この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

それぞれの準備 前編

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「ちゃんとお前が面倒見るんだぞ!」

 そうエヴィアに言い聞かせたが、果たしてどこまで理解しているのだろうか。

 彼女は割り切ったのか感情を振り切ったのかは知らないが、死霊レイスに照らされながら、のしのしと散策をしている。
 場所が知られてしまう事は問題だが、中身自体は機密どころか本当に何も無い所だ。なので、ここは彼女の気が済むようにさせるべきだろう。
 エヴィアが金魚の糞の様に後ろにくっついて歩くのが、なんだか見ていて面白い。

「何で明かりくらいつけないのよ!」

 なんてのんびり構えていたら、いきなり叱られた。いや、つけられるなら俺だってそうしたいさ。
 すると黄金の玉座の後ろにある魔道炉まで行くと、その白く細い手をかざす。
 その腕に銀の鎖のようなものが浮かんで消え、パチパチと数回点滅した後、魔王の居城ホールにやんわりと明かりが灯った。
 古い蛍光灯かよ……。

「これしか明るくならないの? どんな旧式なのよこれ」

 彼女は不満そうだが、こちらとしては明かりが付いただけかなりマシだ。蛍光灯点灯係として、正式に雇ってもいいくらいだ。
 だが正直顔を合わせづらい。まともにこの子の目を見るのが怖い。
 そう言えば……。

「まだ名前を聞いていなかったな。俺は……その、魔王だ。君は?」

 じろりと一瞥いちべつ。色々と思うところがあるのは理解するが、もう少しは仲良くしたいと思う。
 勿論、互いにそれを言えた立場ではないのだろうが……。

「ユニカ・リーゼルコニムよ。102歳、ただの奴隷。身代金なんて銅貨一枚だって出やしないわ」

 今更そんな事で金を稼いだってどうしようもない。
 だが考えてみれば、確かに金は必要だ。のんびり買い物ショッピングをするわけではないが、人間とは金で動く生き物だ。
 無論そうでない者もいるだろうが、あればあるほど選択肢が増える事もまた事実。

「なあ、誰か……」

 言おうとして止まる。さすがにユニカの前でこんな話をするほど馬鹿ではない。

「エヴィア――だけでは不安だな。ヨーツケール、エヴィアと一緒に彼女をホテルに連れて行ってくれ」

「良いのかな?」

 それは複数の意味を持つ質問だ。ホテルの場所を知られていいのかと、二人が居なくて大丈夫かの。
 だがクリアするしかない。どのみち、ここに長くいる予定はないのだ。

「2時間くらいしたら追いかけるよ。先に行っていてくれ」




 ◇     ◇     ◇




 3人がホールの穴から姿を消すと、代わりにゲルニッヒが近づいてくる。

「それで先ほど言いかけたコト、人間界のツテに関してデスネ」

 流石は魔人。金から連想したこちらの思考を読み、しっかりと理解してくれている。

「ああ、そうだ。宝石ってのは、どの位の価値があるんだ?」

「ハハハ、そんなモノ、大きさや品質によりマスヨ」

 ゲルニッヒは腹を抱えて盛大に笑う仕草をするが、声は全く笑っていない。本当にエヴィアと正反対だ。
 それと、魔人に曖昧な質問はダメだったな。久々に思い出したぞ。

「例えばこれ……」

 そう言って、玉座に張り付いている宝石の一つを指さす。親指くらいの大きさの、見たところエメラルドっぽい。俺の金銭感覚なら相当な額になるはずだ……ガラス玉ですとか言われなければ。

「ソウですね、私の知っている貨幣価値ナラ、ワッサド金貨なら33枚、トリエント金貨なら1万3015枚、ビブルフスフ金貨なら……」

「いやいや、ストップ! そんな事をいきなり言われても解らん。そうだな……浮遊式輸送板は買えるか? 何枚とか、何分の一枚でも良い」

「ハハハ、ソレコソ買った事が無いから分かりマセンヨ」

 再び大笑いのポーズをされる……本気で馬鹿にされているようにしか思えない。だがこの件に関しては本当に馬鹿だ。俺は何も知らないのだ……。

「先代までの魔王は金とか集めてなかったのか?」

「吾の知識によると、世界のあちこちに隠してあるのである。吾はここに隠してある金貨のありかを知っているのであるぞー」

 ――マジか!?

