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【 儚く消えて 】
サキュバスの酒場 前編
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ここの大地は大理石だろうか? だがそんな疑問より、見渡す限りの穴、穴、穴。更に遠くには巨大な穴。
大地は蟻塚の様に隆起しており、そこには無数の穴が開いている。
「これはまた、ある意味絶景だな」
氷結の竜達と別れてホテルを中心に円を描くように西へ進んだ先。
ここもホテルのあった地域に面した土地だ。他には先ほどまでいた氷の地、何度も通っている針葉樹の森、それに塩が沢山ある場所と滝が沢山ある場所に通じているそうだ。
進行ルート的には次は塩の場所となるが、一度滝の世界にも行ってみたいものだ。
――と余裕ぶっているが、正直サキュバスが気になってしょうがない。
何と言っても淫魔である。男性を誘惑し、その精を吸い取る。別名吸精鬼。
殺されないのなら、是非お世話になりたい諸兄も多いだろう。
俺はこれから、その総本山に行くのだ!
目的地への入り口はさほど遠くはなかったが、問題はそのサイズ。
「スースィリアはここには入れないな」
そこは俺が入るには十分な大きさであったが、流石に80メートルという巨体では頭すら入らない。
「大丈夫かな。スースィリアは周囲を徘徊しながら待っているよ」
……そうか、ちょっと心苦しいが外で遊んでいてもらおう。
「少し行ってくるよ。ちゃんと魔力の勉強をしてくるから心配しないで待っていてくれ」
スースィリアを撫でながらそう言って中に入る。
そこは炎と石獣の領域にあった坑道のようだが、足元は水平で歩きやすい。中の素材も外と同じような大理石だ。
そんな事を考えていると、奥から音楽のような音が聞こえてくる。
急に胸の奥がざわつく。そうだ、俺はこの世界に来てから一度も音楽を聴いていない。
現代社会に生きたものとしては、ものすごく不自然な生活だったわけだ。
そうして様々な期待を胸に奥に行ったわけだが……うーん何だろう、近づくにつれてはっきり聞こえてくるこの安手のキャバレーっぽい音楽。
物凄く薄い酒が物凄く高い金額で出て来そうな、そんな雰囲気だ。まさかこの世界に来て最初に聞く音楽がこれとは思わなかったよ。
坑道の奥には扉が設置されており、看板の様なものは付いていない。しかし周囲はきちんと四角く削ってあり、いかにも人工的な造り。
「この奥か……」
心臓の高まりを抑えきれない。この先には俺の知らない楽園が広がっている。本来ならエヴィアのような小さな子を連れてくる場所ではないが、実年齢は俺より年上なのでオッケーだ。そもそもエヴィアが連れてきたんだしな。では――
「お邪魔します!」
勇気をもって扉を開ける。
中はかなり大きめの部屋。四角い大きなテーブルに長いソファーが二対。そのセットが8個とバーカウンターが一つ。
その中には、11人のサキュバスが居た。
いかにも自分はサキュバスですよと言わんばかりの、コウモリ柄のチューブトップブラに、今にもはち切れて飛びそうなほどに細いビキニパンツが肉に食い込んでいる。
肌の色は白から褐色、黒、赤まで揃っている。黒い肌のサキュバスの白目は赤く、なんだか如何にも魔族的な雰囲気だ。それに赤い肌の人間を見たことが無いが、おそらくこの世界には居るのだろう。
そう、彼女たちはサキュバス、吸精鬼だ。男を惑わしその精を奪う。当然、惑わすにふさわしい外見をしているわけだ。
こちらに気づき、一人がのっしのっしと歩いてくる。
太い腕、太い脚、そして大きな乳房とお腹とお尻。身長はおよそ2メートル。
そうだよ! ああ分かってたさ! この世界、太ければ太いほど美人だったんだよな!
期待していた俺を殴り殺してしまいそうなくらい悔しい!
