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【 儚く消えて 】
氷結の地 前編
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辺り一面に広がる氷の大地。点在する立木には葉が見られず、一見すると朽ち木の様だ。
「寒いー! 寒いぞー!」
特に強風などは吹いていない。だが凍てつく極寒の地を移動しているだけで骨まで凍らされそうだ。
ここは氷結の地。人間ならもっと長い名前を付けそうだが、氷の大地しか見えないのだから仕方がない。
雪がチラホラと舞い、地面は青白い氷に覆われている。
ホテルから南に存在するこの地は、ホテルのあった廃墟と針葉樹の森、それにあと一つまだ行っていない地に囲まれているという。
俺は各地を回って人類と戦う協力者を求めると決めたわけだが、ここで仲間にした生き物が外に出られるとは思わない。出たとしても炎の精霊程度のちょっとだろう。
炎と石獣の領域から出た石獣達は、あの後自分達の住処に帰って行った。生活環境が適さないから、わざわざあそこにいる必要が無いのだ。出てきてくれたのも、俺の願いを魔人エヴィアが伝えてくれたからに過ぎない。
そう、それぞれの領域に生きる物は、結局今住んでいる領域が一番居心地着が良いのだ。
「魔王様の水筒凍ってますわ。本当に寒そうですねー。死んじゃう前に、ちゃんと魔力くださいよ?」
同行者は魔人エヴィア、魔人スースィリアといつものメンバーに加え死霊のルリア。彼女を連れてきたのは、たまにホテルに戻して各地に飛んだ死霊が集めた情報を確認するためだ。何か動きがあったら全力で戻らなければならない。
スースィリアはいつもの様に頭をフワフワクッションに変えてくれているが、意外と温かさが無い。たまに蒸気を吹くけど、その熱は伝わって来ないようだ。仕方ないのでエヴィアが湯たんぽ変わりだが、小さな体は結構外気に左右されるので冷たい。
仕方が無いので僅かな布の隙間に手を入れて暖を取る始末。端から見たら変質者だが、寒いんだから不可抗力だ。
「何で揉むかな?」
――本能です。
「ちょっと情けないかな。魔王は冬服だよ」
「情けなくてもい……温もりが欲しい……」
入ってすぐにウサギや鹿、それに小さな昆虫はいたが、まさかあれに戦ってくれとは言えないだろう。
こうしてしんしんと冷える中を移動していると、ようやく遠くに強大な生命を感じる。
「スースィリア、あそこへ行ってくれ」
近づくにつれ、その姿は徐々に明らかになってくる。
それはまるで氷の固まり。全身は少し透き通った青色で、地面の氷ともよく色合いがマッチしている。
爬虫類を思わせるフォルム、巨大な翼、長い尾と口元から覗く牙。ドラゴンだ。
だがどう考えても……
「あれはエヴィアの管轄だよね」
今までのパターンを考えると、何かを食べる物は魔人に従い、魔力を欲するものは魔王の管轄だろう。そしてドラゴンはどう考えても前者だ。不死者も肉は食べるが、あれは栄養として必要なわけではないらしい。
そしてこちらに気づくと、のっしのっしと集団でやってくる。かなりの群れ、100体から200体位か。
それにデカい。4割方は尾の長さだが、最大個体の全長はおよそ60メートル。一般的なサイズでも30メートルほどだ。
4足歩行で、頭の位置はスースィリアに乗っている俺の位置よりも高い。かなりの迫力だ。それに、ドラゴンというものを生で見るのはやっぱりワクワクする。
「ようこそ魔王。我々氷結の竜は貴方を歓迎しよう」
――軽い違和感。いや、それはすぐに判る。ついさっき考えていたではないか。
「君達は魔人に従っているのでは?」
「魔人は我らが神。神に歓迎はしない。魔王はその友だから歓迎する」
今一つ意味が解らないが、氷結の竜達はエヴィアとスースィリアに頭を垂れ従っている……いや、崇めている様な姿勢を取る。
それは周囲の静寂な世界と相まって、とても幻想的な景色だった。
しかし、相和義輝は別の事を思う。その行為に対し、魔人エヴィアも魔人スースィリアも、優越感や楽しさを感じていない事が分かったからだ。
友か……石獣は魔人の言葉に従った。悩み考える様子はなく即にだ。そしてドラゴンは神として崇める。まだ判らないが、魔人と対等な存在、いやそう認められているのは魔王だけなのだろうか。
だとしたら、魔人の人生とはあまりにも寂しいのではないだろうか……。
