この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

決断 後編

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「動いたか! ……というかやばいなアレ」

 浮遊式輸送板による撤退は、戦場に築かれた要塞で隠され相和義輝あいわよしきからは見えない。
 しかしチェムーゼ将軍の部隊が亜人達に対して強襲を始めたことはハッキリと見えた。
 そして亜人の側面から、一度は引っ込んでいた装甲騎兵が猛攻をかける。

 更に飛甲騎兵まで投入され、膠着したと思われた戦線が急速に動きだした。
 しかも低空で侵入した飛甲騎兵が亜人達の上空を通過すると、そこから轟音と共に爆炎が高々と上がる。

「なんだあれ!? 爆撃機か? この世界には火薬の様なものは無かったはずだぞ」

「あれは魔法かな。魔王は重傷なんだからあまり動かないで」

 確かに右腕は失ったが、塩の精霊のおかげでもう出血も痛みも止まっている。状況を考えると、いつまでも休んではいられない。




「魔術師殿、再度お願いします」

「了解です、詠唱開始します」

 ユーディザード王国の飛行騎兵は2種類ある。1つは他の国と同じように2人乗りだが、メルツ402という3人乗りの大型飛甲騎兵が存在する。これは通常の操縦士と動力士の他に、中央に魔術師が乗る特別機だ。

 衝角と翼刃を一体化させたエイを思わせる形。それが亜人の群れ上空を通過すると、魔法使いが詠唱した爆裂魔法が亜人を放つ。
 詠唱速度は必ずしも一定ではないため命中精度は低いが、密集している亜人達にとっては脅威だ。
 爆発と共に、数十人の亜人だった焼け焦げた破片が、辺りに撒き散らされる。




「ルリア、アレの相手は死霊レイスに任せる」

「え、ええと……でもですね……」

 先ほどの事があるからだろう、ルリアはエヴィアの方をチラチラ見ながら困ったような雰囲気だ。

「分かってるよ、俺もそこまで馬鹿じゃない。上に百人残してくれ。それなら大丈夫だろう」

「了解いたしましたわ、魔王様。それでは行ってまいります」

 メイド服のスカートの裾をつまんで一礼すると、他の死霊レイス達を率いて飛甲騎兵に向かう。

「それとヨーツケール、悪いがまた頼む。あとは……」

 相和義輝あいわよしきから見ると、防盾壁の一部に隙間が出来ている。全体の数が減ったためだ。その理由は分からないが、好機チャンスである事は間違いなかった。

「シャルネーゼ、あの隙間から入り込んで盾を持っている奴を倒して回ってくれ」

「了解したぞ、魔王よ。まあそこでのんびり見物していると良い。では行くぞー!」

 こうして、魔人ヨーツケールは装甲騎兵へ、シャルネーゼ率いる首無し騎士デュラハンの一団は防盾壁へと向かって行った。




 ◇     ◇     ◇




「”蟹”、現れました!」

 報告と共に、ひしゃげた装甲騎兵が轟音と共に地面を転がっていく。
 ユベント率いる死神の列に、再び蟹の悪夢が襲い掛かったのである。

「クソッ、今までどこに潜んでいたんだ! 飛甲騎兵隊は、あんなデカい物のマークも出来ないのか!」

 チェムーゼ隊を援護していた飛甲騎兵隊だったが、散開し魔人ヨーツケールに備えねばならなくなった。
 一方、チェムーゼ・コレンティア伯爵の部隊は亜人相手に奮戦するが、装甲騎兵の支援無しに10倍以上の戦力差を突破するのは容易ではない。しかも、殺された味方が不死者アンデットと化し襲ってくるのだからたまらない。

 ――早く新型を投入してくださいよ……。

 チェムーゼは祈りながらも、魔人の群れに果敢に突撃を敢行した。




「ハーノノナート公国の装甲騎兵隊に”蟹”が攻撃をかけました。それと、防盾壁の内側に首無し騎士デュラハンの一団が出現し、現場は混乱中です!」

「よろしい、それでは新型を出し”蟹”に当たらせよ。その間に、ハーノノナート公国にチェムーゼ将軍の支援をさせれば良い。以後の指揮はケプラー将軍に任せる」

 そう言いながら、ケーバッハは脇に置いてあった金属の塊に手を伸ばす。その手に浮かぶのは、光る魔力の鎖。それが消えると、塊はまるで布のように姿を変えた。
 それをばさりと羽織る――その布はカーキ色のダッフルコートだ。更に幾つかの投擲武器、そして強化ガラスに容れられた聖水の瓶を腰に下げる。

「ケーバッハ殿はどちらへ?」

 ”臆病者”が逃げ出す準備でもするのか? 幕僚席にピリピリとした空気が流れるが、ケーバッハは静かに一言だけ、周りが唖然とすることを言い切った。

「私は魔王を討ち取ってきます。後はお任せしましたよ」

 フードを被り愛用の武器を手にすると、ケーバッハは悠々と戦場へ向かって行った。
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