「あらやだ、魔王様?」
「えー嘘ぉ! それならもっとちゃんとお化粧したのに!」
声だけやたら可愛いのが更に悔しい。
他のサキュバスものっしのっしと近づいてくる。いややめて、象の群れに迫られたような恐怖感だよ。いやそれよりもライオンの群れに放り込まれた羊か。
「すみません、店を間違えました!」
エヴィアを引っ張って猛ダッシュするが、ごつい指に肩をガシッと掴まれる。ああ、だめだ……食われる!
ホテルでもこれと同じような事が無かったか!? エヴィアの言葉を借りるわけじゃないが、人間同じ失敗を繰り返してはいけないと誰かが言ってたぞ!
「魔王は魔力の支払いに来たかな。その代わり、きちんと話を聞いて欲しいよ」
だが命令ではなく話と言ってくれたエヴィアの気遣い、無駄には出来ないか……。
「まあぁ嬉しいぃ~。それじゃあ、今夜はたっぷりと可愛がってあげるぅ♪ 一滴残らず絞りつくしてあげるわぁ」
周りを囲み、こちらを見下ろしてくる女相撲取りの集団。
「やっぱ帰る! 助けてエヴィア! お願い! こんなところで捨てたくない!」
「仕方ないかな、それじゃあ支払いは魔王魔力拡散機を使うよ」
「魔王魔力拡散機? あの柱だよな? そん名前が付いてたのか」
創ったのは……やはり魔人なんだろうな。だが考えてみれば本来は何のために作られたんだろう?
「作ったのは魔王かな。大昔の……今はどんな魔王だったかは覚えていないよ」
「大昔の魔王? どういう事だ、魔王は一人じゃなかったのか?」
ずっと最初に檻で会った人物が魔王だと思っていた。いやそれは間違いないのだろうが、その彼がずっと魔王をやっていたものだと思い込んでいた。
だがそうだ、俺も死ぬ。しかも本当にあっさりとだ。
だが逆に死なない事も出来る。先代、いや歴代の魔王たちはどうして死んだのだ? そして、俺が死んだら次の魔王はどうなるのだろう。
「今の魔王が死んだら、もうこの世界に魔王は存在しないかな」
それはいつも陽気な空気を含んでいる言葉ではなく、重く苦しい言葉。
聞こうかとも思う。だがやめておこう……今は。
大地は蟻塚の様に隆起しており、そこには無数の穴が開いている。
「これはまた、ある意味絶景だな」
氷結の竜達と別れてホテルを中心に円を描くように西へ進んだ先。
ここもホテルのあった地域に面した土地だ。他には先ほどまでいた氷の地、何度も通っている針葉樹の森、それに塩が沢山ある場所と滝が沢山ある場所に通じているそうだ。
進行ルート的には次は塩の場所となるが、一度滝の世界にも行ってみたいものだ。
――と余裕ぶっているが、正直サキュバスが気になってしょうがない。
何と言っても淫魔である。男性を誘惑し、その精を吸い取る。別名吸精鬼。
殺されないのなら、是非お世話になりたい諸兄も多いだろう。
俺はこれから、その総本山に行くのだ!
