この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 儚く消えて 】

新たなる戦いに向けて~人類 前編

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 魔王とティランド連合王国との戦いから二十日後、碧色の祝福に守られし栄光暦217年8月25日。
 中央では世界連盟臨時会合が開かれていた。もはや32日に予定していた世界連盟準備会合など完全に吹き飛んだ。

 議場は円形のホールとなっており、外側が盛り上がった凹形状。四方に用意された席は1500あり、加盟国全ての大使を収容できる。地球でいう国際連盟の議会場に近いだろう。
 大きな違いとしては、飛行機関を使った四大国の議長席が中央に浮遊しているところだ。

 本来であれば、中央に位置する議長の出した議題に合わせて、粛々と会合が行われる。
 だが今や、議会は紛糾、いや大紛糾で議長の話も全く聞こえない。

「魔王が再び現れたなど誰が信じる物か!」

「ティランド連合王国が失敗したため出まかせを言っているのではないのか!」

「魔族が領域を超えることなど有り得ない! 神が許していないのだ!」

「停戦? 有り得ぬ! 魔族を討伐すべし!」

「軍を集めろ! 第九次魔族領遠征軍を編成するのだ!」

「補給はどうするのだ! 今も前線は補給不足に苦しんでいるのだぞ!」

 これまで魔族領侵攻は順調だった。良い具合に人口も減り、更には魔王を討伐したと知らせが入った時は、皆歓喜して踊り狂ったものだ。
 太陽の光は確かな未来を感じさせ、作物も今まで以上に成長を見せた。
 だがそれも束の間だった。

 魔王復活。これ程の凶報がこの世にあるだろうか。
 全人類、有史以来の悲願が打ち砕かれたのである。
 議場の騒ぎは収まらない。朝も昼も夜も、ただただ実り無き喧騒を繰り返すだけであった。




 ◇     ◇     ◇




 その頃カルターは、中央地下、記憶室にいた。
 共をするのは白磁の仮面を被り、全身を白い服で包んだ女性が一人。
 そしてカルターは仮面こそ被っていないが、やはり全身を白い服で包んでいる。
 二人とも毛皮の靴を履き、金属の金具等は一切身に着けていない。完全に音を断った服装だ。

「壁の建設開始は、紫の静寂に見守られし幸福歴722年2月40日だったな」

 長い廊下を歩き、長い螺旋階段を歩き、さらに先に目的の場所があった。

 ”紫の静寂に見守られし幸福歴700から800年”と記された扉。それは極一部の人間が、特別な理由が無ければ訪れることが出来ない部屋。

 ゆっくりと扉が開き、二人は中へと入る。
 そこは小さな丸いガラス窓が一つだけある壁で区切られた小部屋。そして奥には少し大きめの部屋。
 奥の部屋には沢山の本が並ぶ本棚、そしてテーブルの上には新聞やチラシ、そして無造作に積まれた本。その部屋のイスの上に、一人の少女が座っている。
 全ての色素を失ったような真っ白な長い髪に、同じく病的なほどに白い肌。

「カルター陛下、わたくしが手を上げたら、お聞きしたい事をおっしゃってください。わたくしが記憶官様にお伝えいたします。わたくしが記憶官様と話をする間、決してお話になりませぬよう」

「分かっている」

 記憶官。それはその当時に普通に生活していた人間。書き残した書類資料などではなく、実際に生きていた生の声を聴くための存在。彼女は“紫の静寂に見守られし幸福歴”700年から800年の百年を外で過ごし、今日までの約1500年をこの中で過ごしている。

 記憶が風化しないように当時の本や生活用具が置かれ、当時の生活だけを思い出して生き続ける。そして新たな記憶の書き込みをできる限り減らすため、会話できるのはごく一部の特別な権限を持つ者だけ。それも数百年に一回だけである。食事も毎日同じものが同じ時間と徹底されていた。

「先ずは、魔物は領域から出てくるのか。それを聞いてくれ」

 カルターは聞きたい事のメモを見て質問内容を確認する。当然紙の書類や当時の通信機に残された記録も見た。だが内容は諸説様々で確証を得るものではない。そこで最後の手段として、膨大な量の申請書の束を出して記憶官を使う事にしたのだ。

 白い服の女性はボタンを押すと、部屋の中にベルの音が鳴る。
 それが合図の様に、中の少女は丸い小窓を見る。その薄い翠の瞳は感情が乏しいが、何かを待っているようだ。
 そして別のボタンを押すと、白服の女性はゆっくりとした口調でカルターの質問を伝える。

「質問ですぅ、領域から魔族は出てぇきますかぁ」

 今とは微妙に発音の違う、当時の発音で話しかける。

 小窓を使って会話するのも記憶を風化させないためだ。壁越しで誰か判らないと想像し妄想してしまう。だから常に同じ格好の人間が相手をする。

「ええぇ、そうねぇ。いぃつも領域から沢山の魔族ぅが出てぇきたわ。だぁから壁を作ったぁのよ」

 少女は答えると、自分の記憶を確認するように当時の本や新聞に目を通していた。
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