――本来なら、人間がそうであるべきじゃないのか……。
そんな考えが泡のように浮かんで消える。結局、そうはならなかったのだ。理由はまだ分からない。だが、彼ら人類は敵となった……。
「寒いー! 寒いぞー!」
特に強風などは吹いていない。だが凍てつく極寒の地を移動しているだけで骨まで凍らされそうだ。
ここは氷結の地。人間ならもっと長い名前を付けそうだが、氷の大地しか見えないのだから仕方がない。
雪がチラホラと舞い、地面は青白い氷に覆われている。
ホテルから南に存在するこの地は、ホテルのあった廃墟と針葉樹の森、それにあと一つまだ行っていない地に囲まれているという。
俺は各地を回って人類と戦う協力者を求めると決めたわけだが、ここで仲間にした生き物が外に出られるとは思わない。出たとしても炎の精霊程度のちょっとだろう。
炎と石獣の領域から出た石獣達は、あの後自分達の住処に帰って行った。生活環境が適さないから、わざわざあそこにいる必要が無いのだ。出てきてくれたのも、俺の願いを魔人エヴィアが伝えてくれたからに過ぎない。
そう、それぞれの領域に生きる物は、結局今住んでいる領域が一番居心地着が良いのだ。
「魔王様の水筒凍ってますわ。本当に寒そうですねー。死んじゃう前に、ちゃんと魔力くださいよ?」
同行者は魔人エヴィア、魔人スースィリアといつものメンバーに加え死霊のルリア。彼女を連れてきたのは、たまにホテルに戻して各地に飛んだ死霊が集めた情報を確認するためだ。何か動きがあったら全力で戻らなければならない。
スースィリアはいつもの様に頭をフワフワクッションに変えてくれているが、意外と温かさが無い。たまに蒸気を吹くけど、その熱は伝わって来ないようだ。仕方ないのでエヴィアが湯たんぽ変わりだが、小さな体は結構外気に左右されるので冷たい。
仕方が無いので僅かな布の隙間に手を入れて暖を取る始末。端から見たら変質者だが、寒いんだから不可抗力だ。
「何で揉むかな?」
――本能です。
「ちょっと情けないかな。魔王は冬服だよ」
「情けなくてもい……温もりが欲しい……」
入ってすぐにウサギや鹿、それに小さな昆虫はいたが、まさかあれに戦ってくれとは言えないだろう。
こうしてしんしんと冷える中を移動していると、ようやく遠くに強大な生命を感じる。
「スースィリア、あそこへ行ってくれ」
近づくにつれ、その姿は徐々に明らかになってくる。
それはまるで氷の固まり。全身は少し透き通った青色で、地面の氷ともよく色合いがマッチしている。
爬虫類を思わせるフォルム、巨大な翼、長い尾と口元から覗く牙。ドラゴンだ。
だがどう考えても……
「あれはエヴィアの管轄だよね」
今までのパターンを考えると、何かを食べる物は魔人に従い、魔力を欲するものは魔王の管轄だろう。そしてドラゴンはどう考えても前者だ。不死者も肉は食べるが、あれは栄養として必要なわけではないらしい。
そしてこちらに気づくと、のっしのっしと集団でやってくる。かなりの群れ、100体から200体位か。
それにデカい。4割方は尾の長さだが、最大個体の全長はおよそ60メートル。一般的なサイズでも30メートルほどだ。
4足歩行で、頭の位置はスースィリアに乗っている俺の位置よりも高い。かなりの迫力だ。それに、ドラゴンというものを生で見るのはやっぱりワクワクする。
「ようこそ魔王。我々氷結の竜は貴方を歓迎しよう」
――軽い違和感。いや、それはすぐに判る。ついさっき考えていたではないか。
「君達は魔人に従っているのでは?」
「魔人は我らが神。神に歓迎はしない。魔王はその友だから歓迎する」
今一つ意味が解らないが、氷結の竜達はエヴィアとスースィリアに頭を垂れ従っている……いや、崇めている様な姿勢を取る。
それは周囲の静寂な世界と相まって、とても幻想的な景色だった。
しかし、相和義輝は別の事を思う。その行為に対し、魔人エヴィアも魔人スースィリアも、優越感や楽しさを感じていない事が分かったからだ。
友か……石獣は魔人の言葉に従った。悩み考える様子はなく即にだ。そしてドラゴンは神として崇める。まだ判らないが、魔人と対等な存在、いやそう認められているのは魔王だけなのだろうか。
だとしたら、魔人の人生とはあまりにも寂しいのではないだろうか……。
――本来なら、人間がそうであるべきじゃないのか……。
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