってやった事だ。

 その右にいるのは、さっきまで追跡していた空飛ぶ三色球――魔人アン・ラ・サム。

 最後に左側にいる魔人。それは、この姿を文字として読める能力が無ければ、ただの地面のシミにしか見えなかっただろう。僅かの立体感も無いただの影。だがよく見れば、その表面には常にブクブクと何かが泡立っている――魔人ヨーヌ。

 あれだけ探したのに、一度にこれだけ集まってくれるのはありがたい。いや、作為を感じるな……。

「ソウです。私が魔人ヨーヌに声をかけマシタ。デスガ、この様な形で集まるとは少々予想外デシタ」

 俺の後ろで、ゲルニッヒが仰々しくお辞儀をしている姿を気配で感じる。
 圧倒的強者に囲まれながらも、恐怖は微塵も感じない。彼らは決して、理不尽な死をもたらす存在では無いからだ。

「我が貴殿を呼んだ。魔王よ……用件はお分かりと思う」

 太い、空気の振動を感じるような独特の声。発したのは正面にいるタコ足の魔人、ラジエヴで間違いない。上の頭のような部分は微動だにしないが、足だけは忙しなく動いている。
 まあ動きはともかく、その内容には疑問符が付く。

「いや、さっぱり分からない。具体的に言ってくれ」

 別にいつもの意趣返しではない。心当たりが多すぎるのだ。

「フム、では簡単に説明しよう。我等は、貴殿を5千年間封印するかを相談……いや、決議……いや議論……いや会話……討論……検証……」

「いいからそこ飛ばせ!」

 毎度の事だがサラっと物騒な事を言いだしやがる。大方、俺の魔力が完全に戻って、次の魔王を召喚できるようになるまで、世界から隔離しようって事だろう。

「今、貴殿の考えたとおりだ。我々は魔王というシステムを守りたい。ゲルニッヒから貴殿のこれまでの行いは全て受け取っている。その上での判断だ」

「なるほど……それで封印することになったと」

 ちらりと後ろのゲルニッヒを伺いたいが、何とも面倒な事になったのだと思う。封印って、いきなり時間が飛んだように感じるのだろうか? それとも場所が場所だ、ここで5千年間檻に入れようというのだろうか。

「「「ご安心ください、魔王よ。確かに我らはそれを検討しましたが……」」」

 右にいる三つ玉の魔人、アン・ラ・サムが返答する。その独特な声は、若い男性、若い女性、そして中性的な子供の声が合わさったもの。もっと機械的な声かと思っただけに少し驚きがある。どの声も冷静かつ知的で、話が通じやすそうな感じがするな。

「そうだ、検討だ!」

「「「うるさい黙れ! ――それでですが……」」」

 前言撤回だ。少し性格に難があるように見える。
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