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【 大火 】
領域の復元 前編
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荒れ果てた大地に、僅かに残る湿地帯。そこに生えている植物は、まるで鉄の様な鈍い光沢を放っている。
そこら中に散乱する人骨を見れば、嫌でもかつての激戦を思い出してしまう場所だ。
「ついこの間の事なんだよな……」
そこはかつて鉄花草の領域と呼ばれていた地。そして、魔王相和義輝の初陣の地。ティランド連合王国軍と激戦を繰り広げた戦場跡だ。
そこに彼は、魔人エヴィアと魔人スースィリアを伴ってやってきていた。
「ポストに手紙は……ないよな、やっぱり」
分かってはいるが、肩から力が抜ける。やっぱり誰かの悪戯かと思われているのだろうか。人類と本気で話し合うのなら、やはりそれなりの事をする必要があるのだろう。
だが、今日ここに来た目的はそれではない。
「じゃあエヴィア、頼むわ」
「無理そうだったら、そう言って欲しいかな。言えば止めるよ」
そう言うエヴィアは、微妙に心配そうな表情を浮かべている。ユニカから学んでいるのだろうか? 最近のエヴィアはちょっとした表情や仕草に感情が現れるようになっている。元々人間との交流に興味があった魔人だ、彼女をしっかりと観察しているのだろう。
だが、そんなしみじみとした考えは、エヴィアの魔法と共に一気に消し飛んだ。
その小さな体に幾つもの光る鎖の輪が浮かぶと、それに合わせたように空に広がる油絵の具の空に渦が出来る。それは真っ直ぐ俺のところまで下りてくると、今度は魂を掃除機で吸い出すように、ぶわっとエヴィアに向けて引っ張られる。
――ちょっ! ちょい待ち! タンマ!
今まで味わった事の無い、奇妙な感覚に翻弄されてしまい言葉が出ない! 心の中で叫ぶが、エヴィアは目を閉じ動かない。多分あれは詠唱に夢中だ!
――ス、スースィリア……。
体も硬直して動かないので、目だけでスースィリアを探す。
いた――少し離れたところで、子犬ほどもあるダンゴムシを掘り起こして食べている。こちらも食事に夢中だ!
そうしている間にも、グイグイ魂が引っ張り出される感覚が続く。
だが成すがまま……諦めるしかない。多分、物凄い危険があるようだったら、スースィリアはあそこまで呑気ではあるまい。そう信じよう。信じるしかない……そんなことを考えながら、俺の意識は暗い闇に飲み込まれていった……………。
「う……うーん……」
柔らかい……ここはスースィリアの上か。
いつの間にか気を失っていたらしい。俺はスースィリアの頭、フワフワクッションの上に乗せられていた。そして頭の下にはエヴィアの太腿がある。どうやら膝枕をしていてくれたようだ。
「起きたかな。お疲れ様」
「お疲れなのである」
見上げるエヴィアは、柔らかな笑顔を浮かべてこちらを覗いている。なんだかその表情に、今更ながらドキリとした。
明るさはあまり変わっていない。1日以上眠っていたのでなければ、俺の体への影響はあまり考えなくても良いという事になる。
「どのくらい眠っていた?」
「1時間くらいかな。可愛い寝顔だったよ」
そうか……それなら大丈夫だ。
「それで領域は?」
頭をエヴィアの太腿に置いたまま辺りを見渡すと、そこは一面の湿地に姿を変えていた。
おー……と感心しそうになるが、何か違う。いや、何かじゃない不自然さ。そこにあるのはただの湿地。生物が何もいないのだ。
「そうか……生き物が増えるのはこれからなんだな」
