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【 大火 】
ワイバーン 後編
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ぎゅうぎゅうと群がって来るのはいいが、押しつぶされて骨がメキメキと悲鳴を上げる。
しかも熱い。これで悪気があれば魔人がすぐさま始末するだろうが、こいつらは懐いているだけだ。
俺の世界でも翼竜は人が騎乗した姿で描かれることが多いが、このわんこのような性格は異世界共通なのだろうか。
「すまないがお土産は無いんだ。今回も魔王魔力拡散機を使わせてくれ」
「いいよー、好きに使ってって」
「私らいらないしねー」
と言って離れていくと、次の灼熱の翼竜の群れがやってきて同じように挨拶する。魔王や魔人が珍しのだろうが、好奇心旺盛過ぎるのも考え物だ。
ようやく着いた目的の場所は灼熱の翼竜の巣の一角。
山の斜面に沿って斜めに抉り取った様な場所で、そこには他と同じ形状の柱が、半ばめり込んで埋まっていた。
床には大量の卵とその殻が散乱し、そして親よりもさらに好奇心旺盛な大量のミニ灼熱の翼竜。
孵っていない卵は無精卵ではなく、種族数が少なくなると孵化するそうだ。
ちゃんと本能で調節されている姿は素晴らしいと思う。人間もこうならどれほど楽か。
――だが、ここが一番厄介だ……。
灼熱の翼竜の子供達――と言っても俺よりもずっとでかいのだが――にもみくちゃにされがらも、何とか魔力を送って任務完了。ようやく一つ目が成功だ。
終わる頃には、汗だくに擦り傷だらけで満身創痍。用事が済んだら、さっさと退散するに限る。今回はゲルニッヒに付いてきてもらったので、簡単に治療が出来るのはありがたい。
「さて、もう一つの目的を果たす前に、さっさとここから逃げよう」
追いかけてくる子供達は、幸い巣の外で待ち構えていた親たちに容赦なく戻された。
子供とはいえ飛べるからな。親が居なかったら、領域の外まで逃げなければいけない処だ。
そしてこれがもう一つの目的。
「灼熱の翼竜達よ、すまないが練習に付き合ってくれ」
「いいよー、暇だし」
「久々に外に出ていいの? 出る出る!」
各領域は基本的に、その中だけで完結した世界だ。そして、ここでは彼らが食物連鎖の頂点に君臨している。
その最強生物が迂闊に外に出た場合、当然他の領域に影響を及ぼすだろう。下手をすると、亜人とかを餌にしかねない。
しかも飛べる上に、案外環境に左右されないタフさもある。正直許可したが最後、どこまで飛んでいくかが不安でもあった。
だが人間が来た時に慌ててやると、前回のような大失敗もあり得るのだ。だからこうして、シャルネーゼの探索も兼ねて実験に来たわけだ。
「ええと、先ず個体を一人選べばいいんだな?」
「ソウです。ソウして許可を出せば、ソノ種族全てが領域を自由に行き来デキマス」
わいわい集まる野次馬灼熱の翼竜の中から一体を選び、頭の中で許可を出す。
(お前達は自由にしていいぞ……)
音も無ければ光もしない。何か煙のようなものが出るわけでもない。しかもこちらには何の手ごたえも変化も感じないのだからやりにくい。
「どうだ? 自分では分かるか?」
「分かるー、分かるよー」
「おお―久々の自由だ。んじゃ行ってきまーす」
早速飛び去ろうとする灼熱の翼竜。いや待て待て!