目的地への入り口はさほど遠くはなかったが、問題はそのサイズ。
「スースィリアはここには入れないな」
そこは俺が入るには十分な大きさであったが、流石に80メートルという巨体では頭すら入らない。
「大丈夫かな。スースィリアは周囲を徘徊しながら待っているよ」
……そうか、ちょっと心苦しいが外で遊んでいてもらおう。
「少し行ってくるよ。ちゃんと魔力の勉強をしてくるから心配しないで待っていてくれ」
スースィリアを撫でながらそう言って中に入る。
そこは炎と石獣の領域にあった坑道のようだが、足元は水平で歩きやすい。中の素材も外と同じような大理石だ。
そんな事を考えていると、奥から音楽のような音が聞こえてくる。
急に胸の奥がざわつく。そうだ、俺はこの世界に来てから一度も音楽を聴いていない。
現代社会に生きたものとしては、ものすごく不自然な生活だったわけだ。
そうして様々な期待を胸に奥に行ったわけだが……うーん何だろう、近づくにつれてはっきり聞こえてくるこの安手のキャバレーっぽい音楽。
物凄く薄い酒が物凄く高い金額で出て来そうな、そんな雰囲気だ。まさかこの世界に来て最初に聞く音楽がこれとは思わなかったよ。
坑道の奥には扉が設置されており、看板の様なものは付いていない。しかし周囲はきちんと四角く削ってあり、いかにも人工的な造り。
「この奥か……」
心臓の高まりを抑えきれない。この先には俺の知らない楽園が広がっている。本来ならエヴィアのような小さな子を連れてくる場所ではないが、実年齢は俺より年上なのでオッケーだ。そもそもエヴィアが連れてきたんだしな。では――
「お邪魔します!」
勇気をもって扉を開ける。
中はかなり大きめの部屋。四角い大きなテーブルに長いソファーが二対。そのセットが8個とバーカウンターが一つ。
その中には、11人のサキュバスが居た。
いかにも自分はサキュバスですよと言わんばかりの、コウモリ柄のチューブトップブラに、今にもはち切れて飛びそうなほどに細いビキニパンツが肉に食い込んでいる。
肌の色は白から褐色、黒、赤まで揃っている。黒い肌のサキュバスの白目は赤く、なんだか如何にも魔族的な雰囲気だ。それに赤い肌の人間を見たことが無いが、おそらくこの世界には居るのだろう。
そう、彼女たちはサキュバス、吸精鬼だ。男を惑わしその精を奪う。当然、惑わすにふさわしい外見をしているわけだ。
こちらに気づき、一人がのっしのっしと歩いてくる。
太い腕、太い脚、そして大きな乳房とお腹とお尻。身長はおよそ2メートル。
そうだよ! ああ分かってたさ! この世界、太ければ太いほど美人だったんだよな!
期待していた俺を殴り殺してしまいそうなくらい悔しい!
「あらやだ、魔王様?」
「えー嘘ぉ! それならもっとちゃんとお化粧したのに!」
声だけやたら可愛いのが更に悔しい。
他のサキュバスものっしのっしと近づいてくる。いややめて、象の群れに迫られたような恐怖感だよ。いやそれよりもライオンの群れに放り込まれた羊か。
「すみません、店を間違えました!」
エヴィアを引っ張って猛ダッシュするが、ごつい指に肩をガシッと掴まれる。ああ、だめだ……食われる!
ホテルでもこれと同じような事が無かったか!? エヴィアの言葉を借りるわけじゃないが、人間同じ失敗を繰り返してはいけないと誰かが言ってたぞ!
「魔王は魔力の支払いに来たかな。その代わり、きちんと話を聞いて欲しいよ」
だが命令ではなく話と言ってくれたエヴィアの気遣い、無駄には出来ないか……。
「まあぁ嬉しいぃ~。それじゃあ、今夜はたっぷりと可愛がってあげるぅ♪ 一滴残らず絞りつくしてあげるわぁ」
周りを囲み、こちらを見下ろしてくる女相撲取りの集団。
「やっぱ帰る! 助けてエヴィア! お願い! こんなところで捨てたくない!」
「仕方ないかな、それじゃあ支払いは魔王魔力拡散機を使うよ」
「魔王魔力拡散機? あの柱だよな? そん名前が付いてたのか」
創ったのは……やはり魔人なんだろうな。だが考えてみれば本来は何のために作られたんだろう?
「作ったのは魔王かな。大昔の……今はどんな魔王だったかは覚えていないよ」
「大昔の魔王? どういう事だ、魔王は一人じゃなかったのか?」
ずっと最初に檻で会った人物が魔王だと思っていた。いやそれは間違いないのだろうが、その彼がずっと魔王をやっていたものだと思い込んでいた。
だがそうだ、俺も死ぬ。しかも本当にあっさりとだ。
だが逆に死なない事も出来る。先代、いや歴代の魔王たちはどうして死んだのだ? そして、俺が死んだら次の魔王はどうなるのだろう。
「今の魔王が死んだら、もうこの世界に魔王は存在しないかな」
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聞こうかとも思う。だがやめておこう……今は。
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