この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

世界よりも

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 ユニカは、魔人エヴィアと魔人スースィリアを伴って氷結の地に立っていた。
 彼女は魔王の裁量によって自由な行動が許されており、今日は2人と共に針葉樹の森で木の実の収穫中に、ふと隣接するこの地に入り込んだのだ。

「寒いわね! ここは何なのよ!?」

「魔王は氷結の地と呼んでいたかな。氷以外はあまりない土地だよ」

「人間は大変なのである―」

 身に着けているものと言えば、粗末な綿のワンピースに、胸から下げた聖印ホーリーシンボルと古い木の靴くらいなものだ。針葉樹の森も、ホテルのある廃墟も、凍えるほどの寒さではない。その為に軽装のままだったのだが、一歩踏み出したとたんに代わったこの気候はさすがに堪える。

「確かに何もないわね……氷と立木ばかり。あ、ちょっと待って、モフギ草が生えているわ」

 氷に閉ざされた大地には一見枯れているような木が点在し、その周辺には微妙に紫色の草が大量に生えている。

「ただの草かな? そこら中に生えているよ」

「まあ草よね。これは鎮痛剤にも使うけど、普通はハーブとして使うの。何十年かに一度綺麗な花を咲かせるらしいけど、私は見たこと無いわね」

「ユニカは植物に詳しいのかな?」

「勉強していた時期があったのよ。あたし、学者になりたかったの……」

 昔の事を語ろうとしたが、ハッと思い返してやめた。
 この極寒の中、素っ裸に近い恰好で平然としている少女と巨大ムカデ。それに何か話してどうなるというのか。

「いいからもう帰るわよ。こんな所、二度と来ないわ」



 ◇     ◇     ◇



 カルタ―のいる執務室は、通常王家のそれよりも遥かに小さい。
 精々小さな事務所といった程度であり、そこには広いテーブルに王が座る椅子、更に背面の壁には一面本で埋められた本棚が置かれている。その為狭く、普通の拝謁であれば謁見の間を使う。
 だがカルタ―は、よほどの大人数でない限り、この小さな執務室で要件を済ませていた。
 単純に形式を嫌がったというわけでは無く、移動の手間が惜しかったからだった。
 そこに今、二人の男が通された。
 ハーノノナート公国”死神の列を率いる者”ユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵と、マリセルヌス王国”逃避行”ロイ・ハン・ケールオイオン王である。

「お久しぶりでございます、カルター陛下」
「本日はお目通り叶い、誠に感謝の極みでございます」

 二人とも魔族領ではカルターの旗下として働き、また複雑なお国事情を抱えるメンツであった。

「私はそろそろレトー公爵の任を降りたいと存じます」
「私も同じくです。 マリセルヌス王国の国王を辞退したいのですが」

 そして、二人とも用件は同じであった。

「話は聞いている。ユベントはハーノノナートの血族にという話が来ているだろう? それに乗っかれば良かろうが」

「それは正直勘弁してほしい所ですね。私は部隊指揮官として自由に行動したいのですよ。炎と石獣の領域戦の前にエイカー・ラルク・ハーノノナート公爵が戦死したので、代わりにこれまで代理をしていたにすぎません。一介の武官に過ぎぬ私が、他国へ行って政治を行うなど、出来ようはずもありますまい」

「こちらも同じくですね。マリセルヌスの血族には優秀な人間が沢山います。いつまでも代理王なんて役職を押し付けられてはたまらないのですよ」

「つまり二人とも、もう魔族領への侵攻は無いと考えているって事か……」

 今後、第九次魔族領侵攻があれば、二人の軍事的な才覚は両国にとってプラスとなる。
 それ故、どちらの領地も首を縦に振らずここに泣きついて来たわけだ。
 だが一方で、この二人はもう戦いは無いと考えている。血族の長として自国を支えるならともかく、他国に骨を埋める気は無いというのだ。

「だが却下だ。これを見ろ」

「なんですか、これは……」
「ふーむ……正気の沙汰とは思えませんが、ムーオスは本気でやるつもりですか?」

 そこには来年、碧色の祝福に守られし栄光暦218年8月23日より、第九次魔族領侵攻戦を行うための計画が記されていた。



 ◇     ◇     ◇



「魔王は何をしているのかな?」

 朝、ホテルの部屋でピリピリしたエヴィアの声で目を覚ます。
 なんだ、不測の事態でも起きたのか……微睡まどろみながらもそう思い目を覚ましたのだが――

「うふふ、おはよう。夕べは凄かったわね」
「えへへ、思ったより立派で驚いちゃった」

 二人のサキュバスに両の頬にキスをされて覚醒する。

 ――なに!?
 気が付くと俺はベッドの上で全裸。そして絡みつくように左右で寝ている二人のサキュバス。いやまて、記憶が全くない。俺は何をしたんだ?

 そして目の前にはエヴィア。だがそれ程には怒っている様子は無い……おそらくこれは、正当な支払いだ。
 ――が、その後ろに凄い顔でこちらを睨んでいるユニカがいる。

「下種っ!」

 そう言うと、彼女はドスドスと廊下を歩いて行ってしまった。
 誤解だ! 俺は何もしていない……はずだ!

「魔王様、色々と新しい話を仕入れてまいりましたわ」
「魔王様、人間は意外と面白い状況になっているわよ」

 ……あの時、魔王の居城に来ていた二人のサキュバスか。艶やかな黒髪の大人しそうなサキュバスと、背の低い金髪巨乳のサキュバスだ。
 だが夕べの事が思い出せない。二人とどんなプレイをしたんだ! 仕方がない、もう1ラウンド行こう。

「それはダメかな? 過剰に取られ過ぎると体に良くないよ」

 ……くそう、正論だ。

「私カラモ、イクツカ情報がありマスヨ」

「ゲルニッヒ! 戻ったのか」

 別れてから今日で13日目、意外と早く戻ってきてくれた。それだけ何か重要な情報が入ったって事なのだろう。

「早速教えてくれ。そうだな……ゲルニッヒ、お前の考える一番の情報は何だ?」

「ユニカ様のご懐妊が確認されマシタ。おめでとうございマス」

 ベッドの上で、ほぼ全裸美少女二人に囲まれている俺にとっては、それは世界の命運より遥かに大きな衝撃だった。
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