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【 戦争 】
迫り来る予兆 後編
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「飛甲騎兵は下がったか……」
飛び去ってゆく飛甲騎兵を見ながら、相和義輝は全ての不死者達を集結させた。
おそらく、こちらの陣容は相手に完全に知られただろう。もう少数でバラバラにはやって来ない。来るとしたら明日か明後日。
「少し休もう。さすがに疲れたよ」
だが自分が狙われたと言う事は、少しは成功と言えるかもしれない。
前哨戦が終わり、いよいよ本番だ。
だが急に沸き起こる嘔吐感。一歩も動けず、膝から崩れ吐き出してしまう。
――今更来たか……罪悪感。ああ、解っているさ……。
辺りに漂う死臭、血、肉片……今までは緊張が抑え込んでいたが、安心した途端に実感する。自分の罪の重さを。
エヴィアがそっと、相和義輝の背中に両の掌と、その小さな体を重ねてくる。
「魔王、人間はまだ、海を支配してはいないかな……」
それは救いの手。魔人が姿を変えれば、一人位は海上で生活させることが出来るかもしれない。だがそれは、その姿は、もうエヴィアではなくなった何か。
それに時間稼ぎをして何になるのだろう。陸が終わったら、次に人間の興味が海に向くのは明白だ。長い長い時を、一生逃げ回るのだろうか。何もかもを失って……。
「俺は大丈夫だよ、ありがとうな。本番は多分明日か明後日だ。その時頼むぜ」
「エヴィア達がいれば安心かな。スースィリアも日暮れには到着するよ。案ずるより産むが易しって誰かが言ってたよ」
「オッケー!」
俺は精いっぱいの作り笑顔をエヴィアに見せた。
◇ ◇ ◇
「只今戻りました」
オブマーク司教が帰還したのはナルナウフ教団兵の最後だった。
水中服のような全身鎧は右腕の上腕が切断され、頭部も半分から上が無い。そして関節部には不死者の破片やグールの爪などが引っ掛かり満身創痍の状態だ。
「あら、生きてましたの。ふふ、しぶとい事はよろしくてよ」
サイアナ司祭は既に鎧を脱ぎ、以前相和義輝と出会った時のように、宝石を散りばめた装飾品を身に着け、スケスケレオタードに着替えている。違いと言えば、あちこちに包帯が巻かれ血が滲んでいる事くらいだろう。
言葉のそっけなさに反して走り寄り、銀のツインテールがひらりと舞う。
「酷い事を言わんでくださいよ――よっこらしょっと」
右手でレバーを操作すると、プシューという音と共に外装がパシっと開く。
そして中から出てきた部分鎧を纏ったオブマーク司教には、サイアナと同じような切り傷が各所にある程度だ。斬り落とされた部分は、全て鎧の外装であった。
「巡礼中でなかったら、我らは間違いなく死んでましたよ。見て下さいよ、俺の重甲鎧。どうやったらこんな風にできるのか。」
重甲鎧。浮遊式輸送板より昔に開発されたこれは、鎧であり機械でもある。
鎧の様に当人の魔力次第で硬さが変化するが、各関節の動力などは浮遊式輸送板と同じように魔道炉を使う。
だが消費魔力は鎧とは桁違いに高く、1日中の着用は不可能だし使用できる人間も限られる。
それに外す時はともかく、着用は一人では出来ない。
「あー外から見ると、思ってたよりかなり斬られてますな。これはもうダメでしょう。どうします、新しいのを聖都から送ってもらいますか?」
自分の着ていた重甲鎧の散々な姿に呆れた口調でオブマークが言うが、サイアナはそれを否定する。
「いいえ、我々は一度本国へ帰還いたしますわ」
意外であった。サイアナの事だから、嬉々としてまた出撃すると思っていたのだ。勿論、そうなったら全力で止めるつもりであった。新しいのを進言したのも、時間を稼げると思ったからなのだが……。
「だって悪魔ですのよ! きちんと教会に報告しませんと。それに……ああ、失礼な真似は出来ませんわ。ちゃんと正装をしてお会い致さなければ……」
その姿は、まるで恋する乙女のようだ。
そして思い出す。聖都に保管されているサイアナの正式重甲鎧。
