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【 大火 】
ワイバーン 前編
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スパイセン王国が山岳都市エルブロシーで足止めを喰らっている頃、相和義輝はホテルで久々に会う友人を出迎えていた。
「おかえりー、ウラーザムザザー」
以前と変わらぬ大きな目玉。全身を這いまわる白い芋虫。背中の全裸な太っちょな女性も変わらないが、なぜかハイビスカスの首飾りが付いている。北極に言っていたのでは……。
いや、魔人の行動にツッコミを入れたらダメだ。
「ただいまずの。元気そうで何よりずが」
にゅうっと芋虫の触手が伸び、握手をする。
――また変な化け物が現れた……。
その様子を、ユニカはホテルの二階から眺めていた。
魔族に関しては図書館で何度も見たし、歴史や戦闘技術の授業でも習った。だがあんなモノは聞いた事もない。
他にどんな魔族がいるのか……調べなければいけない。そして人類圏にいる同胞に伝えなければいけない。人類の勝利の為に。
――それでいいの? 誰かが聞いたような気がする。
……気のせいだ。妊娠して段々と精神が不安定になっていくのを感じる。魔王の子供のせいだろうか?
魔族との生活を許容し始めている自分。人類を裏切っている自分。でもそれは違う、あたしじゃない。
自分は人類の一員、その自覚を持ち続けなければ耐えられない。そう、気持ちを切り替えて朝食を作るために厨房へと降りて行った。
「え、ウラーザムザザでもだめなの?」
相和義輝が手に持っているのは巨大な二枚貝。人類が使う通信機だ。他にも色々使える便利グッズであり、何とか使いたいと思っていたのだが……。
「使い方はわかるずに。だが使えるかと言われると無理ずの。先ほど人間がいたようだが、あれに使わせるのはどうかずら」
「そうか!? それを忘れていました」
すぐにダッシュしてホテルに戻ると、丁度彼女は厨房で朝食を作り始めているところだった。
包丁を切るトントンというリズムが心地よく響き、野菜の香りが漂っている。脇に置いてあるのは下ごしらえをした鶏肉であろうか。今日の朝食は何だろう……いや気にはなるが今聞きたいのは二枚貝の方で……。
「ユニカ、これ使えないかな?」
「気やすく話しかけないで! 使えないわよ! 出てって!」
出来る限りさりげなく、気さくに聞いたつもりだったが、いともあっさりと突っぱねっれる。
一応は大切な事なので何とか聞きたかったのだが、なだめる手段が思いつかない。こういう時、女性慣れしていないのは辛い。
ユニカは怒鳴りながらもじりじりと後ろに下がり、包丁をしっかりと握りしめている。
溜息が出そうだ……本来ならもっと穏やかな空気が流れるべき厨房なのに、今にも殺し合いが起きそうな程に張り詰めている。これはダメだ……退散しよう。
「ダメでした……」
「気を落とすなずい」
彼女との関係をもう少しくらいは改善したいが、拉致った手前何も言えない。仲良くしようなんて言えた義理ではないのだ。
それにまだまだやる事が山ほどある。彼女との関係は、時間が解決してくれると信じよう。
「それよりも、海の方が大変な事になっているずね」
「ああ、それでしたら……」
一応サキュバスたちから聞いている。海路が使えなくなって云々だっただろうか。だがその程度なら大した問題でもないだろう。
ウラーザムザザの心配そうな巨大な瞳が少し気になったが、今は他にやっておきたい事があったのだ。
◇ ◇ ◇