「すまないがもう少し付き合ってくれ。今度は禁止の方だ」
「ええー!」
「やだ!」
不満たらたらで大騒ぎを始めるが、目的はあくまでも実験と練習だ。
今まで不許可で、しかも話が通じて、他の地域にも移動できる灼熱の翼竜だからこそ頼める事なので、ここは素直に従ってもらいたい。
「禁止も同じだったな……」
――お前たちは移動禁止だ……。
やはり何の反応も無いが、灼熱の翼竜達の様子からすると成功したのだろう
ぶんむくれて尻尾で地面をべしべし叩いたり、あーだこーだと文句を言いまくっている。
「大丈夫だから安心してくれ。だからもう少しだけ付き合ってくれよ」
ちゃんと最後に許可を出すことは決めてある。一度許可を出しておきながら、即禁止なんかしたら不満だけが溜まってしまうからだ。今後の友好関係を考えればそれは出来ない。
こちらの意図を感じ取り、スースイリアがパクっと俺の上半身を咥える。
これでもう灼熱の翼竜は見えない。
――魔王の魔力……この世界を管理するシステム……。
意識を広く、遠くまで流すように心の中で膨らめる。
まだ慣れていないのかはっきりとは感じない。だが周囲にある大きな命、それが灼熱の翼竜である事がなんとなくわかる。他にも様々な小さな命を感じるが、先ずは約束通りに――
(灼熱の翼竜を許可とする……)
「……どうだ?」
終わったのを確認すると、スースィリアがすぽっと外れる。
これで喜んで貰えればいいが……そう考えていたのだが、もはや周囲には一体もいない。
再び禁止されることを嫌がったのか、灼熱の翼竜達は遥か彼方へと飛び去ってしまっていたのだ。あいつら……。
しかし実際やってみると簡単だ。
前回失敗したのはシステムの不完全さもあるが、おそらく亜人3種類を全部まとめて一括で行ってしまった為だ。それで他にも影響が出たのだろう。
「ルリア―」
「ハイハイ、魔王様。何か御用ですの? 今ユニカさんの料理を見て色々覚えておりましたのに」
ホテルに置いてきたはずだが、呼べばちゃんと出てくる死霊メイド。
魔力で繋がっているかららしいが、便利な事はありがたい。首無し騎士も繋がっているはずなのだが、これは種族的なものか……。
「忙しいところ悪いが、死霊達を使って他の領域を見て来てくれ。また軍隊蟻みたくなっていたら今度は止めないといけないからな」
しかも熱い。これで悪気があれば魔人がすぐさま始末するだろうが、こいつらは懐いているだけだ。
俺の世界でも翼竜は人が騎乗した姿で描かれることが多いが、このわんこのような性格は異世界共通なのだろうか。
「すまないがお土産は無いんだ。今回も魔王魔力拡散機を使わせてくれ」
「いいよー、好きに使ってって」
「私らいらないしねー」
と言って離れていくと、次の灼熱の翼竜の群れがやってきて同じように挨拶する。魔王や魔人が珍しのだろうが、好奇心旺盛過ぎるのも考え物だ。
ようやく着いた目的の場所は灼熱の翼竜の巣の一角。
山の斜面に沿って斜めに抉り取った様な場所で、そこには他と同じ形状の柱が、半ばめり込んで埋まっていた。
床には大量の卵とその殻が散乱し、そして親よりもさらに好奇心旺盛な大量のミニ灼熱の翼竜。
孵っていない卵は無精卵ではなく、種族数が少なくなると孵化するそうだ。
ちゃんと本能で調節されている姿は素晴らしいと思う。人間もこうならどれほど楽か。
――だが、ここが一番厄介だ……。
灼熱の翼竜の子供達――と言っても俺よりもずっとでかいのだが――にもみくちゃにされがらも、何とか魔力を送って任務完了。ようやく一つ目が成功だ。
終わる頃には、汗だくに擦り傷だらけで満身創痍。用事が済んだら、さっさと退散するに限る。今回はゲルニッヒに付いてきてもらったので、簡単に治療が出来るのはありがたい。
「さて、もう一つの目的を果たす前に、さっさとここから逃げよう」
