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【 大火 】
人間への干渉
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ホテルを出てまだ廃墟の街。これから様々な領域を廻らなければいけないのだが、なんかいきなり詰まってしまう。
廃墟の壁に生えている蔦や小さな木立の葉に、茶色い色が目立つ。枯れているのだ。
「ここも結構やられているな……」
「ウイルス等も多く漂ってオリマス。それの影響デショウ」
「領域を移動して細菌などが入ってきているのであるぞー」
ゲルニッヒとスースィリアが状況を教えてくれるが、言われる前から予想はついていた。領域の中は温度や湿度等がきちんと管理され、それに合わせた生き物が生息している。当然それを繋げてしまえば、それぞれに齟齬が出るのだ。
だが分かってはいても……。
「これどうすりゃいいんだ?」
「魔王の判断にお任せシマス」
聞いては見るが、ゲルニッヒは相変わらず丸投げだ。スースィリアは『さあ?』という感じに首を傾げている。こいつら……。
「先ずはその辺りを何とかしないとだめだな。だけど領域移動を禁止したとして、もう入ってきたのはどうなるんだ? 確か灼熱の翼竜なんかは所属している領域に帰るんだよな?」
「ハイ、その命令に逆らうことは出来マセン。デスガ自力で移動できないものはそのままと留まりマス。自然の力を借りても、戻る経路以外の領域移動は出来マセン」
すると風で流れてくる微生物やウイルスなんかはどうにもならないって事か。
あれ? ふとした疑問が湧く。
「なあ、領域ってのは溶岩とかも防ぐんだろ? 風……特に大気なんてのはどうなっているんだ?」
「地面に近いほど領域の影響を受けマスガ、上の方は結構緩やかデス。大気は領域ごとではなく全体で賄われてイマスヨ」
「なるほど、微風なんかは普通に突き抜けて通っているのか」
それでは微生物の侵入は、単体ごとにきちんと設定しなければ防ぎようがないのか……結構大変だぞ。
「悪い事ばかりでもないのであるぞー。そうやって進化や分化する生き物もいるのであるー」
「あー、そう言えば蜜蟻なんかはどこにでもいるって言ってたな」
あれは何処かの領域から、流れ流れて様々な場所に適応していったのだろう。生物の進化……確かに環境が最適になっている領域では滅多に起きない事だ。
だがやはり、それは相応に危険を伴う。魔人達全てがそうかは解らないが、出会った連中は皆、根本的には誠実だ。おそらく多くの失敗をし、やがて放り投げたのだろうか……魔王に。
「そういや、大型の生物にくっついている微生物なんかはどうなっているんだ? まぁ俺の……排泄物とかもそうなんだが」
「常に大きな方が優先されるのであるぞ。まおーは結構色々バラ撒いているのであるー」
うーん……だよねぇ。デリケートな環境は維持が大変だな。だがとりあえずは……。
「この微生物やウイルスの許可不許可をしたい。だけど、ここまで小さいのはどうやるんだ? さすがに電子顕微鏡でもないと姿すら見えないぞ」
「ハテ、電子顕微鏡とは何なのデショウ?」
ゲルニッヒは顎の辺りを押さえながら、大豆頭を高速でくるくる回している。何気ない一言だったが、結構興味を惹いたようだ。
「それは道中に教えるよ。先にこちらを頼む」
「吾を使うとよいのであるぞ」
そう言うなり、スースィリアがいきなり俺を飲み込んだ。それこそ何の心の準備も無いまま、あっという間だ。
そして暗闇の中、神経が繋がっていく不思議な感覚。そして次の瞬間、ふいに視界が弾けた。
それはまるで銀河の様。無数の命が発する熱、振動、匂い……そういったものが視覚情報として送られてくる。様々な輝きと色と波紋の世界。これがスースィリアの視界か……。
周囲にある無数の光、一つ一つが命だ。光る葉を拡大していくと、さらに内部までが判る。内部に輝く光、細胞だろうか。さらに拡大すると、その中にはまた無数の光が存在する。
成程……後は健康な葉とそうでないのを見比べて、異物を排除していけばいいのか。
やり方は解ったが……これはかなりの手間だな。
「スースィリア、君の体に負担はないか?」
「無いのであるぞー。いつまででも大丈夫なのであるぞ」
お言葉に甘えて色々試してみよう。
このスースィリアの感覚のまま、意識を空へ、高く……天空の俺の元へ…………。
次第に世界が広がっていく。より遠く、より高く……領域全体を星全体へと拡大していくと、何処も大量の生命で溢れている事が分かる。
なるほど、これが本来の管理システム、魔王の力なのか。同時に、やはり人の身には余るような気もする。
目の前に広がる景色は銀河の中心のように輝いているが、いつもこんなのを見ていたら逆に神経がいかれそうだ。それにしても、1種類の大型生物がやたら多い。考えるまでも無い、人間だろう。
――あれ?
ふと思う、これって人間の領域移動を不許可にすれば解決するんじゃないのか? なんで人間は許可されっぱなしになっているのか知らないけど、これは歴代魔王の怠慢か?
とりあえず――人間の領域移動は不許可っと。
どうだろう、いかんせん何の実感も無いから分からない。
「人間の領域移動には干渉出来まセンヨ」
ゲルニッヒの言葉が、心にぷすっとささる。折角の閃きが萎んでいく感じだ。
なんでかを聞こうと思ったが、おそらく無駄だ。魔王と人間の関係、そもそも何で魔王が人間なのか、おそらくそうした根源部分だ。
「その通りなのであるぞー」
「相変わらず考えはお見通しだな」
廃墟の壁に生えている蔦や小さな木立の葉に、茶色い色が目立つ。枯れているのだ。
「ここも結構やられているな……」
「ウイルス等も多く漂ってオリマス。それの影響デショウ」
「領域を移動して細菌などが入ってきているのであるぞー」
ゲルニッヒとスースィリアが状況を教えてくれるが、言われる前から予想はついていた。領域の中は温度や湿度等がきちんと管理され、それに合わせた生き物が生息している。当然それを繋げてしまえば、それぞれに齟齬が出るのだ。
だが分かってはいても……。
「これどうすりゃいいんだ?」
「魔王の判断にお任せシマス」
聞いては見るが、ゲルニッヒは相変わらず丸投げだ。スースィリアは『さあ?』という感じに首を傾げている。こいつら……。
「先ずはその辺りを何とかしないとだめだな。だけど領域移動を禁止したとして、もう入ってきたのはどうなるんだ? 確か灼熱の翼竜なんかは所属している領域に帰るんだよな?」
「ハイ、その命令に逆らうことは出来マセン。デスガ自力で移動できないものはそのままと留まりマス。自然の力を借りても、戻る経路以外の領域移動は出来マセン」
すると風で流れてくる微生物やウイルスなんかはどうにもならないって事か。
あれ? ふとした疑問が湧く。
「なあ、領域ってのは溶岩とかも防ぐんだろ? 風……特に大気なんてのはどうなっているんだ?」
「地面に近いほど領域の影響を受けマスガ、上の方は結構緩やかデス。大気は領域ごとではなく全体で賄われてイマスヨ」
「なるほど、微風なんかは普通に突き抜けて通っているのか」
それでは微生物の侵入は、単体ごとにきちんと設定しなければ防ぎようがないのか……結構大変だぞ。
「悪い事ばかりでもないのであるぞー。そうやって進化や分化する生き物もいるのであるー」
「あー、そう言えば蜜蟻なんかはどこにでもいるって言ってたな」
あれは何処かの領域から、流れ流れて様々な場所に適応していったのだろう。生物の進化……確かに環境が最適になっている領域では滅多に起きない事だ。
だがやはり、それは相応に危険を伴う。魔人達全てがそうかは解らないが、出会った連中は皆、根本的には誠実だ。おそらく多くの失敗をし、やがて放り投げたのだろうか……魔王に。
「そういや、大型の生物にくっついている微生物なんかはどうなっているんだ? まぁ俺の……排泄物とかもそうなんだが」
「常に大きな方が優先されるのであるぞ。まおーは結構色々バラ撒いているのであるー」
うーん……だよねぇ。デリケートな環境は維持が大変だな。だがとりあえずは……。
「この微生物やウイルスの許可不許可をしたい。だけど、ここまで小さいのはどうやるんだ? さすがに電子顕微鏡でもないと姿すら見えないぞ」
「ハテ、電子顕微鏡とは何なのデショウ?」
ゲルニッヒは顎の辺りを押さえながら、大豆頭を高速でくるくる回している。何気ない一言だったが、結構興味を惹いたようだ。
「それは道中に教えるよ。先にこちらを頼む」
「吾を使うとよいのであるぞ」
そう言うなり、スースィリアがいきなり俺を飲み込んだ。それこそ何の心の準備も無いまま、あっという間だ。
そして暗闇の中、神経が繋がっていく不思議な感覚。そして次の瞬間、ふいに視界が弾けた。
それはまるで銀河の様。無数の命が発する熱、振動、匂い……そういったものが視覚情報として送られてくる。様々な輝きと色と波紋の世界。これがスースィリアの視界か……。
周囲にある無数の光、一つ一つが命だ。光る葉を拡大していくと、さらに内部までが判る。内部に輝く光、細胞だろうか。さらに拡大すると、その中にはまた無数の光が存在する。
成程……後は健康な葉とそうでないのを見比べて、異物を排除していけばいいのか。
やり方は解ったが……これはかなりの手間だな。
「スースィリア、君の体に負担はないか?」
「無いのであるぞー。いつまででも大丈夫なのであるぞ」
お言葉に甘えて色々試してみよう。
このスースィリアの感覚のまま、意識を空へ、高く……天空の俺の元へ…………。
次第に世界が広がっていく。より遠く、より高く……領域全体を星全体へと拡大していくと、何処も大量の生命で溢れている事が分かる。
なるほど、これが本来の管理システム、魔王の力なのか。同時に、やはり人の身には余るような気もする。
目の前に広がる景色は銀河の中心のように輝いているが、いつもこんなのを見ていたら逆に神経がいかれそうだ。それにしても、1種類の大型生物がやたら多い。考えるまでも無い、人間だろう。
――あれ?
ふと思う、これって人間の領域移動を不許可にすれば解決するんじゃないのか? なんで人間は許可されっぱなしになっているのか知らないけど、これは歴代魔王の怠慢か?
とりあえず――人間の領域移動は不許可っと。
どうだろう、いかんせん何の実感も無いから分からない。
「人間の領域移動には干渉出来まセンヨ」
ゲルニッヒの言葉が、心にぷすっとささる。折角の閃きが萎んでいく感じだ。
なんでかを聞こうと思ったが、おそらく無駄だ。魔王と人間の関係、そもそも何で魔王が人間なのか、おそらくそうした根源部分だ。
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