ああ、アレを持ち出すのね……オブマーク司教は微妙に相手に対する気の毒さを感じながらも、たしかにアレを持ち出さなければ倒せないだろう、そう感じていた。
飛び去ってゆく飛甲騎兵を見ながら、相和義輝は全ての不死者達を集結させた。
おそらく、こちらの陣容は相手に完全に知られただろう。もう少数でバラバラにはやって来ない。来るとしたら明日か明後日。
「少し休もう。さすがに疲れたよ」
だが自分が狙われたと言う事は、少しは成功と言えるかもしれない。
前哨戦が終わり、いよいよ本番だ。
だが急に沸き起こる嘔吐感。一歩も動けず、膝から崩れ吐き出してしまう。
――今更来たか……罪悪感。ああ、解っているさ……。
辺りに漂う死臭、血、肉片……今までは緊張が抑え込んでいたが、安心した途端に実感する。自分の罪の重さを。
エヴィアがそっと、相和義輝の背中に両の掌と、その小さな体を重ねてくる。
「魔王、人間はまだ、海を支配してはいないかな……」
それは救いの手。魔人が姿を変えれば、一人位は海上で生活させることが出来るかもしれない。だがそれは、その姿は、もうエヴィアではなくなった何か。
それに時間稼ぎをして何になるのだろう。陸が終わったら、次に人間の興味が海に向くのは明白だ。長い長い時を、一生逃げ回るのだろうか。何もかもを失って……。
「俺は大丈夫だよ、ありがとうな。本番は多分明日か明後日だ。その時頼むぜ」
「エヴィア達がいれば安心かな。スースィリアも日暮れには到着するよ。案ずるより産むが易しって誰かが言ってたよ」
「オッケー!」
俺は精いっぱいの作り笑顔をエヴィアに見せた。
◇ ◇ ◇
「只今戻りました」
オブマーク司教が帰還したのはナルナウフ教団兵の最後だった。
水中服のような全身鎧は右腕の上腕が切断され、頭部も半分から上が無い。そして関節部には不死者の破片やグールの爪などが引っ掛かり満身創痍の状態だ。
「あら、生きてましたの。ふふ、しぶとい事はよろしくてよ」
サイアナ司祭は既に鎧を脱ぎ、以前相和義輝と出会った時のように、宝石を散りばめた装飾品を身に着け、スケスケレオタードに着替えている。違いと言えば、あちこちに包帯が巻かれ血が滲んでいる事くらいだろう。
言葉のそっけなさに反して走り寄り、銀のツインテールがひらりと舞う。
「酷い事を言わんでくださいよ――よっこらしょっと」
右手でレバーを操作すると、プシューという音と共に外装がパシっと開く。
そして中から出てきた部分鎧を纏ったオブマーク司教には、サイアナと同じような切り傷が各所にある程度だ。斬り落とされた部分は、全て鎧の外装であった。
「巡礼中でなかったら、我らは間違いなく死んでましたよ。見て下さいよ、俺の重甲鎧。どうやったらこんな風にできるのか。」
重甲鎧。浮遊式輸送板より昔に開発されたこれは、鎧であり機械でもある。
鎧の様に当人の魔力次第で硬さが変化するが、各関節の動力などは浮遊式輸送板と同じように魔道炉を使う。
だが消費魔力は鎧とは桁違いに高く、1日中の着用は不可能だし使用できる人間も限られる。
それに外す時はともかく、着用は一人では出来ない。
「あー外から見ると、思ってたよりかなり斬られてますな。これはもうダメでしょう。どうします、新しいのを聖都から送ってもらいますか?」
自分の着ていた重甲鎧の散々な姿に呆れた口調でオブマークが言うが、サイアナはそれを否定する。
「いいえ、我々は一度本国へ帰還いたしますわ」
意外であった。サイアナの事だから、嬉々としてまた出撃すると思っていたのだ。勿論、そうなったら全力で止めるつもりであった。新しいのを進言したのも、時間を稼げると思ったからなのだが……。
「だって悪魔ですのよ! きちんと教会に報告しませんと。それに……ああ、失礼な真似は出来ませんわ。ちゃんと正装をしてお会い致さなければ……」
その姿は、まるで恋する乙女のようだ。
そして思い出す。聖都に保管されているサイアナの正式重甲鎧。
ああ、アレを持ち出すのね……オブマーク司教は微妙に相手に対する気の毒さを感じながらも、たしかにアレを持ち出さなければ倒せないだろう、そう感じていた。
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