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【 戦争 】
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不死者の軍団を引き連れて蔓草の大地をザクザク進む。
針葉樹の森を通る距離は短いが、それでも徒歩だと五日かかる。四倍の距離を三日足らずで移動した魔人スースィリアの速度に改めて脱帽だ。
それでもなんとか行軍は順調だ……だが。
「なあ、少し減ってないか?」
気のせいか日を追う毎に行軍の音というか、迫力と言うか、何かが減っている気がする。
「半分位は迷ったかな。南無阿弥陀仏って誰かが言ったよ」
「そっちの迷いじゃないだろ! 全軍停止!」
スースィリアの頭の上からだと全く分からなかったが、この程度の行軍で半分が脱落してしまうのか。
ちゃんと不死者の速度に合わせていたはずだが、早い奴は勝手に進んでどっかへふらふら、遅い奴はついて行けなくてどっかへふらふら。気が付けばこの有様だ。
これでは戦うどころではない。歩いているだけで全滅だ。
「どうにかならないもんかねぇ……」
途方に暮れて辺りを見渡すと、周囲には死霊が大量に漂っている。
そういえばこいつらも足が相当に早かったが、早すぎて逆に迷子にならないのだろう。
飛んでいるというのも大きなアドバンテージだ。
「ルリアはいるかー」
「何でございましょう、魔王様」
呼びかけに応じてすぐに飛んでくる幽霊メイド。最初の悪いイメージが申し訳ないほど優秀だ。しかも――
「なあ、いつも屍肉喰らいに食事を作らせていたよな? 彼らはどの死霊からの命令でも聞くのか?」
「勿論です。わたくし達高位の不死者は下位の者に命令できるのですわ」
ルリアは手にを右胸を当て少し背をそりながらドヤ顔で答えてくる。
不謹慎だが、大きく開いた胸元の乳房が強調されてついつい目がいってしまう。
だが今必要なのはそっちでは無くて――
「じゃあ死霊に引率と伝令を頼むよ。大事な役目なのでよろしく頼む」
「………………」
可愛い眉間に皴が寄って口も半開き。なんか露骨に嫌な顔をされた。面倒くさい、そう言いたげだな。
だがやってもらわないと困る。このまま自然消滅したら今までの苦労が全部水の泡だ。
「判った、その代わり要望があれば聞こう」
「本当ですか! 今言いましたよね!? 何でも言う事聞くって言いましたよね!? 魔王に二言はありませんよね? ね? ね?」
いやそれは言ってないぞ。だがとりあえず……
「いいから要望を聞こうか」
◇ ◇ ◇
死霊達との交渉の末に、なんとか不死者軍団の立て直しには成功したものの、炎と石獣の領域に到着したのは予定を大幅に過ぎた七日後だった。
そこには言われた通り溶岩は無く、確かに歩いて行ける。しかし見ただけで気力が萎んでいくのが判る超難所。
ずらりと並ぶ立体迷路の入り口群が山の周囲に沿ってどこまでも並んでいる。
それぞれは厚さ8メートル程、高さはまちまちだが見る限りでは15メートルから30メートル程の高い壁により区分けされており、その先には険しい山道が続く。どのくらい続くか知りたいが、壁が曲がりくねっているので全く先が見えない。
高い壁と壁の間の道幅はどれも10メートルくらいはありそうだが、この大軍団で入ったらぎゅうぎゅう詰めになってしまうだろう。
しかもあちこちで轟々という音と共に炎の竜巻が発生しており、とてもじゃないが登頂出来そうな予感は欠片さえ生まれなかった。よくもまあ人類軍はこんなところに攻め込んだものだ。
「ええと、これを登るの? つかこの山越えるの? というか立体迷路に見えるけど、この先ちゃんと出口に繋がってるの? あの真っ赤な炎の竜巻に飲まれたら不死者達全滅しちゃうんじゃないの?」
疑問が尽きない! あまりにも無謀ではないだろうか。
「坑道へ繋がる道があるからそこから入るずい。坑道から反対側の出口へ行きそこから山を下るずの。坑道の中に魔王の居城があるずね」
成程、魔人ウラーザムザザは博識だ。口ぶりからすると、どの入り口が正解かも知っているのだろう。だが――
「あの竜巻どうすんのさ」
今も目の前の入り口を横断した竜巻。あれに巻き込まれたら俺も死ぬんですけど。
「先入観は良くないかな。そんな事だから声が聞こえないんだよ」
魔人エヴィアははにかんだ微笑みをしながら、ちょっとむくれているような口調で言う。まだまだ表情の勉強は必要だろう。
しかし声か………どこかで誰かが呼んでいるのか?
