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【 大火 】
先代魔王の娘
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「エヴィアはちょっと出かけてくるかな。お土産に期待していいよ」
朝、エヴィアはそう言うと一人で出て行った。
「気を付けてな。怪我に注意しろよ。ちゃんと食べるんだぞ? 忘れ物はないか?」
見送りの時に心配で色々と言ったが、あれは俺の不安の裏返しだろう。
考えてみれば、初めて出会って以来、エヴィアと別行動をするのは初めてだ。まるで半身を失ったような寂しさを感じるが、何か考えがあるのなら仕方がない。
ホテルへ移動しようと思っていたが、向こうの用事が終わるまで少しお預けだ。
その間に、出来る事は全て済ませないといけないな。
「ルリアー」
「なんですの? 魔王様」
灯りになっている死霊集団からふわりとルリアがやって来る。
「何人か使って、人間の情報を集めて欲しい。細かい事でも良いから色々知っておきたくてね」
「ふーん、もうサキュバスに頼んだのではありませんの?」
唇を尖らし、ほっぺを膨らまし、両手は後ろに当てて前屈みでこちらを覗き込んでくる。
なんとなくだが、ちょっとむくれている様な……?
――え!? もしかして嫉妬? 俺いつの間にか嫉妬される程モテモテに?
などと一瞬考えたが違うな、これはただの対抗心だ。
「適材適所だよ。死霊には死霊の得意分野で情報を集めて欲しい。シャルネーゼもいるんだろ? そっちも頼むよ」
「それは構わないが、魔王の護衛は大丈夫なのか? 戻って来たら死んでいましたでは困るぞ」
「大丈夫だ。魔人が3人もいるし、エヴィアもすぐに戻って来るだろうしな」
「では指示を出しますわね。わたくしは明かりも兼ねていますので、しばらくは残りますわ」
「私は行ってこよう。朗報を楽しみにな。ハッハッハッハッハ」
これでこちらは情報待ちだ。
最悪のパターンは、人類軍が個別に動き、各所で同時に活動される事。次が総力を結集して来る事って所か。
最良のパターンとしては和平提案がされる事。こっちは確率低そうだけどな……。
だが時間は出来た。
「ゲルニッヒ、聞きたい事がある」
「ドウゾ何でも聞いてクダサイ、魔王」
急いで死霊達がゲルニッヒの上に行き照らす。ゆっくり深々とお辞儀をする仰々しいポーズと相まって、本当にこいつは舞台俳優のようだ。言葉は棒読みだが……。
「俺は魔王の息子、ケーバッハと名乗る男と戦った。その記憶は貰っているか?」
「勿論、受け取っておりマス。ソノ節は大変だったようデスネ」
「彼は何者だ?」
一瞬動きが止まり、大豆のような頭がくるりと回転する。あれは思考した――そんな感じなのだろうか?
「ヨハン・エルドリッド。2代前の魔王の息子デス。当時は壁がありませんデシタ。魔王は死ぬ時に、息子を人間世界に預けたと覚えていマス」
やはり本当に魔王の子だったのか。
しかし人間世界に紛れていたとはね……いや待て。
「他に魔王の子供ってのは居るのか?」
今度は頭の大豆が縦に二回転。今までの魔人達に比べ、動きの激しさが目立つ。
「ハイ、多数イマス。ですが魔族領にはイマセン。全て人間の世界で暮らしてイマス」
奇妙な話だ。まさかライオンのように、ハーレムのボスが変わったら前の子供は全て殺すような風習があるわけでも……もしかして、あるの?
「ありまセンヨ。デスガ、当時は風習のようなものデシタ。代が変わる時、先代の子供はひっそりと人間社会に紛れ込むのデス」
こちらの考えを先取りして話を続けるゲルニッヒ。
伝統というか風習というか、まあ色々あるのだろう。
「そいつらも、俺……魔王や魔人を恨んでいるのかな……」
ケーバッハが俺を見る目。狂気を孕んだ憎しみの瞳を思い出す。2代前……壁が出来る前……あの憎悪を抱きながら、彼は幾星霜の時を生きてきたのだろうか。
「ドウでしょう? 人それぞれだと思いマスヨ。私も何人かまだ交流がありマスガ、彼らは意外と友好的デス」
それは別の意味で意外だ。壁があるのに交流は途絶えていないとは……。なら案外、人間社会での協力者を作る事も出来るかもしれない。だがそれは、何を協力してもらうかが決まらないと始められないな……。
「先代魔王にも子供は居たのか?」
檻で出会った先代魔王。俺よりもずっと子供に見えたが、彼の発する空気は子供なんてものじゃ無かった。そしておそらくは、俺などとは次元が違うレベルで強い力を持っていただろう。一方で、性欲とは無縁の様な、現世と隔絶したような印象があった……。
「イマしたが、奥方と長女は亡くなりマシタ。もう一人残っていまシタガ、今も残っているかは不明デス」
――いたのか!? うーん、これまた驚きだ……。
「名前は……いや、今も同じ名前である可能性は無いか。一応、何て名前なんだ?」
「確か……ソウですね。まりっか……マリッカと言いマス。魔人アンドルスフの庇護下にいると記憶してイマス」
朝、エヴィアはそう言うと一人で出て行った。
「気を付けてな。怪我に注意しろよ。ちゃんと食べるんだぞ? 忘れ物はないか?」
見送りの時に心配で色々と言ったが、あれは俺の不安の裏返しだろう。
考えてみれば、初めて出会って以来、エヴィアと別行動をするのは初めてだ。まるで半身を失ったような寂しさを感じるが、何か考えがあるのなら仕方がない。
ホテルへ移動しようと思っていたが、向こうの用事が終わるまで少しお預けだ。
その間に、出来る事は全て済ませないといけないな。
「ルリアー」
「なんですの? 魔王様」
灯りになっている死霊集団からふわりとルリアがやって来る。
「何人か使って、人間の情報を集めて欲しい。細かい事でも良いから色々知っておきたくてね」
「ふーん、もうサキュバスに頼んだのではありませんの?」
唇を尖らし、ほっぺを膨らまし、両手は後ろに当てて前屈みでこちらを覗き込んでくる。
なんとなくだが、ちょっとむくれている様な……?