火山帯。炎と石獣の領域と針葉樹の森、ホテルや亜人の森など様々な領域に囲まれている地。かつて首無し騎士のシャルネーゼをスカウトしたところだ。
炎と石獣の領域に似た気候だが、こちらはあちらこちらに真っ赤に溶けた溶岩が流れ続ける灼熱地帯。領域内はどこも、四季の影響は少なく環境が安定しているが、ここも他と同じだ。冬の寒さなどあったものではない。
そんな中でも平然と進めるスースィリアの上に乗り、もう一人ゲルニッヒを伴ってここまで来ていた。やっておきたいことが2つあったのだ。
「首無し騎士はいるかー?」
「あら、魔王様。お姉さまなら戻っていませんよ」
直ぐに一人の首無し騎士が姿を現してくれる。話が早くてありがたい。
とは言え、やっぱりかと思ってしまう。
シャルネーゼに人間の情報収集を頼んだものの、あれから一度も戻ってきていない。脳筋に頼む話ではなかったと反省するしかないが、このまま行方不明にするわけにもいかない。
そこで、残っている首無し騎士に探索を頼むという、なんとも効率の悪い事をしに来たのだ。
二重遭難の可能性は高いが、それでも頼まないよりマシだろう。
ある意味、前回全員と契約できなかったのは幸いと思っておこう。
「当然、追加で魔力を頂けるのですよね?」
まあそうですよね。首無し騎士の魔力要求量は結構多い。前に来た時はほんの一部としか協力体制を築けなかったが、今回は少しは余裕がある。
「ああ、勿論だ。それじゃ行ってくるよ」
ここにもやっぱりあった魔王魔力拡散機。だがその場所がちょっと厄介だ。
別に行くのが嫌というわけでは無い。難易度が高いわけでもない。ただちょっとだけ厄介なのだ……。
進むにつれ、だんだんと設置されている場所が見えてくる。
高い山の中腹で、周囲には何本もの溶岩の川が流れている。その周辺には、遠目でも分かるほどの巨大な生き物が飛翔していた。それはこちらに気が付くと、バッサバッサと音を立て大量に飛んで来る。
翼長12メートル程、体長は尾まで入れれば18メートルを超える。全身には刃など通りそうもない分厚い紅蓮の鱗。トカゲのような顔には縦長の黄色い瞳、口には鋭い牙がずらりと並ぶ。
ドラゴンのように4本の四肢を持つが、腕は翼になっている。ドラゴンではなくワイバーン。灼熱の翼竜だ。
「魔人様おかえりなさーい」
「魔王、久しぶりー」
「魔王、お土産は何?」
すぐさま群がられてもみくちゃにされる。こいつらめったやたらと人懐っこい。
しかも鱗が無茶苦茶熱い。それに力加減が結構いい加減で、ぎゅうぎゅう押されると骨がメキメキ鳴る。悪い奴らじゃないんだが、少々困る癖があるのだ。
俺の世界でも翼竜は人が騎乗した姿で描かれることが多いが、このわんこのような性格は異世界共通なのだろうか。
「おかえりー、ウラーザムザザー」
以前と変わらぬ大きな目玉。全身を這いまわる白い芋虫。背中の全裸な太っちょな女性も変わらないが、なぜかハイビスカスの首飾りが付いている。北極に言っていたのでは……。
いや、魔人の行動にツッコミを入れたらダメだ。
「ただいまずの。元気そうで何よりずが」
にゅうっと芋虫の触手が伸び、握手をする。
――また変な化け物が現れた……。
その様子を、ユニカはホテルの二階から眺めていた。
魔族に関しては図書館で何度も見たし、歴史や戦闘技術の授業でも習った。だがあんなモノは聞いた事もない。
他にどんな魔族がいるのか……調べなければいけない。そして人類圏にいる同胞に伝えなければいけない。人類の勝利の為に。
――それでいいの? 誰かが聞いたような気がする。
……気のせいだ。妊娠して段々と精神が不安定になっていくのを感じる。魔王の子供のせいだろうか?