耳を澄ます――誰だ? 何処だ?
「キャーー、魔王よ魔王! ああん、速く入ってこないかしら」
「今回の魔王はあんまり魔力無いのねー。でもいいわ、優しく抱きしめてあげる」
……目を擦り、深呼吸し、再び耳を澄ます。
「もーじれったいわねー。早く入りなさいよぉ!」
「そんな魔王もす・て・き♪ ファーストキスはあたしが貰っちゃおーっと」
「あ、あの……エヴィアさん。あの竜巻たち、なんか怖いこと言っているんですが……」
「火の精霊たちかな。エヴィアにはあの言葉は判らないけど、ちゅっちゅしたがっているのは大体わかるよ。」
「あんなのにちゅっちゅされたら一瞬で消し炭になるわ!」
――だが会話ができるのなら話は早い。
「火の精霊たち、俺は今度魔王になった相和義輝だ。これから山の坑道に入りたいが、誰にも触らないでもらえるか? もちろん俺にもだ。大事な事なのでもう一度言うぞ、俺に触るなよ!」
「お願いがいつの間にか命令に変わってるかな。男は優しい顔して近づいてくるけど、すぐに狼になるって誰かが言ってたよ」
「余計なツッコミ無用! というかお前が話を聞いてやれって言った奴に禄なのがいないぞ――あ、いやこれは違うな。すまない」
考えてみれば聞くことが大切なのであって、それを教えてくれているのはエヴィアだ。相手が云々は違う話だったな。
「ぶーー、魔王のケチー!」
「でも魔力はくれるんでしょう? ならいいわよー。くれないなら私の愛でちょっと焦げちゃうぞ」
いや絶対ちょっとじゃないわ、アレ。
だがこれで何とかなる。おそらくまた地下にあるんだろうな、俺の魔力を吸う装置。
まずは坑道奥の魔王の居城とやらへ出発だ!
針葉樹の森を通る距離は短いが、それでも徒歩だと五日かかる。四倍の距離を三日足らずで移動した魔人スースィリアの速度に改めて脱帽だ。
それでもなんとか行軍は順調だ……だが。
「なあ、少し減ってないか?」
気のせいか日を追う毎に行軍の音というか、迫力と言うか、何かが減っている気がする。
「半分位は迷ったかな。南無阿弥陀仏って誰かが言ったよ」
「そっちの迷いじゃないだろ! 全軍停止!」
スースィリアの頭の上からだと全く分からなかったが、この程度の行軍で半分が脱落してしまうのか。
ちゃんと不死者の速度に合わせていたはずだが、早い奴は勝手に進んでどっかへふらふら、遅い奴はついて行けなくてどっかへふらふら。気が付けばこの有様だ。
これでは戦うどころではない。歩いているだけで全滅だ。
「どうにかならないもんかねぇ……」
途方に暮れて辺りを見渡すと、周囲には死霊が大量に漂っている。
そういえばこいつらも足が相当に早かったが、早すぎて逆に迷子にならないのだろう。
飛んでいるというのも大きなアドバンテージだ。
「ルリアはいるかー」
「何でございましょう、魔王様」
呼びかけに応じてすぐに飛んでくる幽霊メイド。最初の悪いイメージが申し訳ないほど優秀だ。しかも――
「なあ、いつも屍肉喰らいに食事を作らせていたよな? 彼らはどの死霊からの命令でも聞くのか?」
「勿論です。わたくし達高位の不死者は下位の者に命令できるのですわ」
ルリアは手にを右胸を当て少し背をそりながらドヤ顔で答えてくる。
不謹慎だが、大きく開いた胸元の乳房が強調されてついつい目がいってしまう。
だが今必要なのはそっちでは無くて――
「じゃあ死霊に引率と伝令を頼むよ。大事な役目なのでよろしく頼む」
「………………」
可愛い眉間に皴が寄って口も半開き。なんか露骨に嫌な顔をされた。面倒くさい、そう言いたげだな。
だがやってもらわないと困る。このまま自然消滅したら今までの苦労が全部水の泡だ。
「判った、その代わり要望があれば聞こう」