――え!? もしかして嫉妬? 俺いつの間にか嫉妬される程モテモテに?
などと一瞬考えたが違うな、これはただの対抗心だ。
「適材適所だよ。死霊には死霊の得意分野で情報を集めて欲しい。シャルネーゼもいるんだろ? そっちも頼むよ」
「それは構わないが、魔王の護衛は大丈夫なのか? 戻って来たら死んでいましたでは困るぞ」
「大丈夫だ。魔人が3人もいるし、エヴィアもすぐに戻って来るだろうしな」
「では指示を出しますわね。わたくしは明かりも兼ねていますので、しばらくは残りますわ」
「私は行ってこよう。朗報を楽しみにな。ハッハッハッハッハ」
これでこちらは情報待ちだ。
最悪のパターンは、人類軍が個別に動き、各所で同時に活動される事。次が総力を結集して来る事って所か。
最良のパターンとしては和平提案がされる事。こっちは確率低そうだけどな……。
だが時間は出来た。
「ゲルニッヒ、聞きたい事がある」
「ドウゾ何でも聞いてクダサイ、魔王」
急いで死霊達がゲルニッヒの上に行き照らす。ゆっくり深々とお辞儀をする仰々しいポーズと相まって、本当にこいつは舞台俳優のようだ。言葉は棒読みだが……。
「俺は魔王の息子、ケーバッハと名乗る男と戦った。その記憶は貰っているか?」
「勿論、受け取っておりマス。ソノ節は大変だったようデスネ」
「彼は何者だ?」
一瞬動きが止まり、大豆のような頭がくるりと回転する。あれは思考した――そんな感じなのだろうか?
「ヨハン・エルドリッド。2代前の魔王の息子デス。当時は壁がありませんデシタ。魔王は死ぬ時に、息子を人間世界に預けたと覚えていマス」
やはり本当に魔王の子だったのか。
しかし人間世界に紛れていたとはね……いや待て。
「他に魔王の子供ってのは居るのか?」
今度は頭の大豆が縦に二回転。今までの魔人達に比べ、動きの激しさが目立つ。
「ハイ、多数イマス。ですが魔族領にはイマセン。全て人間の世界で暮らしてイマス」
奇妙な話だ。まさかライオンのように、ハーレムのボスが変わったら前の子供は全て殺すような風習があるわけでも……もしかして、あるの?
「ありまセンヨ。デスガ、当時は風習のようなものデシタ。代が変わる時、先代の子供はひっそりと人間社会に紛れ込むのデス」
こちらの考えを先取りして話を続けるゲルニッヒ。
伝統というか風習というか、まあ色々あるのだろう。
「そいつらも、俺……魔王や魔人を恨んでいるのかな……」
ケーバッハが俺を見る目。狂気を孕んだ憎しみの瞳を思い出す。2代前……壁が出来る前……あの憎悪を抱きながら、彼は幾星霜の時を生きてきたのだろうか。
「ドウでしょう? 人それぞれだと思いマスヨ。私も何人かまだ交流がありマスガ、彼らは意外と友好的デス」
それは別の意味で意外だ。壁があるのに交流は途絶えていないとは……。なら案外、人間社会での協力者を作る事も出来るかもしれない。だがそれは、何を協力してもらうかが決まらないと始められないな……。
「先代魔王にも子供は居たのか?」
檻で出会った先代魔王。俺よりもずっと子供に見えたが、彼の発する空気は子供なんてものじゃ無かった。そしておそらくは、俺などとは次元が違うレベルで強い力を持っていただろう。一方で、性欲とは無縁の様な、現世と隔絶したような印象があった……。
「イマしたが、奥方と長女は亡くなりマシタ。もう一人残っていまシタガ、今も残っているかは不明デス」
――いたのか!? うーん、これまた驚きだ……。
「名前は……いや、今も同じ名前である可能性は無いか。一応、何て名前なんだ?」
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