追いかけてくる子供達は、幸い巣の外で待ち構えていた親たちに容赦なく戻された。
子供とはいえ飛べるからな。親が居なかったら、領域の外まで逃げなければいけない処だ。
そしてこれがもう一つの目的。
「灼熱の翼竜達よ、すまないが練習に付き合ってくれ」
「いいよー、暇だし」
「久々に外に出ていいの? 出る出る!」
各領域は基本的に、その中だけで完結した世界だ。そして、ここでは彼らが食物連鎖の頂点に君臨している。
その最強生物が迂闊に外に出た場合、当然他の領域に影響を及ぼすだろう。下手をすると、亜人とかを餌にしかねない。
しかも飛べる上に、案外環境に左右されないタフさもある。正直許可したが最後、どこまで飛んでいくかが不安でもあった。
だが人間が来た時に慌ててやると、前回のような大失敗もあり得るのだ。だからこうして、シャルネーゼの探索も兼ねて実験に来たわけだ。
「ええと、先ず個体を一人選べばいいんだな?」
「ソウです。ソウして許可を出せば、ソノ種族全てが領域を自由に行き来デキマス」
わいわい集まる野次馬灼熱の翼竜の中から一体を選び、頭の中で許可を出す。
(お前達は自由にしていいぞ……)
音も無ければ光もしない。何か煙のようなものが出るわけでもない。しかもこちらには何の手ごたえも変化も感じないのだからやりにくい。
「どうだ? 自分では分かるか?」
「分かるー、分かるよー」
「おお―久々の自由だ。んじゃ行ってきまーす」
早速飛び去ろうとする灼熱の翼竜。いや待て待て!
「すまないがもう少し付き合ってくれ。今度は禁止の方だ」
「ええー!」
「やだ!」
不満たらたらで大騒ぎを始めるが、目的はあくまでも実験と練習だ。
今まで不許可で、しかも話が通じて、他の地域にも移動できる灼熱の翼竜だからこそ頼める事なので、ここは素直に従ってもらいたい。
「禁止も同じだったな……」
――お前たちは移動禁止だ……。
やはり何の反応も無いが、灼熱の翼竜達の様子からすると成功したのだろう
ぶんむくれて尻尾で地面をべしべし叩いたり、あーだこーだと文句を言いまくっている。
「大丈夫だから安心してくれ。だからもう少しだけ付き合ってくれよ」
ちゃんと最後に許可を出すことは決めてある。一度許可を出しておきながら、即禁止なんかしたら不満だけが溜まってしまうからだ。今後の友好関係を考えればそれは出来ない。
こちらの意図を感じ取り、スースイリアがパクっと俺の上半身を咥える。
これでもう灼熱の翼竜は見えない。
――魔王の魔力……この世界を管理するシステム……。
意識を広く、遠くまで流すように心の中で膨らめる。
まだ慣れていないのかはっきりとは感じない。だが周囲にある大きな命、それが灼熱の翼竜である事がなんとなくわかる。他にも様々な小さな命を感じるが、先ずは約束通りに――
(灼熱の翼竜を許可とする……)
「……どうだ?」
終わったのを確認すると、スースィリアがすぽっと外れる。
これで喜んで貰えればいいが……そう考えていたのだが、もはや周囲には一体もいない。
再び禁止されることを嫌がったのか、灼熱の翼竜達は遥か彼方へと飛び去ってしまっていたのだ。あいつら……。
しかし実際やってみると簡単だ。
前回失敗したのはシステムの不完全さもあるが、おそらく亜人3種類を全部まとめて一括で行ってしまった為だ。それで他にも影響が出たのだろう。
「ルリア―」
「ハイハイ、魔王様。何か御用ですの? 今ユニカさんの料理を見て色々覚えておりましたのに」
ホテルに置いてきたはずだが、呼べばちゃんと出てくる死霊メイド。
魔力で繋がっているかららしいが、便利な事はありがたい。首無し騎士も繋がっているはずなのだが、これは種族的なものか……。
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