この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
60 / 425
【 戦争 】

魔王、炎と石獣の領域に入る 後編

しおりを挟む
 そうか、いつか言ってたな。確か魔人と人間と魔王、それに魔人に従う者、魔王に従う者、その他だったか。彼ら石獣は魔人に従う者って奴はなんだな。
 もしかしたら一緒に戦ってもくれるのだろうか……。

「もし魔王が望むなら……彼らも戦うかな。」

 少し神妙な空気をはらんだ言葉。それはすなわち、俺が望むならそう命令するって事なのだろう。
 俺の魔力での直接契約ではなく第三者の仲介。今までよりワンランク心の抵抗が上だ。だが――、

「多分手を貸してもらう事になる。その時はよろしく頼むよ」

 おそらく……いや間違いなく不死者アンデットと魔人だけでは無理だ。魔族領にある全ての力を結集しなければ人類には対抗できないだろう。


 予定通り、日が暮れてすぐに坑道に到着した。
 坑道は丸く刳り抜いたトンネルといった形で、予想外にひんやりとした湿り気のある空気で満ちていた。
 縦横の幅は2メートルを超しているが、これでも小さな入り口らしい。

「おー便利だ。これなら進めるな」

 目の前ではルリア他数人の死霊レイスが漂っているが、少し発光していて周囲が見渡せる。

「ふふーん。死霊レイスの優秀さが魔王様にもお判りいただけましたか? 約束の件、忘れないで下さいよ」
 ルリアは今回も右手を胸に当ててドヤ顔だ。決めポーズなのだろうか。意外と仕草が子供っぽい。いつか十分に時間がある時に、生前の事も聞いてみたいものだ。


 しかし坑道の中は外よりも歩きにくい。湾曲し湿り気を帯びた足元は結構滑るし、何よりこの中にも石獣達はごろごろと転がっている。
 この歩きにくさも計算して魔人ウラーザムザザは計画を立てたと言っていたが、他のアンデット達はどうなのやら。
 しかし不思議な感じではある。今俺の後ろには八万を超える不死者アンデット軍団が付いてきているが、その音が殆どしない。精々30メートル程の範囲が聞こえる程度。不死者アンデット達の呻き声と移動音が坑道に反響して会話もままならないと思っていただけに意外と助かるが、それはそれで不気味ではある。

「石獣達は音があまり好きじゃないかな。だから滅多に話さないし、それに合わせて土地もこんな風に作ったんだよ」

「なるほどねー、それでか」

 領域は魔人が作った。今更な確信だ。それも出鱈目に作ったのではなく、そこに住む生き物の為に作ったのだ。この地が人間に解除されてしまったら、炎の精霊や石獣達もまた滅んでしまうのだろう。
 そして今、俺達はその安息を荒らしているわけだ。いきなり噛まないでくれよ。

「そういや石獣達は何を食って生きてるんだ?」

 生き物なのだから何か食べているんだろうが、そこいらに転がっている石獣が動いているのを見たことが無い。仙人の様に霞を食っているわけでもあるまいし。

「肉かな」

 エヴィアの答えは相変わらず簡潔だ。

 フムフム、以前の俺なら食いついた話だろうが、今は屍肉喰らいグールが焼いてくれたパンと謎の肉のハムを食べている。食料状態が改善されると精神は落ち着きを取り戻すのだなとつくづく感じるよ。

 エヴィアは暫く周囲を目で追うと、ズボッと壁の中に手を突っ込む。
 かなり固い岩盤だが、平然と打ち抜くのはさすがだ。

 なんて関心をしていると、中から引きずり出したものをポイっとこちらに投げてくる。
 ん、なに? と思うとそれは1メートル30センチくらいのムカデ!!

「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 咄嗟に逃げる! なんてモノ投げてよこすんだ!

「スースィリアに失礼かな。人は見かけで判断しちゃいけないって誰かが言ってたよ」

「スースィリアは噛まないでしょ! それに種類も違う!」

 正直スースィリアのサイズまで行くと、威圧感はあっても外見的な嫌悪感は全くない。だが中途半端にでかいのは超ビビる。

 いきなり外に引っ張り出されたムカデはパニックになって坑道壁面を走り回る。目で追うのがやっとのかなりの高速移動だ。

「助けて! 助けて!」

 声が聞こえる。あのムカデが発している声か!

「大丈夫だよ、俺は食べない」

 俺は無意識に、おそらくムカデ語で話しかけたのだろう。
 それに反応したムカデはこちらに振り向き首をかしげながらじっとこちらを見つめてくる。

「ホントに? ホント?」

 何とも可愛らしい声で訊いてくる。

「ああ、本当だ。安心してお帰り。すまなかったね」

 こちらの言葉を聞くと、安心したように辺りを見渡すとエヴィアから引きずり出された穴に帰っていく。
 うん、最初見た時は嫌悪感凄かったけど、会話してみると全く印象が変わるな。
 そう言えばスースィリアも初めて会ったときは固そうな岩盤から出てきたっけ。この世界のムカデは穴を掘って生活するのか。
 世の中には知らない生き物が、まだまだ沢山いるのだな。

 ――が、穴に戻る途中で近くにいた石獣がパクっと食べた! まるで獲物が前を通り掛かるのを待っていたように!
 そうだよ! あれはエヴィアが石獣の食べ物として出したんだった。
 あぶねえ、あの晩餐会が無かったら心に深刻なダメージ負ってたぞ俺。
 この世は弱肉強食なのだな……世の中の厳しい仕組みを改めて思い知ったわ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...