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【 儚く消えて 】
迷宮の森と亜人の領域
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迷宮の森と亜人の領域、ここはそう呼ばれている。
極太の高い広葉樹が無数に乱立し、足元は密集した細かな草に覆われている。
木、草ともに異常に強い再生力を持ち、どれほど歩いても、また木に目印を付けてもすぐに消えてしまう。
そんな中に、多数の亜人種が潜んでいる。
「各員、進撃を開始せよ!」
日の出と共に、その領域内へとラニッサ王国の軍勢が進軍を開始した。
北の大国であるハルタール帝国に属し、これまでは比較的安全な地域での戦闘が主な任務だった。そのため大きな犠牲は出ていないが、目覚ましい戦果も無い。
一方で本国からの補給も滞りがちになり、もはや進退窮まった状態に置かれていた。
だが幸いなことに、ここは白き苔の領域や炎と石獣の領域程には危険では無い。普通に人間が活動できる領域なのである。
完全なる無駄死ににはならない……そのはずだ。
青を基調に黒の斜め十字の入った防具を着こみ、それぞれ大型の武器を手にした兵士達、その総数は55万人。その大軍が領域の淵から横並びで一斉に侵入する。
人類の領域攻略法はシンプルだ。
領域の線に沿って内側へと侵攻し、出会った敵と戦い、怪物の巣を駆除し、また進む。その様子は山狩りを思わせる。
一方で、不測の事態に備えて装備は軽装だ。いつ休めるともわからない戦場、疲労で魔力切れになったら武具の重さで動けなくなってしまうからだ。
当然味方にも多数の犠牲が出るが、そんな事は一向に構わない。
まるで自分達の血で白地図を染める様に、領域を外周からじわじわと犯してゆく。
唯一の救いは、領域を解除するまでは安全に後退できるという事くらいか。
その様子を死霊から報告を受けた相和義輝は、初めて人類をアホかと思った。
「俺達が派手に戦ったのに、まだ人類はこんな所で領域攻略なんて始めたのか」
……これではあの戦いが、全て無駄になってしまうではないか。
だが一方で、その意図は読まなくてはならない。なぜ今始めたのか?
一番考えられる事は、大量の増援が来たと言う事だ。兵力に余裕が出来たから余剰兵力を使って進み始めた……そうなると、この後ろには大軍が控えている。
だが死霊達の報告では、これといった増援は背後に発見出来なかった。
別の線……だが考えても解らない。
「エヴィア、ルリア、何かわかるか?」
無い知恵を絞っても仕方なく二人に尋ねるが……、
「さっぱりかな。人間の考えている事は解らないよ」
「わたくしにそういう事を聞かれましてもねぇ……」
……ですよねー。
「魔王、戦いの許可を!」
緑の大きな亜人、オークがせっついてくる。もうあちらは戦う気満々だ。
確かに『ここから先は進めません』なんて線があると、戦いはかなり不利だ。それはティランド連合王国との戦いで学んでいる。
炎と石獣の領域を背にしていたこちらを攻めるのに、向こうはかなり難儀している様子だった。彼らの言う戦いの許可とはそれの事だろう。それに何と言っても……。
「亜人だ! 囲め!」
「ニンゲンがあぁぁ! うぐおわぁぁぁ!」
……もうあちこちで戦闘自体は起こってしまっているからだ。
こうなったら後戻りはできないだろう。それに今回は彼らの住処を守る戦いだしな。
しかし領域を出る許可か……どうやるんだろう。求めれば良いらしいのだが、それならもう出来ているのか? 自分では全く分からない。
柱で魔力を出すみたいに、細かな調整をエヴィアに頼めないだろうか?
だが助けを求める目でエヴィアを見ても、フルフルと首を横に振るだけで応じてくれない。出来ないって事なんだろう。
「仕方ない……ええと、領域解禁!」
パンっと手を叩いてみる。成功しているのだろうか?
