この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
102 / 425
【 儚く消えて 】

スパイセン王国の抵抗

しおりを挟む
 その頃、セプレニツィー平原にあるスパイセン王国駐屯地では、防衛の支度が整えられていた。
 北に位置するカルタナ盆地に駐屯していたマリセルヌス王国軍は撤退。
 そしてリアンヌの丘からは襲撃に備えて待機、もしくは後退という指示が出たためだ。

「我々には、後退するだけの余力は無いのである……」

 震える細く白い手で、伝令文を握りつぶす。

 かつては84万人の兵を擁する大規模駐屯地であったが、白き苔の領域への突入戦で輸送手段である浮遊式輸送板は全損。兵員もほぼ半数を失った。浮遊式輸送板は補給物資を運びながら少しずつ補充しているが、現在残っている40万人を運ぶにはとても足りたものではない。

 元より、援軍を要請されても徒歩で移動するしかない状態であった。
 ただ幸いにもこの領域跡地は水も緑も豊かであり、40万将兵が飢えずに生活できたことが唯一の慰めだ。

 周囲から完全に孤立した状態。それがこの“有能ではないが無能でもない“の異名を持つシコネフス・ライン・エーバルガット王と、その将兵が置かれている状態だったのだ。

 だが今、この地に漆黒の巨大ムカデが迫りつつあった。


 突如として響き渡る雷鳴と閃光。 シコネフスはすぐに、それがなんであるかを理解した。

「各自状況報告である! 慌てず対処するのである!」

 純白に金の縦一本線の全身鎧を纏い、同じく白のマントを羽織る。そして手に全長210センチの戦斧を掴むと、他の兵士らと供に外へ駆け出る。

 ――この雷光は……間違いないのである……。

 天幕の外、そこでは兵士達が緊急事態に――いや、あまりの惨事に驚愕している。魔人スースィリアは、彼らの足である馬、そして浮遊式輸送板を最初に破壊したのである。

 ――コンドハ、ニガサナイ。


「やはり来たか、化け物! 総員攻撃を開始するのである!」

 王の号令と共に、巨大ムカデへと一斉に攻撃を仕掛けるスパイセン王国兵士。
 しかし、高速で動き回り踏み散らかし蹂躙する巨体に対し、生身の人間では有効打を与える事は困難だ。近くにさえ行く事が出来無い。
 運良く近くに行けた者、それは逆に運悪く魔人スースィリアに狙われた者だ。
 何とか一撃を当てるも、その武器は易々と砕かれ、肉体は曳き潰されて無残な肉塊へと変わる。

「これでは戦いにもならないのである……」

 ただでさえ白い顔面が蒼白になる。だがひるんでいては被害が拡大する一方だ。
 こうしている間にも兵士達の絶叫は響き渡り、潰された兵士達が血を詰めた風船を割ったようにあちこちで血飛沫を上げる。

「グレイフォン! クレイマス! アルドニオス! イージャム!」

 すぐに近くにいた将達を集め指示を出す。
 皆百年以上シコネフスに従ってきた歴戦の猛者であり、スパイセン王国軍の軍事を支えてきた名将達だ。

「近くに必ず魔王がいるはずなのである! 各隊を率いて散開! ここは我が隊で引き受けるのである!」

 王の命を受け、すぐさま部隊は四方に散る。一見混乱しているような戦場にありながら、無駄のない完璧な統制だった。


 ――ワカレタ。

 魔人スースィリアは、こういった時の対処法をよく理解していた。
 先ず最も大きな群れに近づき――、

「 クレイマス様、ムカデがこちらに! うわあぁぁああ!」

 最大の集団を率いていたクレイマス将軍を巨大ムカデが襲う。正確に指揮官を狙い潰されたクレイマス隊は、まるで蜘蛛の子のように散り散りになって四方に分散する。
 だがそれには目もくれず――、

「 グレイフォン将軍、今度はこちらに向かってきます!」

「くそ! 反て……」

 振り向こうとしたグレイフォン将軍の上半身は噛みちぎられ、下半身は数百メートル彼方まで投げ捨てられる。

 ――ツギニ、オオキナ、ムレハ。

 イージャム将軍の将兵を踏み潰しながら追い抜くと、くるりと反転し襲い掛かる。兵士達の絶叫と飛び散る肉片。細かくミンチにされ、ばら撒かれ、もうどれがイージャム将軍なのかは誰にもわからなかった。




 その攻撃の流れを見て、シコネフスは悟った。奴は我々を皆殺しにしようとしているのだと。
 魔人スースィリアは人間の群れを率いる者を殺し、指揮系統を破壊して拡散させる。それが終わったら残兵には目もくれず、次ぎに大きな群れで同じことを行う。そうして兵達は次第に収拾を欠き、右も左も分からない状態で一方的に嬲り殺されている。

「だが意図が分かれば読むのもたやすいのである。クラキア!」

 シコネフス王の指示を受けたクラキア将軍は散り散りになった兵を糾合すると、魔人スースィリアの襲撃前に素早く分割。それぞれの隊はさらに細分化しながら全方向へと散って行く。その中で最大の集団、クラキア将軍の部隊に魔人スースィリアが迫る。

 だが――、

「今なのである! 放て!」

 クラキア隊が左右に分かれると、そこにはずらりと並ぶスパイセン王国が誇る攻城用の投擲槍ジャベリン。それが一斉に魔人スースィリアに向けて放たれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...