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【 大火 】
これからの事 前編
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魔人エヴィアと共に魔人ヨーツケールに乗ったユニカは、針葉樹の森を見て少し感心していた。
「ずいぶん沢山の種類が生えているのね」
高々と乱立する針葉樹も、地面に生い茂る蔓草も、知識のない人間には普通の木と草にしか見えない。
しかしそれなりに知識がある人間からすれば、それは雑多な植物が群生するジャングルのようだった。
「ちょっと止まりなさい」
まるで主人かの様にヨーツケールに停止命令をする。これが素という訳ではない。だが、弱みを見せるわけにもいかなかったのだ。
今のユニカの心は、強大な魔族への恐怖と、それに対抗しなければいけない人類の使命、それぞれの間のバランスを取るのに必死だった。
要は、余裕が無かったのである。
「これリコルの実じゃない。こんな所に生えているなんて思いもしなかったわ」
そう言いながら、蔓草に成っている実を幾つかもぐ。胡桃のような堅い殻に覆われたこぶし大の実。彼女の故郷、貧しい北の国では貴重な食糧だった。
滅んでしまった故郷を思い出し涙が出そうになるが――
「それ食べられるのかな?」
エヴィアの呑気な声が望郷の想いをあっさりと経ち切る。
しばしの思案の後、ユニカはほいとエヴィアの木のみを放り投げた。
似てはいるけど毒がある可能性がある……ならば毒見でもさせよう、そう考えたのだが――、
エヴィアはそのまま口でパクリと受け取ると、殻ごとぼりぼりと食べてしまった。
「うん、確かに意外とおいしいかな」
(化け物に毒見をさせて、何になると思ったのよ……バカなあたし)
一つ溜息をつくと、残りの実を収穫して再びヨーツケールに乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
スースィリアの上に乗って移動中、不意にゲルニッヒが器用に背中を上ってやってきた。魔人達の大体の性格は把握したつもりだが、今一つこの魔人は掴み処が無い。
何と言うか、魔人は生き方を特化した存在だ。様々な選択肢の中からこう生きようと云う人生を設定し、それに従って生きている節がある。
人間嫌いのスースィリアがこうしている様に特殊な形で人生計画に変更があった例もあるが、概ねはそうだ。
だがこの魔人は解らない。人間への興味の集合体というが、同じ人間への興味を優先させたエヴィアとはまた違った感じだ。
「魔王よ、アナタは最終的にどうするつもりなのデスカ?」
そんな魔人から、不意に面白い質問が飛び出した。いや、何か今更な質問だと思う。
目的は平和だ。人類と魔族との平和、その為に戦っているのだ。
だがそんな言葉を口にするよりも早く――
「今後の話デスヨ魔王。人類はもう魔族領から手を引くかもしれマセン。シカシ、百年後は解りマセン。そういった話デス」
ああ、なるほど。それなら話は簡単だ。また攻めてきたらその時は戦えばよい……なんて話をしているのではないだろう。もっと深い所の話だ。
「今は色々考えているが、まだ何ともはっきりとしないな。最終的には多少のいざこざは甘受しながら共存を目指す、そんな所だろう。さっきの金なんかはその為の一つだな。あれに即効性は無いだろ? そういう事さ」
攻めてきた人類軍に金をいくら渡したところで、停戦なんてしないだろう。将来的な搦め手、政治的な準備。そういった辺りも視野に入れなければいけない。
「戦うのなら、吾がいくらでも手を貸すのであるぞー」
そう言ってくれるスースィリアが頼もしい。
だが戦いばかりではダメだ。しかし……もっと社会の仕組みを勉強しておくのだったと、後悔するなー。
◇ ◇ ◇
「ありゃ、先に着いてしまった」
途中で合流しなかったので、エヴィア達は随分早く進んだものだ……なんて思っていたら、どうもどこかで追い抜いてしまったようだ。考えてみれば道があるわけでもなく、結構適当に進みやすい所を進んでいるのだから仕方がない。
だがもう日暮れも近い。ヨーツケールの足なら途中で野宿の必要はないだろうが、あまり遅いと心配だ。
そんな事を考えていると、シャカシャカと高速で大きな蟹がやって来る。ようやく到着したか。
「随分と遅かったな、何かあったのか?」
「ユニカが酔ったかな」
ああ、なるほど。様子を見ると、ユニカはぐったりとして気分が悪そうだ。車酔いみたいなものだろうか。
見ればどこからか木の実を拾ってきたようだ。持ってあげよう、そう思い近づくが――
「触らないで!」
憎悪に満ちた目で一喝される。うーん、嫌われてる。
取り敢えずは、触らぬ神に祟り無しと思っていた方が良さそうだ。
幸いホテルには空き部屋がいくつもある。しばし、心と体を休めてもらおう……。
「な、何よここ! こんな所に連れてきて、一体どうしようってのよ!」
うん、普通にロビーの洗礼を受けているな。エヴィアもいるし、まぁ不死者に喰われる事は無いだろう。
「お帰りなさいませ、魔王様」
そう言うと、死霊のルリアがふわりとやって来る。先に戻っていたのか。
「何か動きはあったか?」
「人類軍は撤退を始めていますわ。ただチラホラと調査隊のような部隊が入ってきています」