◇ ◇ ◇
モソ……遠い空の下、何かが動く。
――マオウガ、ワレラニ、モトメテイル
――マオウガ、ワレラニ、キョカヲ、ダシタ
――マオウガ、ワレラヲ、ヨンデイル
アツマレ、アツマレ、アツマレ、アツマレ、アツマレ……
◇ ◇ ◇
これで上手くいったのであろうか? 今回はあまりにも勝手が違う。
なんと言っても広葉樹の森のせいで何も見えない。なんでこんなに密集しているんだと言うくらい生い茂っているのだ。
周囲から戦闘の音は聞こえてくるが、そこへ行くべきかどうかも悩む。
相手の陣容どころか数すらも把握していない状況では、正直動くのが怖い!
せめて相手司令官の位置さえ分かれば手段もあるのだが……。
「ハッハッハ、魔王よ。もう亜人達はずっと先まで攻めていってしまったぞ。領域を越えてな。ハッハッハッハッハ」
少しお姉さん的な声の持ち主が話しかけてくる。
全身にフルプレートの馬鎧を施した馬に乗った、同じく全身鎧を纏い帯剣した騎士。だが首は無く全身から赤黒いオーラのようなものを出している。まさに魔王軍といった色合いだ。
馬の足は地面に付けず、空中にぷかぷかと浮かんでいる。
彼女は首無し騎士のシャルネーゼ。火山の領域でスカウトした新人だ。
首無し騎士とは不死者で男性で切られた首を持っていると思っていたが、彼女は精霊で女性で首も持っていない。やはり自分の知識とは違うのだろう。
それに精霊と言っても、炎の精霊の様に熱い所からは出られないという程でもないらしい。実際、火山帯からこうして付いて来てくれている。
――なんてのんびり構えている場合じゃない!
「領域を越えて攻めているってどういう事だ! スースィリア、来てくれ!」
即座にスースィリアに乗って追いかける。
亜人達は確かに個体で見れば人間よりは強いだろう。だが不死者と同じで人間の魔道言葉は使えない。魔力で強化される武器防具を装備した相手に、鉄の剣に革の鎧じゃいくら何でも分が悪すぎる。
頼むから……持ちこたえてくれよ!
極太の高い広葉樹が無数に乱立し、足元は密集した細かな草に覆われている。
木、草ともに異常に強い再生力を持ち、どれほど歩いても、また木に目印を付けてもすぐに消えてしまう。
そんな中に、多数の亜人種が潜んでいる。
「各員、進撃を開始せよ!」
日の出と共に、その領域内へとラニッサ王国の軍勢が進軍を開始した。
北の大国であるハルタール帝国に属し、これまでは比較的安全な地域での戦闘が主な任務だった。そのため大きな犠牲は出ていないが、目覚ましい戦果も無い。
一方で本国からの補給も滞りがちになり、もはや進退窮まった状態に置かれていた。
だが幸いなことに、ここは白き苔の領域や炎と石獣の領域程には危険では無い。普通に人間が活動できる領域なのである。
完全なる無駄死ににはならない……そのはずだ。
青を基調に黒の斜め十字の入った防具を着こみ、それぞれ大型の武器を手にした兵士達、その総数は55万人。その大軍が領域の淵から横並びで一斉に侵入する。
人類の領域攻略法はシンプルだ。
領域の線に沿って内側へと侵攻し、出会った敵と戦い、怪物の巣を駆除し、また進む。その様子は山狩りを思わせる。
一方で、不測の事態に備えて装備は軽装だ。いつ休めるともわからない戦場、疲労で魔力切れになったら武具の重さで動けなくなってしまうからだ。
当然味方にも多数の犠牲が出るが、そんな事は一向に構わない。
まるで自分達の血で白地図を染める様に、領域を外周からじわじわと犯してゆく。
唯一の救いは、領域を解除するまでは安全に後退できるという事くらいか。
その様子を死霊から報告を受けた相和義輝は、初めて人類をアホかと思った。
「俺達が派手に戦ったのに、まだ人類はこんな所で領域攻略なんて始めたのか」
……これではあの戦いが、全て無駄になってしまうではないか。
だが一方で、その意図は読まなくてはならない。なぜ今始めたのか?