なぜここを選んだか? それはこの領域にはまだ、この地に住む生物が生き残っていたからだ。領域が少しでも残っていれば、修復が出来る。それを聞いて真っ先に思い浮かんだのがここだった。正確には、残念ながらここしか知らないと言っていいだろう。
この次の段階。完全な荒れ地を真っ新な領域にするには俺の魔力、記憶や意志といったものを無作為に削り取る必要がある。その決断は暫くは先送りにしたいところだ。
だが実験は成功し、目的は達した。
今後も領域が欠片でも残っていれば、こうやって修復できるという事だ。今度リアンヌの丘にも行ってみよう。あそこやその周辺にも、僅かでも領域が残っているかもしれない。
「じゃあ帰るか」
起き上がりそう言いかけたとたん、湿地から女性の白く細い手がぞわっと生えてくる。それも一本や二本じゃない、何千何万本が一斉にだ。
完全な意識への不意打ち。そしてホラー。余りの驚愕に声の無い悲鳴が上がる。
「お、魔王やん」
「魔王やん」
「魔王やん」
なんだ? 男と子供の声がする。男の声が主体で、子供の声は遠距離通話の様に微妙に遅れて聞こえてくる。
「まあ、こんな事が出来るのは魔王以外はおらんよな。久しぶりやん」
「やん」
「やん」
手か!? 沼から生えてきた手が話しかけてきている。こいつらもしかして……。
「沼の精霊かな。精霊は環境さえ整えば一気に出てくるよ」
「休眠中の種に水をやるようなものか」
なんにせよ、心臓に悪い連中だ。出る時は一声かけて欲しかった。
よく見ると大体50本前後で一つの塊になっており、ワシャワシャと蠢いている。それが湿地中に無数に出ているのだからやっぱり怖い。
しかしこういったのが居るという事は……。
「あるの? 魔王魔力拡散機」
「壊されていなければ、どこかに埋まっているのであるー」
どこかって言われても、このだだっ広い湿地帯を探すのは一苦労……いや、一大発掘プロジェクトだ。
「沼の精霊よ、魔王魔力拡散機が何処にあるかわかるか?」
「分かるぞ、少し離れたところに埋まっている。深さはそうだな……30メートルくらいだやん」
「だやん」
「だやん」
……まあ、話が早くて助かった。スースィリア、悪いが掘り出して来てくれ。
そこら中に散乱する人骨を見れば、嫌でもかつての激戦を思い出してしまう場所だ。
「ついこの間の事なんだよな……」
そこはかつて鉄花草の領域と呼ばれていた地。そして、魔王相和義輝の初陣の地。ティランド連合王国軍と激戦を繰り広げた戦場跡だ。
そこに彼は、魔人エヴィアと魔人スースィリアを伴ってやってきていた。
「ポストに手紙は……ないよな、やっぱり」
分かってはいるが、肩から力が抜ける。やっぱり誰かの悪戯かと思われているのだろうか。人類と本気で話し合うのなら、やはりそれなりの事をする必要があるのだろう。
だが、今日ここに来た目的はそれではない。
「じゃあエヴィア、頼むわ」
「無理そうだったら、そう言って欲しいかな。言えば止めるよ」
そう言うエヴィアは、微妙に心配そうな表情を浮かべている。ユニカから学んでいるのだろうか? 最近のエヴィアはちょっとした表情や仕草に感情が現れるようになっている。元々人間との交流に興味があった魔人だ、彼女をしっかりと観察しているのだろう。
だが、そんなしみじみとした考えは、エヴィアの魔法と共に一気に消し飛んだ。
その小さな体に幾つもの光る鎖の輪が浮かぶと、それに合わせたように空に広がる油絵の具の空に渦が出来る。それは真っ直ぐ俺のところまで下りてくると、今度は魂を掃除機で吸い出すように、ぶわっとエヴィアに向けて引っ張られる。
――ちょっ! ちょい待ち! タンマ!
今まで味わった事の無い、奇妙な感覚に翻弄されてしまい言葉が出ない! 心の中で叫ぶが、エヴィアは目を閉じ動かない。多分あれは詠唱に夢中だ!
