108 / 425
【 儚く消えて 】
人馬騎兵 後編
しおりを挟む
その様子を見ていた相和義輝としては、もうハラハラしっぱなしだった。
なにせ体格差が違い過ぎる。ヨーツケールは体高6メートルに幅8メートル。対する相手は倍くらいに見える。しかもそれが3体だ。
「あれは大丈夫なのか……何とか援護しないと」
言いはするが、じゃあ誰かを派遣するかと言うとそうもいかない。
「ルリアもやっぱダメか?」
「全員ナルナウフ教の加護を受けていますわねー。何とか心の隙でも作らないと、憑りつけませんわ」
「やっぱり重要そうなところは対策済みか……くっそう」
この様子だと不死者に強いナルナウフ教団とやらは、これから相当に勢力を拡大するだろう。
だが今はそんな何処とも知らぬ教団の行く末など考えてはいられない。
「エヴィア、どうにかならないか? あのままじゃヨーツケールがやばい!」
「んー、大丈夫かな。どちらかと言うと、今邪魔するとヨーツケールは悲しむかもしれないよ」
「あいつそんなにバトルマニアだったのか?」
だがそう言われては見守るしかない。なにせ、魔人の事は魔人が一番よく判っているのだから。
再び地響きと血煙を上げながら、人馬騎兵が魔人ヨーツケールに仕掛ける。
「これならどうだ!」
今度は1番騎から3番騎が縦列を組んでの突進だ。
すれ違いざまに振り下ろされたケインの戦斧の攻撃。だが今度は、しっかりと右の鋏で受け止める、だがほぼ同時に逆側を駆け抜けるサビナのランスが、ヨーツケールの額を穿つ。
その強烈な一撃に押され、巨大な体が浮き上がる。そこへ間髪入れず放たれた3番騎の一撃。地面ギリギリからすくい上げたブレニッツの戦斧が、ヨーツケールの腹に深々と突き刺さった。
下から打ち上げた強烈な一撃。ヨーツケールの体が2度3度と地面を転がるが、なんとか踏ん張り耐える。だがその傷口からも盛大に体液を吹き出すと、ついにヨーツケールの巨体がぐらりと崩れる。
その足元には、生物であれば到底生きてはいられないであろう程の灰紫の水溜まりが広がっていた。
「効いてますわ!」
「よし、もう一回だ!」
「いや、待て!」
3番騎を操るブレニッツが二人を止める。様子がおかしい。
ベテランである彼は、他二人とは違って冷静に相手を観察していた。
目の前の巨大蟹はもう傷だらけだ。頭、鋏、背、腹……甲羅の各所に深い傷を受け、そこから灰紫の体液をダラダラと流している。もう死ぬ寸前……外見からは確かにそう予感させる。
しかし、内側で何かが光っている。微弱な光だが、それは赤から緑、そして青へとゆっくりと変化している。あれは何だ……。
――コレハ、イイ!
魔人ヨーツケールは恍惚とした感情の中にいた。
人間の金属を叩くのは好きである。だが叩かれ体の芯へと響くそれは、また違った種類の喜びをこの魔人にもたらした。
「使い切ってもいい、各員魔力を強化しろ!」
指示を受けた動力士が魔道炉にさらなる魔力を送る。
それは魔道炉で凝縮され、個人が武器に流す魔力とは比較にならない程に、強力な魔力を武器へと伝達する。
それと同時に、魔力を受けた武器が赤く輝いていく。
特にその中でも、最後列にいる3騎目は明らかに違う。赤から白へと色を変え、輝きは眩しいほどにまで高まる。
「前部魔道炉、臨界近いです!」
「後部も同じく、臨界近いです!」
3番騎を動かす2人の動力士が、全ての力を振り絞り魔力を注いだ戦斧。その眩しさを、ヨーツケールはうっとりとした眼差しで見つめていた。
――アレニ、タタカレタラ、ドウナッテシマウノダロウ。
期待が膨らむ。そしてその感情に合わせるように、体もパンプアップしてゆく。
赤と白の珊瑚質で覆われた外皮がバリバリと剥がれ落ち、内側から七色に輝きを変える金属質の甲殻が姿を現す。
流れていた灰紫の体液は、全て表皮に寄生していた珊瑚虫のもの。魔人ヨーツケールの本来の甲殻には、掠り傷程度しか付いてはいなかった。
「何をしようが、今更無駄だ!」
「その隙、逃しませんわ!」
1番騎と2番騎が左右に別れ、停止した魔人ヨーツケールに突撃する。
――ジャマダ!