「本当ですか! 今言いましたよね!? 何でも言う事聞くって言いましたよね!? 魔王に二言はありませんよね? ね? ね?」
いやそれは言ってないぞ。だがとりあえず……
「いいから要望を聞こうか」
◇ ◇ ◇
死霊達との交渉の末に、なんとか不死者軍団の立て直しには成功したものの、炎と石獣の領域に到着したのは予定を大幅に過ぎた七日後だった。
そこには言われた通り溶岩は無く、確かに歩いて行ける。しかし見ただけで気力が萎んでいくのが判る超難所。
ずらりと並ぶ立体迷路の入り口群が山の周囲に沿ってどこまでも並んでいる。
それぞれは厚さ8メートル程、高さはまちまちだが見る限りでは15メートルから30メートル程の高い壁により区分けされており、その先には険しい山道が続く。どのくらい続くか知りたいが、壁が曲がりくねっているので全く先が見えない。
高い壁と壁の間の道幅はどれも10メートルくらいはありそうだが、この大軍団で入ったらぎゅうぎゅう詰めになってしまうだろう。
しかもあちこちで轟々という音と共に炎の竜巻が発生しており、とてもじゃないが登頂出来そうな予感は欠片さえ生まれなかった。よくもまあ人類軍はこんなところに攻め込んだものだ。
「ええと、これを登るの? つかこの山越えるの? というか立体迷路に見えるけど、この先ちゃんと出口に繋がってるの? あの真っ赤な炎の竜巻に飲まれたら不死者達全滅しちゃうんじゃないの?」
疑問が尽きない! あまりにも無謀ではないだろうか。
「坑道へ繋がる道があるからそこから入るずい。坑道から反対側の出口へ行きそこから山を下るずの。坑道の中に魔王の居城があるずね」
成程、魔人ウラーザムザザは博識だ。口ぶりからすると、どの入り口が正解かも知っているのだろう。だが――
「あの竜巻どうすんのさ」
今も目の前の入り口を横断した竜巻。あれに巻き込まれたら俺も死ぬんですけど。
「先入観は良くないかな。そんな事だから声が聞こえないんだよ」
魔人エヴィアははにかんだ微笑みをしながら、ちょっとむくれているような口調で言う。まだまだ表情の勉強は必要だろう。
しかし声か………どこかで誰かが呼んでいるのか?
耳を澄ます――誰だ? 何処だ?
「キャーー、魔王よ魔王! ああん、速く入ってこないかしら」
「今回の魔王はあんまり魔力無いのねー。でもいいわ、優しく抱きしめてあげる」
……目を擦り、深呼吸し、再び耳を澄ます。
「もーじれったいわねー。早く入りなさいよぉ!」
「そんな魔王もす・て・き♪ ファーストキスはあたしが貰っちゃおーっと」
「あ、あの……エヴィアさん。あの竜巻たち、なんか怖いこと言っているんですが……」
「火の精霊たちかな。エヴィアにはあの言葉は判らないけど、ちゅっちゅしたがっているのは大体わかるよ。」
「あんなのにちゅっちゅされたら一瞬で消し炭になるわ!」
――だが会話ができるのなら話は早い。
「火の精霊たち、俺は今度魔王になった相和義輝だ。これから山の坑道に入りたいが、誰にも触らないでもらえるか? もちろん俺にもだ。大事な事なのでもう一度言うぞ、俺に触るなよ!」
「お願いがいつの間にか命令に変わってるかな。男は優しい顔して近づいてくるけど、すぐに狼になるって誰かが言ってたよ」
「余計なツッコミ無用! というかお前が話を聞いてやれって言った奴に禄なのがいないぞ――あ、いやこれは違うな。すまない」
考えてみれば聞くことが大切なのであって、それを教えてくれているのはエヴィアだ。相手が云々は違う話だったな。
「ぶーー、魔王のケチー!」
「でも魔力はくれるんでしょう? ならいいわよー。くれないなら私の愛でちょっと焦げちゃうぞ」
いや絶対ちょっとじゃないわ、アレ。
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