魔族との生活を許容し始めている自分。人類を裏切っている自分。でもそれは違う、あたしじゃない。
自分は人類の一員、その自覚を持ち続けなければ耐えられない。そう、気持ちを切り替えて朝食を作るために厨房へと降りて行った。
「え、ウラーザムザザでもだめなの?」
相和義輝が手に持っているのは巨大な二枚貝。人類が使う通信機だ。他にも色々使える便利グッズであり、何とか使いたいと思っていたのだが……。
「使い方はわかるずに。だが使えるかと言われると無理ずの。先ほど人間がいたようだが、あれに使わせるのはどうかずら」
「そうか!? それを忘れていました」
すぐにダッシュしてホテルに戻ると、丁度彼女は厨房で朝食を作り始めているところだった。
包丁を切るトントンというリズムが心地よく響き、野菜の香りが漂っている。脇に置いてあるのは下ごしらえをした鶏肉であろうか。今日の朝食は何だろう……いや気にはなるが今聞きたいのは二枚貝の方で……。
「ユニカ、これ使えないかな?」
「気やすく話しかけないで! 使えないわよ! 出てって!」
出来る限りさりげなく、気さくに聞いたつもりだったが、いともあっさりと突っぱねっれる。
一応は大切な事なので何とか聞きたかったのだが、なだめる手段が思いつかない。こういう時、女性慣れしていないのは辛い。
ユニカは怒鳴りながらもじりじりと後ろに下がり、包丁をしっかりと握りしめている。
溜息が出そうだ……本来ならもっと穏やかな空気が流れるべき厨房なのに、今にも殺し合いが起きそうな程に張り詰めている。これはダメだ……退散しよう。
「ダメでした……」
「気を落とすなずい」
彼女との関係をもう少しくらいは改善したいが、拉致った手前何も言えない。仲良くしようなんて言えた義理ではないのだ。
それにまだまだやる事が山ほどある。彼女との関係は、時間が解決してくれると信じよう。
「それよりも、海の方が大変な事になっているずね」
「ああ、それでしたら……」
一応サキュバスたちから聞いている。海路が使えなくなって云々だっただろうか。だがその程度なら大した問題でもないだろう。
ウラーザムザザの心配そうな巨大な瞳が少し気になったが、今は他にやっておきたい事があったのだ。
◇ ◇ ◇
火山帯。炎と石獣の領域と針葉樹の森、ホテルや亜人の森など様々な領域に囲まれている地。かつて首無し騎士のシャルネーゼをスカウトしたところだ。
炎と石獣の領域に似た気候だが、こちらはあちらこちらに真っ赤に溶けた溶岩が流れ続ける灼熱地帯。領域内はどこも、四季の影響は少なく環境が安定しているが、ここも他と同じだ。冬の寒さなどあったものではない。
そんな中でも平然と進めるスースィリアの上に乗り、もう一人ゲルニッヒを伴ってここまで来ていた。やっておきたいことが2つあったのだ。
「首無し騎士はいるかー?」
「あら、魔王様。お姉さまなら戻っていませんよ」
直ぐに一人の首無し騎士が姿を現してくれる。話が早くてありがたい。
とは言え、やっぱりかと思ってしまう。
シャルネーゼに人間の情報収集を頼んだものの、あれから一度も戻ってきていない。脳筋に頼む話ではなかったと反省するしかないが、このまま行方不明にするわけにもいかない。
そこで、残っている首無し騎士に探索を頼むという、なんとも効率の悪い事をしに来たのだ。
二重遭難の可能性は高いが、それでも頼まないよりマシだろう。
ある意味、前回全員と契約できなかったのは幸いと思っておこう。
「当然、追加で魔力を頂けるのですよね?」
まあそうですよね。首無し騎士の魔力要求量は結構多い。前に来た時はほんの一部としか協力体制を築けなかったが、今回は少しは余裕がある。
「ああ、勿論だ。それじゃ行ってくるよ」
ここにもやっぱりあった魔王魔力拡散機。だがその場所がちょっと厄介だ。
別に行くのが嫌というわけでは無い。難易度が高いわけでもない。ただちょっとだけ厄介なのだ……。
進むにつれ、だんだんと設置されている場所が見えてくる。
高い山の中腹で、周囲には何本もの溶岩の川が流れている。その周辺には、遠目でも分かるほどの巨大な生き物が飛翔していた。それはこちらに気が付くと、バッサバッサと音を立て大量に飛んで来る。
翼長12メートル程、体長は尾まで入れれば18メートルを超える。全身には刃など通りそうもない分厚い紅蓮の鱗。トカゲのような顔には縦長の黄色い瞳、口には鋭い牙がずらりと並ぶ。
ドラゴンのように4本の四肢を持つが、腕は翼になっている。ドラゴンではなくワイバーン。灼熱の翼竜だ。
「魔人様おかえりなさーい」
「魔王、久しぶりー」
「魔王、お土産は何?」
すぐさま群がられてもみくちゃにされる。こいつらめったやたらと人懐っこい。
しかも鱗が無茶苦茶熱い。それに力加減が結構いい加減で、ぎゅうぎゅう押されると骨がメキメキ鳴る。悪い奴らじゃないんだが、少々困る癖があるのだ。
俺の世界でも翼竜は人が騎乗した姿で描かれることが多いが、このわんこのような性格は異世界共通なのだろうか。
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