この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

氷結の地 後編

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氷結の竜アイスドラゴンよ、一つ聞きたい」

「何なりと」

 一番大きなドラゴンの頭が、ギギギと鱗の擦れる音共にゆっくりとこちらに近づいてくる。目つきや言葉は温厚そうだが、正直言ってかなりの迫力だ。

「君たちは人間をどう思っている? 彼らはまだここには攻め込んでは来ていない。だが、いずれ来るかもしれない。そしてその時、俺は君達に戦ってくれと願うだろう。その時どうする?」

「我等は人間と関係を断って久しい。もはや、彼らの瞳には我等は大きな魔族としか映るまい。だが、我等は彼らのぬくもりを忘れた事は無い」

「それは戦わないという事か?」

「そうではない。それが魔王の意志と言うのであれば、我等は幾らでも戦おう。それが魔人の意志だからだ」

 魔人が決めた事……だから魔王に従うのか。
 人類と戦うと決めた事、実行した事、全部俺の意志だ。そして魔人達はそれに付いて来てくれる。

「なあ、エヴィア。魔人は俺に何をして欲しいんだ? つか、元々魔王って何のためにいるんだ?」

「前にも言ったかな。魔王は人類の敵だよ。でも、魔王が実際に何をするかは、全部魔王次第だよ。魔人はそれに協力するけど、指示は出さないの」

「少しくらいは意見してくれた方が嬉しいんだけどな」

「エヴィアは戦争には興味が無いから、知識が足りないかな。口は災いの元って誰かが言ってたよ」

 もうちょっと詳しい魔人に会わなければダメか。だが他にも魔人がいるなら、いずれ会えるだろう……それまで死なずに頑張れればだが。

 そんなやり取りの最中も、氷結の竜アイスドラゴンは微動だにせず首を垂れていた。
 この静かな空気のせいだろうか、どうも体がいつもよりも冷える。
 いや冷えるというよりこごえる感触だ。そろそろ日も暮れる、寒さが増してきたと言う事なのだろうか。

 ……いや違う! 何かがまとわりついている感覚。自分の周囲の大気から明確な意志の力を感じる。

「オイ!」

「えへっ、ばれたー? 美味しかったよー」

 ヒュウっという一陣の風と共に精霊が飛び去ってゆく。ルリアがぷんすかしながら追いかけていったが、あれはどうしようもないだろう。

「なんか貯めてた魔力をごっそりと持っていかれたぞ! 本当に油断のならない世界だなここは!」

「油断以前に、魔王は魔力のコントロールが出来ないとだめかな。考える前に学べと誰かが言っていたよ。」

 なんか辛辣なエヴィアの言葉。

「なら、せめてコントロール方法を教えてくれよ」

「仕方がないかな。ここを抜けると大きな穴が沢山ある場所に出るよ。そこのサキュバスにお願いするね」

「さ、サキュバス!?」

 一般成人男性がファンタジー世界で会いたいモンスランキング(相和義輝あいわよしき調べ)上位に食い込むアレか!
 それは楽しみが一気に増えたな。さあ、行こう!

「魔王の不純さが一気に増えたかな」

 エヴィアの冷たい声と共にスースィリアがちょっと硬くなってくる。少し落ち着こう、俺。




 ◇     ◇     ◇




 その頃リッツェルネールは 世界連盟中央都市にいた。
 イリオンにはその間、しっかりと通信機の使い方を覚えるようにと大量の教本を渡しておいた。彼女を置いて行くのは色々な意味で心配だったが、まあ大した情報は持っていない。
 精々何度か白き苔の領域に行った事を知っている程度だ。それなら漏れても対処できる。

 今日は到着のみで本番は明日以降となる。あの議会場で行われている茶番劇の裏で、軍務の実務協議があるので呼ばれたのだ。
 そこで彼は街を散策しながら色々な店を物色し、日が暮れた頃には石畳を敷かれた小さな路地裏を歩いていた。
 この町は魔力による灯りで照らされているが、それでも路地裏はかなり暗い。

「おうおう、兄ちゃん、良い恰好してるねぇ。どうだい、ちっと恵んでくれねぇか?」

 そこへ酒瓶を抱えた酔っ払いが絡んでくる。この街には浮浪者などは居ないが、どこかの国から来た商人か宗教関係者だろうか。

「ああ、構わないよ。酒が飲みたいならロンワ通りのシコーニャって店に行くと良いよ。あそこは安くていい酒が揃っているからね」

 そう言ってリッツェルネールは石畳に銀貨を三枚落とすと、それは狭い道にチャリンチャリーンと良い音を立てて響く。
 そうして去って行ったリッツェルネールの後に付いて来る人影。

「あの男をマークしろ。店もだ。コインも確認しろ、出来る限り穏便にな」

「かしこまりました」


 リッツェルネールも、自分に沢山の金魚の糞が付いていることを理解している。
 だが同様に、商国の重鎮として彼もそういった種類の人間を子飼いにしている。

 酔っ払いもコインも店も関係ない。
 今日町に入り、どの通りを歩き、どの店に寄ったかが符号。
 そして石畳に響かせた銀貨の音は、その日の行動の種類を知らせる合図。
 たとえ酔っ払いが居なくても、落としたフリをして結局鳴らしていたのだろう。

 後を付けてきたどこかの国の諜報員が見当違いの所を調べている間に、リッツェルネールの指示を受けた諜報員が動く。
 あるものは商人として、あるものは巡礼者として、またあるものは軍の兵士として各地に散って行った。
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