「行くのに時間はかかるか?」

 今まで興味はなかったが、あると言うならぜひ見たい!
 それにこの魔王の居城、考えてみたらホール直行の場所しか見ていないな。坑道の中には色々な部屋があるのだろうか……蟻の巣みたいに。

「吾の足ならすぐに着くのであるぞ。行くー?」

「ぜひ行こう!」


 こうしてスースィリアの上に乗って移動開始。速度は頭を振らない程度の速さだが、坑道の壁が近すぎてかなりの怖さだ。
 そして何より驚いたのが、魔人ゲルニッヒがそのスースィリアの速度に追いついて来る事だ。あの短い触手の足からは信じられん。しかも体は一切動かさずに移動している。見た目もあって、ホラー物の怪人みたいだな。


 目的の場所はすぐに着いた。細い坑道を進んだ先の行き止まり、僅かに広くなっている場所だ。
 鉄とは違う、人間の武器や鎧と同じ金属の箱が幾つも積まれている。大きさは棺くらいだろうか。
 開けてみると、中には確かに大量の金貨が入っている。価値は解らないが、まさに一山当てたといった感じでワクワクする。

「他にもあるのか?」

 ――好奇心が抑えられない!

「この地域の坑道だけでもまだありマスヨ。特に先々代の魔王はリャクダツ……ソウ、略奪が好きデシタ。あの玉座も、先々代がどこかの城から奪ってきたものデス」

 そうか、あの趣味の悪い玉座は魔王製じゃなかったか。俺に関係ない話なのだが、なんだか少しほっとした。

「今はある事だけ分かればいいや。ホテルへ行こう」




 ◇     ◇     ◇




 ムーオス自由帝国、特殊兵器開発局局長にして“地面に穴をあける一族”、“魔族の次に嫌われる者”の2つの異名を持つヘッケリオ・オバロスが謁見の間に呼ばれたのは、早朝というには早い、まだ空が微かに明るくなってきた頃だった。
 だが元々彼はこの時間には寝ていない。いつも昼過ぎまで研究し、夕方寝ているのだ。
 だから彼にとって、呼び出される事は問題が無い。だが研究の邪魔をされた事は、少々不快であった。

 謁見室は横12メートル、奥行き18メートルの少し細長で、床には真っ赤な絨毯、一番奥には豪華なソファが置かれている。玉座などではなく、本当に黒い革張りのふっくらとしたソファだ。

 今そこに座るのは、ムーオス自由帝国皇帝、ザビエブ・ローアム・ササイ・ムーオス。
 230センチの長身は座っても尚、152センチのヘッケリオより視線が高い。だが、お互いの表情は、まるで立場が逆転したかのようだ。

 ザビエフ皇帝の茶色い瞳には疲労の色が濃く、まるでここ暫く休息をとっていないかのように見える。
 一方、ヘッケリオ局長は猫背ではあるが、ふてぶてしく自信に溢れたような態度をしている。

 他には王の左右に男が一人ずつ立ち、彼が入ってきた唯一の入り口には二人の衛兵が立っていた。

「お呼びで御座いましょうか? 皇帝陛下さま」

 一応は丁寧な言葉とは裏腹に、あまりにも無礼な態度。
 纏った白衣は油で汚れ、髪も伸びっぱなしで暫く洗った形跡もないボサボサ頭。
 ひさまづかないのはこの国の流儀ではあるが、一礼すらしない。
 それどころか彼は今、両手を白衣のポケットに入れたままなのだ。
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