そうか、やっと壁の向こうに下がることを決めてくれたか。
しかし調査隊か……まぁ当然だろうな。こちらとしても、のんびり構えているわけにはいかないか。
「ずいぶん沢山の種類が生えているのね」
高々と乱立する針葉樹も、地面に生い茂る蔓草も、知識のない人間には普通の木と草にしか見えない。
しかしそれなりに知識がある人間からすれば、それは雑多な植物が群生するジャングルのようだった。
「ちょっと止まりなさい」
まるで主人かの様にヨーツケールに停止命令をする。これが素という訳ではない。だが、弱みを見せるわけにもいかなかったのだ。
今のユニカの心は、強大な魔族への恐怖と、それに対抗しなければいけない人類の使命、それぞれの間のバランスを取るのに必死だった。
要は、余裕が無かったのである。
「これリコルの実じゃない。こんな所に生えているなんて思いもしなかったわ」
そう言いながら、蔓草に成っている実を幾つかもぐ。胡桃のような堅い殻に覆われたこぶし大の実。彼女の故郷、貧しい北の国では貴重な食糧だった。
滅んでしまった故郷を思い出し涙が出そうになるが――
「それ食べられるのかな?」
エヴィアの呑気な声が望郷の想いをあっさりと経ち切る。
しばしの思案の後、ユニカはほいとエヴィアの木のみを放り投げた。
似てはいるけど毒がある可能性がある……ならば毒見でもさせよう、そう考えたのだが――、
エヴィアはそのまま口でパクリと受け取ると、殻ごとぼりぼりと食べてしまった。
「うん、確かに意外とおいしいかな」
(化け物に毒見をさせて、何になると思ったのよ……バカなあたし)
一つ溜息をつくと、残りの実を収穫して再びヨーツケールに乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
スースィリアの上に乗って移動中、不意にゲルニッヒが器用に背中を上ってやってきた。魔人達の大体の性格は把握したつもりだが、今一つこの魔人は掴み処が無い。
何と言うか、魔人は生き方を特化した存在だ。様々な選択肢の中からこう生きようと云う人生を設定し、それに従って生きている節がある。
人間嫌いのスースィリアがこうしている様に特殊な形で人生計画に変更があった例もあるが、概ねはそうだ。
だがこの魔人は解らない。人間への興味の集合体というが、同じ人間への興味を優先させたエヴィアとはまた違った感じだ。
「魔王よ、アナタは最終的にどうするつもりなのデスカ?」
そんな魔人から、不意に面白い質問が飛び出した。いや、何か今更な質問だと思う。
目的は平和だ。人類と魔族との平和、その為に戦っているのだ。
だがそんな言葉を口にするよりも早く――
「今後の話デスヨ魔王。人類はもう魔族領から手を引くかもしれマセン。シカシ、百年後は解りマセン。そういった話デス」
ああ、なるほど。それなら話は簡単だ。また攻めてきたらその時は戦えばよい……なんて話をしているのではないだろう。もっと深い所の話だ。
「今は色々考えているが、まだ何ともはっきりとしないな。最終的には多少のいざこざは甘受しながら共存を目指す、そんな所だろう。さっきの金なんかはその為の一つだな。あれに即効性は無いだろ? そういう事さ」
攻めてきた人類軍に金をいくら渡したところで、停戦なんてしないだろう。将来的な搦め手、政治的な準備。そういった辺りも視野に入れなければいけない。
「戦うのなら、吾がいくらでも手を貸すのであるぞー」
そう言ってくれるスースィリアが頼もしい。
だが戦いばかりではダメだ。しかし……もっと社会の仕組みを勉強しておくのだったと、後悔するなー。
◇ ◇ ◇
「ありゃ、先に着いてしまった」
途中で合流しなかったので、エヴィア達は随分早く進んだものだ……なんて思っていたら、どうもどこかで追い抜いてしまったようだ。考えてみれば道があるわけでもなく、結構適当に進みやすい所を進んでいるのだから仕方がない。
だがもう日暮れも近い。ヨーツケールの足なら途中で野宿の必要はないだろうが、あまり遅いと心配だ。
そんな事を考えていると、シャカシャカと高速で大きな蟹がやって来る。ようやく到着したか。
「随分と遅かったな、何かあったのか?」
「ユニカが酔ったかな」
ああ、なるほど。様子を見ると、ユニカはぐったりとして気分が悪そうだ。車酔いみたいなものだろうか。
見ればどこからか木の実を拾ってきたようだ。持ってあげよう、そう思い近づくが――
「触らないで!」
憎悪に満ちた目で一喝される。うーん、嫌われてる。
取り敢えずは、触らぬ神に祟り無しと思っていた方が良さそうだ。
幸いホテルには空き部屋がいくつもある。しばし、心と体を休めてもらおう……。
「な、何よここ! こんな所に連れてきて、一体どうしようってのよ!」
うん、普通にロビーの洗礼を受けているな。エヴィアもいるし、まぁ不死者に喰われる事は無いだろう。
「お帰りなさいませ、魔王様」
そう言うと、死霊のルリアがふわりとやって来る。先に戻っていたのか。
「何か動きはあったか?」
「人類軍は撤退を始めていますわ。ただチラホラと調査隊のような部隊が入ってきています」
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