この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 戦争 】

人間の兵器 後編

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「この飛行機みたいのは何ですか?」

 確か飛甲騎兵だったと思う。今までに2種類見たけど、これはまた少し形が違う。先端に槍のついた円柱形の筒。下は少し外洋船みたいに中心線が尖った形だ。ハッチは前と後ろに2カ所。両翼にギロチンの葉のようなものが付いているが、直線的で揚力を生み出す形には見えない。

「それはエシュプー007ずあ。人類が初めて魔族と戦うために開発した飛甲騎兵の最初の型ずぬ。魔道炉は2つずめ。基本は浮遊式輸送板と同じで前と後ろで2人乗るずの」

 へえ、そんな物がここに。結構コレクターなんだな。

「これはどのくらいの高度を、どのくらいの速さで飛ぶんですか?」

「確か高度20メートルを時速12キロだったずら」

 ――なんか今方言みたいになった。いやそれにしても低いし遅い。自分が見たのは200~300メートル上空を飛行していたはずだ。飛行物体の速度を当てるほどの知識は無いが、相当に早かったと思う。こちらは浮遊式輸送板に比べて進化が著しいな。
 今こうしている間にも、人類は日々改良し、また新しい兵器を開発してるのだろう。

「しかし見たとこ武器と言えば先端の槍と翼みたいなのの刃だけですよね。下に何か吊るすようにも見えないし、これどうやって戦うんです?」

「体当たりずお。先端や両側の武器は人間の武器と基本は変わらないずぬ。騎兵隊の突撃のように相手にぶつかる戦い方ずを」

「なんか意外と原始的だな。それで魔道炉ってのは何です? 機械みたいのにはどれも付いているみたいだけど」

「人間の機械を動かすための道具には全部ついているずわ。魔力を入れれば動くずい。入れすぎると臨界するずか」

「臨界?」

 なんか不穏な響きだ。

「臨界に達すると入れた魔力がすぐに出てしまうずる。出ていく方が大きくなるのですぐに動かなくなるずな。臨界までの限界を上げるために人類は開発を続けたずん。ちなみに臨界状態で強い衝撃を与えると大爆発するずほ」

「なんか凄く危なくないかそれ?」

「臨界状態は一瞬ずな。勿論魔力を入れ続ければ維持も出来るずお。しかし出る量が大きいので一人や二人では臨界は維持できないずむ。衝撃も叩いた位ではダメずお」

「成程ね……」

 だが実際に爆発することは解っている。なら試したやつがいるのだ。心には留めておいた方が良い気はするな。

「他に聞きたいことはあるずら」

「それでは人類の社会構造、あと魔法に関してを――」

 聞きたいことは山ほど――それこそ有り過ぎるほどあったが、魔人ウラーザムザザは嫌な顔一つせずに答えてくれる。むしろ向こうが会話を楽しんでいる節すらあった。
 こうして時間はどんどん過ぎ、大体を聞いた時にはすっかり日は沈んでいた。


「ありがとうございました。後は人類軍の数や配置ですね。それさえ判れば後は実行するだけです」

 ――そう、本当に実行するだけだ。人類を、彼らの引いた境界線の向こうまで押し込む。勝つか負けるか……いや、勝たなければならない。

「ふむずぬ……それで同行する魔人にはちゃんと確認はとったずな」



 ◇     ◇     ◇



 夜ホテルに帰ると、魔人スースィリアはもう庭で寝ているところだった。
 大きな体を蹄鉄の形に折って静かに横たわっている。
 寝ていると死んでいるようにピクリとも動かないんだな。

 横に座って先ほどの事を考える。
 いつの間にか、エヴィアとスースィリアの二人を戦力として数えてしまっていた。何の確認も取っていないのに。
 我ながら恥ずかしくなるな。なんだかんだで自分の事しか考えていなかったではないか。

 ――もそっ。
 スースィリアの巨体が僅かに動く。

「ああ、すまない。起こしちゃったか」

 起きてこちらを覗き込んでくるスースィリア。
 その巨大ムカデの風体からは何の感情も読み取れないが、何となく判ってきている。この子は優しい。
 強いから――そんな理由で戦いに連れて行こうと思っていた自分が恥ずかしい。

「なあスースィリア。もう気付いていると思うけど、俺戦いに行くんだ。それでスースィリアも勝手に戦力として考えてた。ごめんな」

 こちらの感傷に気が付いているのか、わしょわしょと甘咀嚼をしてくる。
 寝ぼけてやってるだけだと、多分俺は死ぬ――ほんのちょっと前ならそう思ったかもしれない。
 しかし今は解る。大丈夫だ。
 スースィリアから感じる絶対の安心感。

「スースィリアはちゃんと知ってたかな。エヴィアも大丈夫だよ。魔王の考えていたことは全部知ってるよ」

 いつの間にかエヴィアが横に立っている。最初から見てたのか?

「これも作っておいたかな。必要なんだよね」

 そこには畳んである一着の黒い服。

「それも気付いていたのか」

 ついつい意識もせず二人を抱きしめた。涙が溢れそうだったからだ。
 これからの事を思うと怖い。だがそれ以上に二人が付いて来てくれる事が嬉しかった。

「かなり危険だと思うかな。でも魔王はやらないといけないんだよね。大丈夫、エヴィア達が守るよ」

 エヴィアは覚えたばかりのぎこちない微笑みをしてくれる。スースィリアもわしょわしょと甘咀嚼を続けてくれる。

「ありがとう……二人ともありがとう……」

 その夜は道中のように、三人でどんよりとした夜空を見ながら眠りについた。
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