突き入れられた1番騎のランスが、魔人ヨーツケールの左上の鋏で掴まれる。
同時に左下の鋏が人馬騎兵の人と馬の境目を挟み、ギリギリと金属音を立てて切り裂いていく。だが――、
「ただで死ぬと思うなよ! 化け物!」
馬部分の前足が、まるで掴むように魔人ヨーツケールの鋏と足を押さえつける。体の左側を超重量で押さえつけられ、完全に移動を封じられてしまう。
一方で魔人ヨーツケールの右側から攻撃を仕掛けた2番騎は、振り上げた2本の右鋏の平で馬の腹部分を打ち上げられていた。
激しい衝突音と共に浮き上がる人馬騎兵。その胴体はメキメキと音を立て歪み、くの字に曲がったまま弾き飛ばされる。
轟音と共に地面に叩きつけられた2番機が、部品を撒き散らしながら大地を跳ねる。その人間部分――操縦士のコクピットは、墜落の衝撃で完全に潰れていた。
だが一方で、無理な体勢で打ち上げた魔人ヨーツケールの鋏もまた、両方とも根元から外れて落下する。
「皆すまない……」
ブレニッツには二人の意図も覚悟も判っていた。
今、”蟹”の左の鋏は両方とも塞がっており、右の鋏は無くなった。これこそが、彼らが命を懸けて切り開いた道。
「人間をなめるなぁ!」
亜人を踏み潰しながら突進するブレニッツの輝く戦斧が、動けない魔人ヨーツケールに一直線に振り下ろされる。
カッ――!
それは殆ど音も無く左から中心へと、完璧に深々と貫き、魔人ヨーツケールの斜めについた頭の両方の中心を見事に切り裂いていた。
魔人ヨーツケールの虹色に光る甲殻は、次第に黒、そして白色へと変わり、その巨体は完全に大地に崩れ落ちた。
なにせ体格差が違い過ぎる。ヨーツケールは体高6メートルに幅8メートル。対する相手は倍くらいに見える。しかもそれが3体だ。
「あれは大丈夫なのか……何とか援護しないと」
言いはするが、じゃあ誰かを派遣するかと言うとそうもいかない。
「ルリアもやっぱダメか?」
「全員ナルナウフ教の加護を受けていますわねー。何とか心の隙でも作らないと、憑りつけませんわ」
「やっぱり重要そうなところは対策済みか……くっそう」
この様子だと不死者に強いナルナウフ教団とやらは、これから相当に勢力を拡大するだろう。
だが今はそんな何処とも知らぬ教団の行く末など考えてはいられない。
「エヴィア、どうにかならないか? あのままじゃヨーツケールがやばい!」
「んー、大丈夫かな。どちらかと言うと、今邪魔するとヨーツケールは悲しむかもしれないよ」
「あいつそんなにバトルマニアだったのか?」
だがそう言われては見守るしかない。なにせ、魔人の事は魔人が一番よく判っているのだから。
再び地響きと血煙を上げながら、人馬騎兵が魔人ヨーツケールに仕掛ける。
「これならどうだ!」
今度は1番騎から3番騎が縦列を組んでの突進だ。
すれ違いざまに振り下ろされたケインの戦斧の攻撃。だが今度は、しっかりと右の鋏で受け止める、だがほぼ同時に逆側を駆け抜けるサビナのランスが、ヨーツケールの額を穿つ。
その強烈な一撃に押され、巨大な体が浮き上がる。そこへ間髪入れず放たれた3番騎の一撃。地面ギリギリからすくい上げたブレニッツの戦斧が、ヨーツケールの腹に深々と突き刺さった。
下から打ち上げた強烈な一撃。ヨーツケールの体が2度3度と地面を転がるが、なんとか踏ん張り耐える。だがその傷口からも盛大に体液を吹き出すと、ついにヨーツケールの巨体がぐらりと崩れる。
その足元には、生物であれば到底生きてはいられないであろう程の灰紫の水溜まりが広がっていた。
「効いてますわ!」
「よし、もう一回だ!」
「いや、待て!」
3番騎を操るブレニッツが二人を止める。様子がおかしい。
ベテランである彼は、他二人とは違って冷静に相手を観察していた。
目の前の巨大蟹はもう傷だらけだ。頭、鋏、背、腹……甲羅の各所に深い傷を受け、そこから灰紫の体液をダラダラと流している。もう死ぬ寸前……外見からは確かにそう予感させる。
しかし、内側で何かが光っている。微弱な光だが、それは赤から緑、そして青へとゆっくりと変化している。あれは何だ……。
――コレハ、イイ!
