この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

死神の葬列

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「さて、人間の戦い方というものを見せてやろう」

 精悍な顔に不敵な笑みを浮かべ、ユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵が参戦する。

 それはまるで3匹の蛇の様に亜人の群れに近づくと、一斉に飛び道具が放たれる。
 吐き出される膨大な射出槍や矢が防盾壁ぼうじゅんへきを攻める亜人達の背後を襲い、怒涛の勢いでその数を減らしてゆく。
 戦場を揺るがす叫びと立ち上る蒸気。だが亜人が装甲騎兵に向かうと、彼らはすぐさま離れて行く。完全なヒット・アンド・アウェイだ。
 その動きに翻弄され、亜人達は触れる事すらかなわない。

 ”死神の葬列”と畏怖されるユベント旗下の装甲騎兵隊が投入された事で、優勢に変わろうとしていた亜人達の軍団は、一瞬にして挟み撃ちの格好となる。




「オイカケロー! コロセー!」

 攻撃に気づき応戦しようとする亜人。だが相手が高速移動の浮遊兵器とあっては、幾ら人より早いとはいえどうやっても追いつけない。そして今度は、防盾壁の後ろから雨のように矢が降り注ぐ。挟撃を受けた亜人達は目標を見失ったまま、右往左往しながらバタバタと倒されていった。

「今の内だ! 負傷者を運び出せ!」

 亜人達に侵入され広がった防盾壁の間では、まだ死闘が繰り広げられていた。
 重甲鎧の巨大な戦斧が、唸りをあげてオーガを頭から真っ二つに切り裂く。だがすぐに、今度はオークの大槌が重甲鎧ギガントアーマー肩甲ショルダープレートを吹き飛ばす。
 激しい激突音と飛び散る火花。斬られた亜人の血はバケツで撒いているかのように、バシャバシャと凍った大地を赤く染めていく。

「あぁ……ぐっ、うううぅぅぅ……」

 そんな、巨兵達の戦う足元に転がる女性。
 ルフィエーナは魔人ヨーツケールの攻撃で生き残った数少ない強運の持ち主だったが、本人はあまりの不運を嘆いていた。

 味方がクッションになったとはいえ左腕もあばらも折られ、地面に叩きつけられた衝撃で右手の指も何本か折れている。他にも全身打撲、生きていたのはひとえにその脂肪のおかげだろう。

 だが今その周囲では味方と亜人が激しく戦闘中であり、いつ踏み潰されてもおかしくはない。

 ――神様……私が何か酷い事をしたのでしょうか……。

 もう動くことも出来ず、ただ運命を呪いながら泣くことしかできない。
 だが――天は僅かに味方をしていた。

「大丈夫か? 生きているな!? よし、運び出せ!」

 運良く救護隊に発見され、担架に乗せられる。

 ――ああ、助かった……。

 だが落ち着いて見渡せば、そこには大勢の人の死体が転がっている。自分が生き残ったのは、運が良かったのだとようやく認識した。
 そしてふと、死体と思っていた味方の兵と目が合う。これだけの大部隊である、顔見知りなどは殆どいない。しかしどうだっただろう? 自分達の味方に、致命傷でも動ける人はいただろうか……。




「多数の不死者アンデッドが現れました! 前線、それに……救護陣地からです!」

 それは相和義輝あいわよしきを追いかけて来ていた、肉体を失った不死者アンデッド達。
 歩いて来る者達はまだ当分到着しないが、幽体であった彼らは相和義輝あいわよしきの予想より早く到着したのだ。
 そして新鮮な死体を見つけると、憑りつきゆっくりと動き出した。

「ふむ、面倒だな……」

 マリクカンドルフとしては予想していない事ではなかった。魔族領で死んだ者が不死者アンデッドになるのは特別珍しい事でもないからだ。
 だが魔王が率いていたのは不死者アンデッドだと言う。そして急遽大量に発生したとなれば……

「後方に送ったうち、死んだ者は焼け。そしてもはや助からぬと判断した者も焼け。前線は放置せよ、どうせ亜人どもとまとめて狩る」

 やはりここが本命であったか……そうマリクカンドルフ王は確信した。

 しかし厄介な事だ――さすが魔王と褒めるしかない。
 救護陣地が潰されたとなれば、全軍の指揮低下は必至だ。
 勝つためにはいかなる手段も正当化される。しかもこれは、どちらかが滅ぶかの戦いなのだから当然だろう。
 それを念頭に置いたとしても、やる事がえげつない。

 冷静に分析する王に対し、幕僚達は動揺の色を隠せない。
 今まで魔族とは、単に殺し、また殺されるだけの関係だった。それが人間の真似事の様に軍団で攻めて来た時には、失笑さえ起きたものだ。
 だが、実際にこのように戦術を駆使されると背筋が寒くなる。相手は、自分たちの常識など通じない未知の能力を持った相手なのだと。

 その考えは、現在最前線で戦っている末端の兵達も同じであった。
 魔族との戦争、その意味を今更ながらに実感し始めていた。

「周辺の駐屯地の様子はどうなっている」

「マリセルヌス王国軍は石獣の襲撃を回避、現在は一旦後方へ向け移動中。スパイセン王国軍は待機中ですが、北方のアドラース王国軍や、白き苔の領域周辺の小国家群からは連絡が途絶えています。また、アイオネアの門からはラッフルシルド王国軍22万が随時出撃中との事です」

「やはり同様に襲撃を受けたか。魔王が来ている事はもはや疑いようが無い。全員気を引き締めよ。亜人共を始末し、魔王をこの地にて打ち滅ぼす」

 王の言を受け、幕僚達が一斉に歓声を上げる。だがケーバッハの反応は冷ややかだ。

 ――狩る……か。我らが王は、まだ頭の切り替えが出来ていないようだ。

 ケーバッハ・ユンゲル子爵は静かに幕僚席を立つと、子飼いの将軍の一人に指示を出し退出させた。



 ◇     ◇     ◇



「前線と救護陣地に不死者アンデッドが現れたそうです!」

「なぁに、気にするな。こちらはこちらでやっておけばいい」

 装甲騎兵隊を率いるユベントとしては不死者アンデッドなどは関係ない。
 亜人であれ不死者アンデッドであれ、地を走るものに我らを止められるはずは無いのだから。

 このまま一方的に射撃を続けていれば、敵は何も出来ずに死んでいくだけだ。
 そう考えた瞬間、衝撃を感じるほどの金属音と共に前列を走っていた装甲騎兵がぐしゃりと潰れ吹き飛んでゆく。

「”蟹”がこちらに現れました!」

「なるほど、あれは確かに蟹だ」

 ユベントの右前方に巨大な蟹が見える。分裂途中で止まった様な2体の蟹が融合した体、それに赤と白の珊瑚のような甲羅。鋏は4本共前で畳まれているが、それでも体長はこちらとどっこいのサイズだろう。
 とはいえあの程度のサイズの魔族など、もう幾らでも倒してきたのだ。
 どれ程強くても、我らの相手にはなるまいよ――そう思える程の、実力と経験を兼ね備えている名将であった。
 ただ問題があるとすれば……。
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