この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
110 / 425
【 儚く消えて 】

魔王の息子 後編

しおりを挟む
 ――何でここまで接近されたんだ!

 だが考えるよりも早く、ほんの一瞬で目の前まで跳躍して来る。顔が近い、互いの鼻が当たりそうなほどに!

「さようなら、魔王」

 だが男の剣は、見えない何かにガクンと引っ張られ、ギリギリ左右の脇腹を斬られる程度で済んだ。
 だが痛い! もう少し深かったら内臓が飛び出して死んでたぞ!
 すぐに互いに距離を取りにらみ合う。

「随分な挨拶だな……気が付かなったよ」

 だが周囲の亜人達は、この状態に気が付いていない。
 目の前に人間がいるのに、一切攻撃をしないのだ。余りにも異常だ。
 だがエヴィアは気が付いている。たった今も俺を救ってくれた。いつの間にか俺の前に出ているので後ろ姿しか見えないが、普通の人間相手にエヴィアが後れを取る事は無いだろう……いやまて!

「ヨーツケーーール!」

 頼むから聞こえてくれ! 落ち着け俺、どう見ても普通の人間じゃないだろ!

「ああ、それがあの蟹の魔人の名前ですか。それとも目の前のそれですか。私は見るのは初めてですが、どうもそちらはよくご存じのようですね」

 どういう事だ!? 目の前の男の言っている意味が解らない。
 魔人……そう言ったのか? 知っているのか?

「初めまして、私はケーバッハ・ユンゲル。貴方の知らない魔王の……息子ですよ」

 言うなり一閃。しかしその刃は見えない何かによって逸らされ、隣でうろうろしていたオークを横薙ぎに真っ二つに切り裂く。しかし、亜人はきょろきょろするばかり。目に入っていないのか!?
 それに……。

「どうしたらいい……かな」

 こちらを振り向くエヴィアには、明らかな動揺がある。こちらへの攻撃を防いではくれたが、相手を攻撃する事も躊躇ちゅうちょしている。マズいな……。

「邪魔をしますか……結構。魔王の命を優先するのが当たり前でしょう」

 言いながらも突進し、右手のフランベルジュを振り下ろす。だがそれは、やはりエヴィアの見えない触手に絡まれ一瞬止まる。
 だが、気を抜いた瞬間に走る左脇からの激痛。

「いでえぇぇぇぇ!」

 体制を変えながら猛烈な勢いで振りぬいてきた左のフランベルジュはまたも脇、先ほどより少し上に食いこんだ。
 それだけで済んだのはエヴィアの触手のおかげだが、相変わらず精彩を欠いている。
 このままでは遅かれ早かれ……。

( こちらに投げた右のフランベルジュをエヴィアの触手が止める )
( だがすぐさま左のフランベルジュが上から来て避ける )
( その瞬間、左胸に刺さる2本の針。傷口から蒸気が吹き出し絶叫し世界が暗くなる )

 これはまずい! 既にケーバッハは右のフランベルジュを投げる態勢だ。あの針は何処に仕込んでるのか今は見えないが……仕方がない!

 見えたとおりに飛んでくるフランベルジュ
 柄に触手が巻き付き途中で力なく落下するが、こちらの頭上には既に跳躍しているケーバッハ。

「ここで滅びよ!」

 その左手に持ったフランベルジュが大気を切り裂き地面をえぐる。
 ここか! まくられたコートの内側、ベルトに多数の投擲針が装備されている。他にちらりと見えたのは、昔見た水の入った瓶……あれは!?

 だが思考を回す余裕はない。奴は一瞬の早業で投擲針を抜くと、流れるような動きでこちらに飛ばしてくる――だがそれは、キキン! と硬い音と共に弾かれ地面へと落ちた。

「ほお、意外と良い体術ですな」

「お褒め頂き光栄だぜ」

 何とか左手で抜いた剣で受け止める。ここだと判っていたから何とかなったが、少しでもずれたら死んでるぞ!

「貴方は見た事でしょう、魔族領の内側を。楽しかったですか? 魔族の動物園は」

 ゆっくりと回り込むように移動するケーバッハ。一瞬も目が離せない。

「動物園だと!?」

 しかし言っていることが気になるのも事実だ。
 動物園……こいつはどこまで知っているのか。

「そうですよ。こいつら魔人が、自分達の退屈しのぎに勝手に別の世界から召喚した生き物達。そしてそれを囲う檻」

 言いながらも左から右へと横薙ぎにしてきたフランベルジュが頬を掠める。
 間一髪、かすり傷程度で躱したが――次の瞬間、失った右手に一瞬熱さを感じる。

「ぐっ!」

 たまらず覚悟した声が漏れる。だが幸いにも、投擲針が当たった部分は塩の精霊でがっちりガードされていた場所だ。完全には刺さらず、キィンと硬い音を立て針は地面に落ちる。しかしこのまま後どれだけ防げるか……。

( 一直線に向かってきた奴のフランベルジュが腹部中心に突き刺さる )
( 引き抜かれると共に血を吐き倒れ、頭を踏み潰されて意識が断たれる )

 これは防ぎきれない!
 死ぬよりマシだの僅かな抵抗。後ろに飛んで腹部に剣を構える。

「てりゃあぁー!」

 先端を向け、まっすぐこちらに向かってくるフランベルジュの切っ先。

 ――パキン!

 何の魔力も入っていない剣は殆ど抵抗らしい抵抗もせずに簡単に砕かれるが、その一瞬で助かった。

「早いですな、もう少しかかると思っていましたが、甘かったですね」

「ヨハン、ヨーツケールはエヴィアほど甘くはない」

 間一髪、ヨーツケールの鋏がケーバッハのフランベルジュを防いでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...