この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

領域の復元 後編

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 物自体はすぐに見つかった。スースィリアの採掘力はさすがに素晴らしい。
 だが待っていた間、こちらは湿地に降り立っていたわけだ。そして今、その腰の上まで無数の女性の手が、新鮮な魔力を求めてワショワショ蠢いている。しかもこいつら魔力を引っ張る力がやたら強い。恐怖のせいもあるだろうが、魔力訓練をしていなかったら全魔力を持っていかれたかもしれない。

「今から供給するから、お前ら少し落ち着け!」

 飢えすぎだろう……ちょっと苦笑してしまう。なんだか周囲の環境もあって、池の鯉に餌をやる気分だ。そんな事を考えていると、大きな声が湿地に響く。

 ブオオオオォォォォォォーーー!

 ボオオオオォォォォォォーーー!

 かなり遠くから、そしてあちらこちらから、ほら貝の音のような声が響く。ここに住んでいた草食動物だ。いや鉄食動物と言っても良いかもしれない。
 遠くてよく判らないが、2~3メートルのアルマジロっぽい外見だ。湿地帯全体が地続きになった為、生き残りの仲間を求めて動き出したのだろう。あの声は仲間を呼ぶ声だ。
 だがそれに混ざって、違う意味を持つ鳴き声が聞こえてくる。

 ――ありがとう。

 いや、彼らだけではない。水面を走る小さな水生昆虫。根を伸ばし始めた鉄花草てっかそう。意味を持つ言葉を発しない彼らの気持ちが、水の音、風の音に乗って伝わって来る。

 ――――ありがとう――――魔王――――ありがとう――――。

 何かが頬を伝うのを感じる。これは涙か……?
 いつの間にか、エヴィアがそっと俺の手を握っている。
 聞こえてくる彼らの意識――それは次第に大きくなり、俺の周りを包んでいく。

 戦いの痕跡はもう沼に沈んで見えないが、この下には俺が殺した数十万人の遺骨が沈んでいる。俺は大量殺戮者だ。
 だけど、その戦いで守れた相手もいたのだ。あの戦いにも、しっかりと意味はあったのだ。
 俺は、溢れる涙を止めることが出来なかった。




 ◇     ◇     ◇




 その頃、魔人ゲルニッヒと魔人ヨーツケールは、ユニカに付き合って廃墟で魚や海老、蟹や貝などの食材を集めていた。
 ここの水路には、かつてヨーツケールが魔王の為に用意した魚の他にも様々な魚介や甲殻類が生息している。それをユニカの指示で二人が集めているのだ。

「これとこれは良し。それは毒があるからダメ」

 そう言いながら集まった食材をてきぱきと選り分ける。

「ホホウ、ハクシキ……ソウ、博識なのですね」

 ゲルニッヒは一対の手は前で組み、もう片方の手で顎を撫でる。感心しているような仕草だ。だが仕草だけではなく、彼女の知識に対して実際に感心していた。

「こんなの、生きるためには大体覚えるわよ」

 ユニカが来てからというもの、魔王の食事は劇的に改善した。それもこれも、彼女が独学で学んできた生物知識によるものだったのだ。
 だがふと、そんな彼女の手が止まる。それは赤と緑の斑模様をした6本腕の大ヒトデ。

「これはどっちだったかしら……」

「分からないノモ、アルのでデスネ」

「そりゃ、あたしだって全部知っているわけないわ。故郷の図書館の知識じゃ、どうしても限界があるし。むしろ知らない種類の方が多いくらいよ。ここは……豊かなのね。あたしの故郷とは大違いだわ」

 とりあえず分からないのはポイと捨てると、ヨーツケールが拾ってつまみ食いをする。

 ――平和だわ……。

 ユニカは今の生活が分からなくなってきていた。特にこの魔人という存在がだ。
 きつい物言いにも全く動じない。最近では意地を張るのも馬鹿々々しくなってきた。それに襲ってくる様子もない。最初の頃はいつ殺されるかと恐怖に怯えた日々だったが、最近ではすっかり慣れてしまった。

 勿論、それは自分のお腹の中に魔王の子を宿しているからだ。それが無ければ、とっくに自分は彼らの胃の中に収まっていただろう。いや、もっと恐ろしい目に合っていたかもしれない。

 だがそれも子供を産むまでの話だ。産まれたら、敵である自分の命など虫けらほどの価値も無いだろう。
 もしかしたら、次の子を要求されるかもしれない。そうなれば、また暫くは命を繋げられる。だがそれで良いのだろうか?
 最初に生まれた子供はどうなる? 強力な魔力を継いだ魔王の子、人類の敵。きっと多くの同胞を殺すだろう。
 2人目は? 3人目は? やはり同様だ。自分は、人類最悪の裏切り者になってしまうのだろうか……。


「奥方、ヨーツケールの支度は出来た」

 選別された食料を器用にハサミの上に乗せ、巨大蟹が頭を下ろしてくる。
 鋏や足、体の周辺は赤と白の珊瑚に覆われているが、頭の部分はつるっつるだ。まるで禿げ頭のようだが、乗るとクッションのように柔らかくなる。
 自分の為……そう考えると、逆に居心地が悪くなる。こいつらは憎むべき敵なのだ。

「奥方じゃないわよ!」

 取り敢えずそう言って、よじよじと巨大蟹に乗り込んだのであった。
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