――ス、スースィリア……。
体も硬直して動かないので、目だけでスースィリアを探す。
いた――少し離れたところで、子犬ほどもあるダンゴムシを掘り起こして食べている。こちらも食事に夢中だ!
そうしている間にも、グイグイ魂が引っ張り出される感覚が続く。
だが成すがまま……諦めるしかない。多分、物凄い危険があるようだったら、スースィリアはあそこまで呑気ではあるまい。そう信じよう。信じるしかない……そんなことを考えながら、俺の意識は暗い闇に飲み込まれていった……………。
「う……うーん……」
柔らかい……ここはスースィリアの上か。
いつの間にか気を失っていたらしい。俺はスースィリアの頭、フワフワクッションの上に乗せられていた。そして頭の下にはエヴィアの太腿がある。どうやら膝枕をしていてくれたようだ。
「起きたかな。お疲れ様」
「お疲れなのである」
見上げるエヴィアは、柔らかな笑顔を浮かべてこちらを覗いている。なんだかその表情に、今更ながらドキリとした。
明るさはあまり変わっていない。1日以上眠っていたのでなければ、俺の体への影響はあまり考えなくても良いという事になる。
「どのくらい眠っていた?」
「1時間くらいかな。可愛い寝顔だったよ」
そうか……それなら大丈夫だ。
「それで領域は?」
頭をエヴィアの太腿に置いたまま辺りを見渡すと、そこは一面の湿地に姿を変えていた。
おー……と感心しそうになるが、何か違う。いや、何かじゃない不自然さ。そこにあるのはただの湿地。生物が何もいないのだ。
「そうか……生き物が増えるのはこれからなんだな」
なぜここを選んだか? それはこの領域にはまだ、この地に住む生物が生き残っていたからだ。領域が少しでも残っていれば、修復が出来る。それを聞いて真っ先に思い浮かんだのがここだった。正確には、残念ながらここしか知らないと言っていいだろう。
この次の段階。完全な荒れ地を真っ新な領域にするには俺の魔力、記憶や意志といったものを無作為に削り取る必要がある。その決断は暫くは先送りにしたいところだ。
だが実験は成功し、目的は達した。
今後も領域が欠片でも残っていれば、こうやって修復できるという事だ。今度リアンヌの丘にも行ってみよう。あそこやその周辺にも、僅かでも領域が残っているかもしれない。
「じゃあ帰るか」
起き上がりそう言いかけたとたん、湿地から女性の白く細い手がぞわっと生えてくる。それも一本や二本じゃない、何千何万本が一斉にだ。
完全な意識への不意打ち。そしてホラー。余りの驚愕に声の無い悲鳴が上がる。
「お、魔王やん」
「魔王やん」
「魔王やん」
なんだ? 男と子供の声がする。男の声が主体で、子供の声は遠距離通話の様に微妙に遅れて聞こえてくる。
「まあ、こんな事が出来るのは魔王以外はおらんよな。久しぶりやん」
「やん」
「やん」
手か!? 沼から生えてきた手が話しかけてきている。こいつらもしかして……。
「沼の精霊かな。精霊は環境さえ整えば一気に出てくるよ」
「休眠中の種に水をやるようなものか」
なんにせよ、心臓に悪い連中だ。出る時は一声かけて欲しかった。
よく見ると大体50本前後で一つの塊になっており、ワシャワシャと蠢いている。それが湿地中に無数に出ているのだからやっぱり怖い。
しかしこういったのが居るという事は……。
「あるの? 魔王魔力拡散機」
「壊されていなければ、どこかに埋まっているのであるー」
どこかって言われても、このだだっ広い湿地帯を探すのは一苦労……いや、一大発掘プロジェクトだ。
「沼の精霊よ、魔王魔力拡散機が何処にあるかわかるか?」
「分かるぞ、少し離れたところに埋まっている。深さはそうだな……30メートルくらいだやん」
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