一番考えられる事は、大量の増援が来たと言う事だ。兵力に余裕が出来たから余剰兵力を使って進み始めた……そうなると、この後ろには大軍が控えている。
だが死霊達の報告では、これといった増援は背後に発見出来なかった。
別の線……だが考えても解らない。
「エヴィア、ルリア、何かわかるか?」
無い知恵を絞っても仕方なく二人に尋ねるが……、
「さっぱりかな。人間の考えている事は解らないよ」
「わたくしにそういう事を聞かれましてもねぇ……」
……ですよねー。
「魔王、戦いの許可を!」
緑の大きな亜人、オークがせっついてくる。もうあちらは戦う気満々だ。
確かに『ここから先は進めません』なんて線があると、戦いはかなり不利だ。それはティランド連合王国との戦いで学んでいる。
炎と石獣の領域を背にしていたこちらを攻めるのに、向こうはかなり難儀している様子だった。彼らの言う戦いの許可とはそれの事だろう。それに何と言っても……。
「亜人だ! 囲め!」
「ニンゲンがあぁぁ! うぐおわぁぁぁ!」
……もうあちこちで戦闘自体は起こってしまっているからだ。
こうなったら後戻りはできないだろう。それに今回は彼らの住処を守る戦いだしな。
しかし領域を出る許可か……どうやるんだろう。求めれば良いらしいのだが、それならもう出来ているのか? 自分では全く分からない。
柱で魔力を出すみたいに、細かな調整をエヴィアに頼めないだろうか?
だが助けを求める目でエヴィアを見ても、フルフルと首を横に振るだけで応じてくれない。出来ないって事なんだろう。
「仕方ない……ええと、領域解禁!」
パンっと手を叩いてみる。成功しているのだろうか?
◇ ◇ ◇
モソ……遠い空の下、何かが動く。
――マオウガ、ワレラニ、モトメテイル
――マオウガ、ワレラニ、キョカヲ、ダシタ
――マオウガ、ワレラヲ、ヨンデイル
アツマレ、アツマレ、アツマレ、アツマレ、アツマレ……
◇ ◇ ◇
これで上手くいったのであろうか? 今回はあまりにも勝手が違う。
なんと言っても広葉樹の森のせいで何も見えない。なんでこんなに密集しているんだと言うくらい生い茂っているのだ。
周囲から戦闘の音は聞こえてくるが、そこへ行くべきかどうかも悩む。
相手の陣容どころか数すらも把握していない状況では、正直動くのが怖い!
せめて相手司令官の位置さえ分かれば手段もあるのだが……。
「ハッハッハ、魔王よ。もう亜人達はずっと先まで攻めていってしまったぞ。領域を越えてな。ハッハッハッハッハ」
少しお姉さん的な声の持ち主が話しかけてくる。
全身にフルプレートの馬鎧を施した馬に乗った、同じく全身鎧を纏い帯剣した騎士。だが首は無く全身から赤黒いオーラのようなものを出している。まさに魔王軍といった色合いだ。
馬の足は地面に付けず、空中にぷかぷかと浮かんでいる。
彼女は首無し騎士のシャルネーゼ。火山の領域でスカウトした新人だ。
首無し騎士とは不死者で男性で切られた首を持っていると思っていたが、彼女は精霊で女性で首も持っていない。やはり自分の知識とは違うのだろう。
それに精霊と言っても、炎の精霊の様に熱い所からは出られないという程でもないらしい。実際、火山帯からこうして付いて来てくれている。
――なんてのんびり構えている場合じゃない!
「領域を越えて攻めているってどういう事だ! スースィリア、来てくれ!」
即座にスースィリアに乗って追いかける。
亜人達は確かに個体で見れば人間よりは強いだろう。だが不死者と同じで人間の魔道言葉は使えない。魔力で強化される武器防具を装備した相手に、鉄の剣に革の鎧じゃいくら何でも分が悪すぎる。
頼むから……持ちこたえてくれよ!
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