この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

人馬騎兵 前編

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 キュイィィィィィン……。

 それが収められていたテントが外され、静かな駆動音と共に3体の巨兵が大地に立つ。

「なんだアレは?」

「エヴィアも初めて見るかな」

 それは、相和義輝あいわよしきや魔人エヴィアが初めて見る兵器だった。

 全長12.5メートル。体高12メートル。全身金属のそれは馬のような四本の足を持つが、本来の首の位置には全身鎧を纏ったような人間が付いている。
 人馬一体のケンタウロスと言った形状だ。

 額には捻じれた一本角に、両のこめかみ辺りから生える鳥のような翼。全体は白に塗装され、胸には青い孔雀羽――ユーディザード王国の紋章が塗装されている。

 右手には全長8.2メートルの長柄戦斧、左手には10メートルのランス。どちらも対大型生物用の巨大武器だ。

 コンセシール商国でキスカ・キスカによって開発された新型兵器。
 3人乗りで、人間部胴体に操縦士、馬胴体の前後に動力士が乗る。

「1番騎、起動良し」
「2番騎、問題ありませんわ」
「よし、出撃! 目標はあくまでも”蟹”だ、亜人に構うなよ」

 動き始めた人馬騎兵。それは地震の様に大地を揺らしながら疾走し、最初にチェムーゼ将軍と交戦中の亜人達の中へと突入した。
 高速で走る鋼の体は亜人の武器を寄せ付けない。しかもその千トンを優に超える巨体が相手では、3メートル程度のオーガでは、足止めすら出来ず蹄に踏み潰されてしまう。
 轢かれた亜人の群れから真っ赤な血が吹き上がる様は、まるで車が水溜りを走っているかのようだ。




「人馬騎兵が来たぞ!」

「今の内だ! 一気に突き崩せ!」

 その混乱を利用し、チェムーゼ隊が一気に前進する。
 だがその場所は、戦場全体から見たら北の端。亜人全体を分断しようとするような、戦術的な動きではない。




「参ったな……だけどあの部隊は亜人の端を抜けようとしているだけか」

 相和義輝あいわよしきの知識ではチェムーゼ隊の意図は解らない……だが戦局として大きな意味がある様には見えなかった。
 それよりも、あの鉄のケンタウロスが向かった先が問題だ。




「来たか。よし、ここは人馬騎兵に任せる。各隊は亜人を攻撃。矢槍やそうが尽きたら補給に戻る必要は無い。各自の判断で撤収せよ」

 ユベントの命により、ヨーツケールの相手をしていた装甲騎兵は後退を開始。
 それと入れ替わるように、鋼のケンタウロスがヨーツケールを捉える。

「目標を発見した! これより突撃する!」

 灰色の髪と青い瞳。見るからに精悍な顔つきは、幾多の戦いを経た歴戦の賜物か。
 1番騎に乗るケイン・ジェルトンは左手のランスを構え、一気に魔人ヨーツケールに迫る。


 ――アレハ、ナンダ?

 それは魔人ヨーツケールも初めて見る物だった。
 ガガッ! ――咄嗟に左上鋏でランスを受ける。だが勢いよく突き立てたランスが、魔人ヨーツケールの鋏上部を穿ち、駆け抜ける。

 ――ヌ!

 削られた部分は鋏表皮の一部だったが、珊瑚の様な甲羅が裂け、灰紫の体液が勢いよく弾け飛ぶ。
 そして――、




「思ったよりも、鈍いのですわね!」

 金の縦ロールに紅色の瞳。白く美しい肢体を青色のレオタードで身を包んだ少女。
 サビナ・ファン・カルクーツの操る2号機は素早くヨーツケールの背後に回ると、手にした巨大戦斧で一直線に甲羅を打ち抜いた。
 大気を切り裂き、戦斧の柄が歪むほどの強烈な一撃。戦場に響き渡る金属音と共にヨーツゲールの足元の大地は潰れ、切り裂かれた背殻からも体液が噴水のようにバシャバシャと吹き上がる。




「あれはマズいぞ! 圧倒的に不利じゃないか!」

 図体ずうたいが大きいから相和義輝あいわよしきから見ればゆっくりに見える。だが、実際の速度は装甲騎兵より速い。




「よし、いけるぞ!」

 淡い金髪に碧眼、ユーディザード王国の白と青の軍服の襟を立て、ラフに着こなしている男。その右肩から胸元には大きな戦傷が見える。外見的には3人の中で一番若く見えるが、長く飛甲騎兵乗りだったベテランだ。

 3番騎のブレニッツ・ロイドが、ランスを構え勢いよく突撃を開始する。
 だがその瞬間、魔人ヨーツケールはその目の前まで一瞬で跳躍すると――

「なに!?」

 躊躇なくランスの先端と、負傷している左上の鋏を打ち合わせる。
 高速対高速。両者の武器が正面衝突し、激しい激突音と共に眩い火花が輝き散る。
 ランスの強烈な一撃を受けたヨーツケールの鋏の先端が、穿たれ砕ける。だが……。
 同じく鋏の刺突を受けた3番騎のランスは、メキメキと音を立てひしゃげ、持っていた左腕が肩ごと千切れ吹き飛んでいく。

「くそっ! 左腕を持って行かれた。あれは化け物か!」

「落ち着け! 奴の速さは織り込み済みだ。体勢を立て直して再度攻撃する!」

 全騎が迂回するようにヨーツケールの周囲を回り、巻き込まれた亜人達が地を這う虫のように轢き潰されていく。そしてその巨体による地響きは、亜人達の巨大な死体を浮かせるほどの衝撃だ。人馬騎兵が通った跡は、土煙ならぬ血煙が巻き起こる。

 ――カタイ!

「よし、今だ! さっきと同じにいくぞ!」

 1番騎、ケインがランスを構えて魔人ヨーツケールに突撃を行う。それは一直線に、目の前の魔神を捉えたかに見えた。
 だがその時には既にヨーツケールは、サビナの操る2番騎の真横、右側に跳躍していた。

 2本の鋏によるアッパーカット。だがサビナは咄嗟に右の戦斧で応戦する。

「その程度!」

 響く轟音と共にヨーツケールの上の額が割れ、また一方で戦斧の柄に当たった鋏は、勢いを殺すこと無く真ん中から戦斧をへし折った。打ち上げられた戦斧の先端がクルクルと回転し、地面に鈍い音を立てて突き刺さる。

 そこへ間髪入れずに3番騎のブレニッツが戦斧を振り下ろすが、それは虚しく大地を割っただけだ。
 魔人ヨーツケールは再度の跳躍で、再び距離を取っていたのだ。
 だが割られた額からは、灰紫の体液がポタポタと地面に垂れている。生物であれば、確実に致命傷だ。

「予想以上の化け物だな……サビナ、大丈夫か?」

「ええ、ですが右腕の操作が効きませんわ」

 上の鋏が戦斧の柄を切り飛ばした一方で、下の鋏もまた、2番騎の右腕の半分を切り取っていたのだった。
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