この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

商人として 前編

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「お待たせいたしました」

 翌日、世界連盟中央都市の一角にある、中央軍事管理室にリッツェルネールは入った。
 中には既に多くの国の軍属が集まっていたが、国王をはじめとした将軍や参謀などの重鎮ばかりだ。そんな中、唯一無官の彼が入るのは場違いにも思われた。

 現在、コンセシール駐屯軍を率いるのはイグシール・ファートウォレル。商国では珍しい完全な武官タイプで実践指揮に問題は無い。その彼に任せなかったと言う事は、商談をしろと言う事か……。

「これはお久しぶりです、リッツェルネール殿」

「お久しぶりです、コレンティア伯」

 部屋に入った早々に挨拶をかけてきたのは、ユーディザード王国のチェムーゼ・コレンティア伯爵であった。
 相変わらず、と言ってもそう日も経っていないので仕方が無いが、線の細い、どこかおどおどした男だ。
 だが北方に名高き軍事国家であるユーディザード王国の伯爵に、愚鈍な男がつけるわけがないだろう。

「新型の方はどうですか? 売る方としては情けない話ですが、僕には扱えないので実際の運用は聞いてみないと判らないのです」

「コンセシールの新型は素晴らしいと評判ですよ! 今テスト運用中ですが、あれなら魔神を相手にしても戦えるでしょう」

 コレンティア伯は自分の事の様に目を細め、嬉しそうに話してくる。
 しかし魔神か……。

 魔王との戦闘で確認されたという三体の異形。
 一体は巨大な蟹の姿、もう一体は巨大なムカデの姿、そしてもう一体は巨大な目を持つ奇妙な姿の何かだったという。
 それらは、それぞれ”蟹”、”ムカデ”、”白”と呼称されることになった。
 悪魔である、また大きいだけの魔族であると様々な意見が出たが、結局古の記録にある魔神という呼称で呼ばれる事となる。

 しかし神とは、また大仰な名前を付けたものだ。人間より強いものを神と呼んでいたら、この世は神だらけになってしまうではないか。
 それに古い資料を確認した限りでは、魔神という名はとても曖昧あいまいな使われ方だった。
 だがもし報告にあった雷撃をその異形が起こしたのであれば、あるいは神と呼ばれるものなのかもしれない……。


「やあ、リッツェルネール君。今いいかね?」

 とても温厚に話しかけてきたその男を見て、リッツェルネールの背中が一瞬凍る。
 岩に丸太を付けたような不格好な体を、高価だがあまりにも似合わないスーツに包んでいる。
 両目ともに水晶の義眼で左腕は無い。
 “無眼の隻腕”ククルスト・ゼビア王であった。

「え、ええ。勿論です、ククルスト・ゼビア陛下」

 戦場で幾多の人間を見、数多くの魔族と戦ってきた彼でも一瞬身がすくむ。
 外見にではない、その身に纏う死の空気にだ。

「君の国のね、確かニーバブル22式だったかな、簡易浮遊式輸送板の」

「はい、確かに当商国が開発した簡易浮遊式輸送板です」

 簡易浮遊式輸送板はその名の通り浮遊式輸送板を簡略化したものだ。従来の操縦士と動力士二人の体制から動力士二人だけにした。当然細かい操作は出来ず、方向転換には難儀する。そして起伏にも弱い。
 人類社会では危なっかしくて使えない代物だが、操縦士という専門技術者が不要、安価、それでいて運搬力はさほど変わらないという事で、魔族領では重宝されていた。

「ああ、良かったよ。それでね、それをそうだねぇ、欲しいのだがね。どのくらいで準備できそうだい?」

 シャハゼン大臣の執務室での大暴れは、既に万人の知るところだ。しかし、今の彼からは暴力的な様子は一切見られない。温厚な物言い……だがその義眼からは、心情を読み取る事が出来ない。

「30日後に200騎、以後は12日ごとに100騎をお納めすることが出来ます、陛下。お急ぎでしたら別室にてお話を伺いますが」

「なるほどなるほど、ふむ、君は良いね、うん。ではそれで頼もう。代金はゼビア金貨で良いかな? それともティランド金貨が良いかな?」

「お気遣いありがとうございます。ご用意のしやすい方で結構です。我が国は、ゼビア王国でも商いを許可されておりますので」

 コンセシール商国は古代の商人のような座売りではない。相手に応じて値を変えるのではなく、モノの値段はきちんと設定されている。それにゼビア王国相手にはした金の交渉をするつもりもない。だからリッツェルネールは掛け値なしに今できる最速を提示したのだが……。

「それとね、それとは別に……そうだねぇ、あと600騎用意してもらえるかな?」

 正直その言葉には面食らった。
 現在の生産ラインは手一杯で、これ以上の増産は出来ない。戦いで消費される量に対して技術者が圧倒的に足りないのだ。もし用意するのならそれなりの資金が必要であり、またそれだけの数が必要という事は……。

「それでは別室にてお話を伺いましょう」



 中央軍事管理室には幾つもの個室がある。
 全体の会合を開くためには、それぞれの国家同士で予定をすり合わせる必要があるからだ。
 そして、その場は時として商談にも使われる。

「やはりゼビア王国は全面撤収ですか……」

「うん、そうだね。もう我らの民は十分に戦ったよ。もう一刻も早く故郷に返してやりたいんだ」

 その外見に似合わぬ殊勝な言葉。表情は読めない。しかし、リッツェルネールには彼の考えていることは判る。

「それではこちらも必要になるかと……」

 リッツェルネールの提示した資料を見ると、ククルスト・ゼビアは破顔する。

「ククククク……いいね、やはり君は良く分かっているよ」
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