この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

人馬騎兵 後編

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 その様子を見ていた相和義輝あいわよしきとしては、もうハラハラしっぱなしだった。
 なにせ体格差が違い過ぎる。ヨーツケールは体高6メートルに幅8メートル。対する相手は倍くらいに見える。しかもそれが3体だ。

「あれは大丈夫なのか……何とか援護しないと」

 言いはするが、じゃあ誰かを派遣するかと言うとそうもいかない。

「ルリアもやっぱダメか?」

「全員ナルナウフ教の加護を受けていますわねー。何とか心の隙でも作らないと、憑りつけませんわ」

「やっぱり重要そうなところは対策済みか……くっそう」

 この様子だと不死者アンデッドに強いナルナウフ教団とやらは、これから相当に勢力を拡大するだろう。
 だが今はそんな何処とも知らぬ教団の行く末など考えてはいられない。

「エヴィア、どうにかならないか? あのままじゃヨーツケールがやばい!」

「んー、大丈夫かな。どちらかと言うと、今邪魔するとヨーツケールは悲しむかもしれないよ」

「あいつそんなにバトルマニアだったのか?」

 だがそう言われては見守るしかない。なにせ、魔人の事は魔人が一番よく判っているのだから。




 再び地響きと血煙を上げながら、人馬騎兵が魔人ヨーツケールに仕掛ける。

「これならどうだ!」

 今度は1番騎から3番騎が縦列を組んでの突進だ。
 すれ違いざまに振り下ろされたケインの戦斧の攻撃。だが今度は、しっかりと右の鋏で受け止める、だがほぼ同時に逆側を駆け抜けるサビナのランスが、ヨーツケールの額を穿つ。
 その強烈な一撃に押され、巨大な体が浮き上がる。そこへ間髪入れず放たれた3番騎の一撃。地面ギリギリからすくい上げたブレニッツの戦斧が、ヨーツケールの腹に深々と突き刺さった。

 下から打ち上げた強烈な一撃。ヨーツケールの体が2度3度と地面を転がるが、なんとか踏ん張り耐える。だがその傷口からも盛大に体液を吹き出すと、ついにヨーツケールの巨体がぐらりと崩れる。
 その足元には、生物であれば到底生きてはいられないであろう程の灰紫の水溜まりが広がっていた。


「効いてますわ!」
「よし、もう一回だ!」

「いや、待て!」

 3番騎を操るブレニッツが二人を止める。様子がおかしい。
 ベテランである彼は、他二人とは違って冷静に相手を観察していた。
 目の前の巨大蟹はもう傷だらけだ。頭、鋏、背、腹……甲羅の各所に深い傷を受け、そこから灰紫の体液をダラダラと流している。もう死ぬ寸前……外見からは確かにそう予感させる。
 しかし、内側で何かが光っている。微弱な光だが、それは赤から緑、そして青へとゆっくりと変化している。あれは何だ……。




 ――コレハ、イイ!

 魔人ヨーツケールは恍惚とした感情の中にいた。
 人間の金属を叩くのは好きである。だが叩かれ体の芯へと響くそれは、また違った種類の喜びをこの魔人にもたらした。

「使い切ってもいい、各員魔力を強化しろ!」

 指示を受けた動力士が魔道炉にさらなる魔力を送る。
 それは魔道炉で凝縮され、個人が武器に流す魔力とは比較にならない程に、強力な魔力を武器へと伝達する。

 それと同時に、魔力を受けた武器が赤く輝いていく。
 特にその中でも、最後列にいる3騎目は明らかに違う。赤から白へと色を変え、輝きは眩しいほどにまで高まる。

「前部魔道炉、臨界近いです!」

「後部も同じく、臨界近いです!」

 3番騎を動かす2人の動力士が、全ての力を振り絞り魔力を注いだ戦斧。その眩しさを、ヨーツケールはうっとりとした眼差しで見つめていた。


 ――アレニ、タタカレタラ、ドウナッテシマウノダロウ。

 期待が膨らむ。そしてその感情に合わせるように、体もパンプアップしてゆく。
 赤と白の珊瑚質で覆われた外皮がバリバリと剥がれ落ち、内側から七色に輝きを変える金属質の甲殻が姿を現す。
 流れていた灰紫の体液は、全て表皮に寄生していた珊瑚虫のもの。魔人ヨーツケールの本来の甲殻には、掠り傷程度しか付いてはいなかった。

「何をしようが、今更無駄だ!」
「その隙、逃しませんわ!」

 1番騎と2番騎が左右に別れ、停止した魔人ヨーツケールに突撃する。

 ――ジャマダ!

 突き入れられた1番騎のランスが、魔人ヨーツケールの左上の鋏で掴まれる。
 同時に左下の鋏が人馬騎兵の人と馬の境目を挟み、ギリギリと金属音を立てて切り裂いていく。だが――、

「ただで死ぬと思うなよ! 化け物!」

 馬部分の前足が、まるで掴むように魔人ヨーツケールの鋏と足を押さえつける。体の左側を超重量で押さえつけられ、完全に移動を封じられてしまう。

 一方で魔人ヨーツケールの右側から攻撃を仕掛けた2番騎は、振り上げた2本の右鋏の平で馬の腹部分を打ち上げられていた。
 激しい衝突音と共に浮き上がる人馬騎兵。その胴体はメキメキと音を立て歪み、くの字に曲がったまま弾き飛ばされる。

 轟音と共に地面に叩きつけられた2番機が、部品を撒き散らしながら大地を跳ねる。その人間部分――操縦士のコクピットは、墜落の衝撃で完全に潰れていた。
 だが一方で、無理な体勢で打ち上げた魔人ヨーツケールの鋏もまた、両方とも根元から外れて落下する。

「皆すまない……」

 ブレニッツには二人の意図も覚悟も判っていた。
 今、”蟹”の左の鋏は両方とも塞がっており、右の鋏は無くなった。これこそが、彼らが命を懸けて切り開いた道。

「人間をなめるなぁ!」

 亜人を踏み潰しながら突進するブレニッツの輝く戦斧が、動けない魔人ヨーツケールに一直線に振り下ろされる。

 カッ――!

 それは殆ど音も無く左から中心へと、完璧に深々と貫き、魔人ヨーツケールの斜めについた頭の両方の中心を見事に切り裂いていた。
 魔人ヨーツケールの虹色に光る甲殻は、次第に黒、そして白色へと変わり、その巨体は完全に大地に崩れ落ちた。
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