魔人ヨーツケールは恍惚とした感情の中にいた。
人間の金属を叩くのは好きである。だが叩かれ体の芯へと響くそれは、また違った種類の喜びをこの魔人にもたらした。
「使い切ってもいい、各員魔力を強化しろ!」
指示を受けた動力士が魔道炉にさらなる魔力を送る。
それは魔道炉で凝縮され、個人が武器に流す魔力とは比較にならない程に、強力な魔力を武器へと伝達する。
それと同時に、魔力を受けた武器が赤く輝いていく。
特にその中でも、最後列にいる3騎目は明らかに違う。赤から白へと色を変え、輝きは眩しいほどにまで高まる。
「前部魔道炉、臨界近いです!」
「後部も同じく、臨界近いです!」
3番騎を動かす2人の動力士が、全ての力を振り絞り魔力を注いだ戦斧。その眩しさを、ヨーツケールはうっとりとした眼差しで見つめていた。
――アレニ、タタカレタラ、ドウナッテシマウノダロウ。
期待が膨らむ。そしてその感情に合わせるように、体もパンプアップしてゆく。
赤と白の珊瑚質で覆われた外皮がバリバリと剥がれ落ち、内側から七色に輝きを変える金属質の甲殻が姿を現す。
流れていた灰紫の体液は、全て表皮に寄生していた珊瑚虫のもの。魔人ヨーツケールの本来の甲殻には、掠り傷程度しか付いてはいなかった。
「何をしようが、今更無駄だ!」
「その隙、逃しませんわ!」
1番騎と2番騎が左右に別れ、停止した魔人ヨーツケールに突撃する。
――ジャマダ!
突き入れられた1番騎のランスが、魔人ヨーツケールの左上の鋏で掴まれる。
同時に左下の鋏が人馬騎兵の人と馬の境目を挟み、ギリギリと金属音を立てて切り裂いていく。だが――、
「ただで死ぬと思うなよ! 化け物!」
馬部分の前足が、まるで掴むように魔人ヨーツケールの鋏と足を押さえつける。体の左側を超重量で押さえつけられ、完全に移動を封じられてしまう。
一方で魔人ヨーツケールの右側から攻撃を仕掛けた2番騎は、振り上げた2本の右鋏の平で馬の腹部分を打ち上げられていた。
激しい衝突音と共に浮き上がる人馬騎兵。その胴体はメキメキと音を立て歪み、くの字に曲がったまま弾き飛ばされる。
轟音と共に地面に叩きつけられた2番機が、部品を撒き散らしながら大地を跳ねる。その人間部分――操縦士のコクピットは、墜落の衝撃で完全に潰れていた。
だが一方で、無理な体勢で打ち上げた魔人ヨーツケールの鋏もまた、両方とも根元から外れて落下する。
「皆すまない……」
ブレニッツには二人の意図も覚悟も判っていた。
今、”蟹”の左の鋏は両方とも塞がっており、右の鋏は無くなった。これこそが、彼らが命を懸けて切り開いた道。
「人間をなめるなぁ!」
亜人を踏み潰しながら突進するブレニッツの輝く戦斧が、動けない魔人ヨーツケールに一直線に振り下ろされる。
カッ――!
それは殆ど音も無く左から中心へと、完璧に深々と貫き、魔人ヨーツケールの斜めについた頭の両方の中心を見事に切り裂いていた。
魔人ヨーツケールの虹色に光る甲殻は、次第に黒、そして白色へと変わり、その巨体は完全に大地に崩れ落ちた。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる