この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

十家会議 後編

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「アイオネアの門に展開中の部隊を戻しますかねぇ?」

 低い背丈、150センチそこそこと言った所だろうか。丸みを帯びた童顔にグレーの髪に緋色の瞳。子供のような外見に似合わない、黄色に赤い縞の三つ揃え。それに高価そうな茶色い革靴を履いた少年が気楽そうに意見を述べる。
 コンセシール商国ナンバー6、軍事部門を主体とするウルベスタ・マインハーゼンだ。

 軍事部門のトップは三大商家の一つであるファートウォレル商家だが、魔族領遠征軍関連はマインハーゼン商家が担当している。そのため、リッツェルネールは編成上は彼の管理下に置かれていた。
 だが現地司令官である彼の権限は絶大であり、実質的には放置状態だ。

「冗談ではない!」

 ビルバックの激昂が飛ぶ。彼が放置状態にあるのは、帰って来るなという意味だ。それほどまでに危険視されていたのである。
 とことんまで兵員を削減したコンセシール商国にとって、魔族領遠征軍とはいわば隔離した存在。要は、戦争大好きな連中を追い出したのだ。

 だが一方で、国家の体面メンツを守るために、遠征軍には他国に恥じないだけの装備を渡している。
 そんな連中に戻って来られでもしたら、政治と軍事の対立は避けようが無くなってしまう。

「では我らだけでティランド連合王国と戦うと? それはまた面白い事を言う……」

 イェア・アンドルスフは神妙な面持ちだが、言葉の端に楽しさも滲ませる。商国ナンバー2の地位にある者が、国家が滅ぶと言う事の意味を知らぬはずはない。いったい何がそんなに面白いのか!
 ビルバックの額に幾つもの青筋が浮かぶ。秘めた怒りは周囲の空気を震わせ、まるで彼の周りに陽炎が浮かんでいるように錯覚させる。

 だがそんな空気を鎮めるかのように、真っ赤なドレスの男が発言をした。

「まだ確実に戦争が始めるという訳ではありますまい。使節は送ったのです、しばし待つべきではないでしょうか?」

 そのドレスに包まれているのは、長身で逞しい漢の肉体カラダ。商国ナンバー4のケインブラ・フォースノーだ。
 そしてその言を受け、隣に座っていた優雅な空気を漂わせる男が発言をする。

「始めれば負ける。それはリッツェルネールが戻って来たところで同じでしょう。何と言っても数が違いすぎます」

 身長は平均より少し高い位だろうか。質素な白いシャツに艶やかな黒い毛皮のベスト、そして黒とグレーの島のスラックス。灰色の髪はオールバックに纏め上げてあり、掘りの深い整った細い顔に小さな紺の瞳。白目が僅かに赤いのは、南方の血が混ざるためか。
 商国ナンバー10、中小の商会を取り纏めるジャナハム・コルホナイツも賛成だ。

 どの国も長い魔族領遠征でそれなりに兵士の数を減らしているとは言え、かの大国はいまだに1千万を超える正規兵士を抱えている。民兵まで動員すれば、近隣だけで1億を超える数となるだろう。たかだか人口5千万人程度の国に勝ち目無いのだ。

 しかも地形的にも問題だ。コンセシールは細長い国土を持ち、約半分を連合王国に接している。同時に攻め込まれたら防衛する事すらかなわない。かつて戦えていたのは、東にエバルネック王国があったため侵入口が細い北面しかなかったからだ。
 そのため国土の長さを生かして戦えた。だが今はそれが無い……。

 結局はどうあがいても戦う術はない。このまま商業国家としての体面が保てず崩壊したとしても、ティランド連合王国に従属する。たとえ隷属と言われても、戦う力が無いのだから仕方がないのだ。

 だがそうした結論が出る中、ナンバー7であるキスカ・キスカは嫌な予感しかしていなかった。
 あの男は、何処まで計画していたのだろうかと……。

 一応関わっている身ではあるが、全てを知らされているわけではない。
 最終地点が何処に設定されているのか。そして此処にいる誰が協力者で、何処まで関わっているのか。それすらも藪の中だ。

 それに、ここにいない3人の商家代表のメンツにも違和感を感じる。
 軍事トップのファートウォレル商家は国境警備の視察と称して出てこない。商家全体の仲介役であるアーウィン家も、各商家取り纏めの為に出席していない。
 どちらも国家の中心に座す商家であり、自分の様な部門代表とは出欠の意味合いが違う。
 もし彼らも関わっているのだとしたら……。

 唯一知っているのは、海運担当ペルカイナ家の結成理由だけだ。表向きは各海運社との会合で出席できないとなっているが、本当の理由をキスカは知っている。

 ――まぁ、言わない方が良いよね……。

 もう、走り出してしまったのだ。今更止まることなど出来はしない。
 何かを言い出せる空気ではなく、キスカは黙ってビルバックの激高を聞き流すことにした。




 ◇     ◇     ◇




 深夜も激戦は続いていた。
 総攻撃と言うほどではないが、民兵は次々と登り、夜の闇に乗じて攻撃を敢行する。
 だがケルベムレン守備隊も十分な休息を取りつつ応戦し、順調に迎撃を果たしていた。

「北面に登り口を作っている様です。確認できた限りでは6ヶ所ですね」

 白に赤紫の2重の線が入った半身鎧を纏った、くすんだ金髪の女性が報告に入る。
 身長は150を超える程度。小柄で少し痩せているが、しっかりとした筋肉が見て取れる。
 背には巨大な長剣を背負い、腰に下げた二本の斧も大型だ。
 ラウリア・ダミス。マリクカンドルフが赴任する前は、この街の防衛指揮官を務めていた女性だ。

 女帝の命により降格され、後任は部下を見捨てて逃げてきた男。だが彼女は何の確執もわだかまりも持ってはいない。マリクカンドルフの名声や実績、そして人徳がそれだけ信頼されていたのだった。

「まあ予定通りか。だがやるなら四方に作るべきだったな。まあ、向こうもその程度は解っているか……やはり時間だな。この街を攻略する時間の問題もあるが、準備不足で戦いを始めたのは明白だ」

 入念な準備をしていたゼビア王国と違い、同調者であるラッフルシルド王国は準備不足のまま先端を開いていた。その為に食料は勿論、工作物資も足りていなかったのだ。
 だがそれでも、その数と勇猛な兵士達が脅威である事に違いは無かった。
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