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【 戦争 】

人間の兵器 前編

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「魔王様、お客様が参っております」

 昼食を終える頃、死霊レイスのルリア・ホーキスが来客の知らせを告げ聞きた。

 あれから一ヵ月、毎日魔王の魔力と云う名の給料支払いを続け、そのたびに乱痴気騒ぎの規模は大きくなってくる。
 既に町の道路は不死者アンデッドで溢れ返っており、期待以上に集まってくれた事に嬉しさを感じていた。

「俺に客? 誰だろう。通して……いや、自分で行こう」


 玄関を開けると、そこに待っていたのは想像をはるかに超える物体であった。
 体の中心には巨大な瞳――いや目玉。大きい、およそ2メートル位だろうか。
 10メートル程の、ナメクジの様な体の先端にそれが付いている。

 陸亀の様な横に生えた八本の太い脚。全身は真っ白く輝き、神々しさすら覚える美しさだ。
 だがよく見ると、体表にはカイコの様な小さな芋虫がびっしり張り付きうごめいている。
 そして背中では、全裸のとても太い女性が微笑みながらこちらを見ていた。しかしどう見ても人間じゃない、微妙に違う。疑似餌? であれば、ちょっと人間を馬鹿にし過ぎではないだろうか。

 姿を見て分かる。彼もまた魔人だ。
 魔人ウラーザムザザ、この領域に住んでいると聞かされていた魔人であった。

 ――エヴィアに、見た目で人間への興味度合が判るって言われたけど、どんどん判らなくなってきたよ……。


「初めましてずぬ、魔王。もう名前は判っているずの。魔人ずり」

 少しゆっくりとした静かな声。目の下から、足下を通って体の半分くらい裂ける大きな口。そして、そこにはサメの歯に似たノコギリ刃が、上下の淵に沿ってずらりと並ぶ。

「は、初めまして……魔王です」

 大きさによる威圧感に反して大人しそうな魔人。だが全身を這いまわる芋虫は結構早い! 上の疑似餌っぽい女性ずっとこっち見てる! 色々とコミュニケーションが難しそうな魔人だ。

「魔王が必要だったから来てもらったかな。良かったね、魔王。もうじき居なくなっちゃうところだったよ」

「へ、へえ~……」

 どうやらエヴィアが呼んでくれたようだが、俺が必要としている? 戦ってくれる仲間? 何だろう、足りないものが多すぎて判別できない。

「ウラーザムザザは人間に詳しいかな。色々聞いておくといいと思うよ」

「え!? 人間に関して詳しいのですか?」

 思わず敬語になってしまう。
 そう、これだ! 確かにこれだ! これを知りたかったのだ!
 ついに巡り合えた! その嬉しさでがっくりと膝から崩れ落ちる。

「ふむ、複雑な感情が入り混じってるずの。話してみるずが」

 魔人の言葉で俺は話した。魔王になった事、それを受け入れた事、人間と話し合いたいと思った事、そのためには先ず戦わなきゃいけない事、だが戦う戦力が無かった事、そして――、

「戦う相手の事、何にも知らないんです……武器も! 数も! 組織も!」

「良かろうずい。付いてくるずな」

 魔人ウラーザムザザは踵を返し、招くような仕草でズシンズシンと歩いて行った。


 ◇     ◇     ◇


 そこは廃墟の一角。かなり広い倉庫のような部屋だった。

「うわー、まるで博物館だな」

 そこには武器や鎧が大量に積まれ、以前乗った物よりも古そうな浮遊式輸送板、それに先端が槍のようになった飛行機に近い物体――飛甲騎兵も置かれてある。

「これはウラーザムザザの収集品コレクションずな。聞きたいものがあったら遠慮せずに聞くずい」

 じゃあ先ずは――、
 一番多くある武器や鎧。自分の知っている物とは大きさや厚さが根本的に違う。
 武器はどれも重く大きく、そのくせ刃先はカミソリのように鋭い。
 そして防具、胸板など厚い部分は50ミリはある。薄い部分でも20ミリ程だ。装甲車を着て歩く、まさにそんなイメージの鎧だった。

 しかも中には厚さ150ミリを超える物もある。こんなものどうやって着るんだ? 戦車か? 関節部分をどうしているのだろう。
 当然の様にでたらめな重量で、持ち上げようとしてもピクリとも動かない。
 確かこれは――、

「魔法が使えないと扱えないんでしたよね?」

「正確には魔道言葉と呼ばれる魔力を体外に出す技法ずの。魔法とはまた違うずな。その魔力によって固くなり軽く感じられるようになるずれ」

「すると今は柔らかいんですか?」

 滑らかな表面は水を張ったようにすべすべして艶やかだ。だが柔らかそうな感じはない。

「これを使ってみるずな」

 ぐにゅぐにゅと音がしそうな感じに体内から触手な様なものが盛り上がってくる。それに合わせて体中を這う芋虫達もより早く蠢く。うん、虫が嫌いな人だったらここで死んでた。平気でよかった。

 そうして差し出されたのはやすりの棒。鎧とはまた違った、いかにも鉄といった金属だ。
 試しにゴリゴリと削ってみると……確かに柔らかい。簡単に削れてしまう。

「魔力が切れてしまうとただの重い荷物ずお。だから着ている人間の魔力によって庇う部分や大きさも変わるずに」

「大体どのくらい着ていられるものなんですか? あと魔力って個人差あるの?」

「一日に使える量で、大体着るものが決まってるずな。戦闘中の魔力切れは期待しない方がいいずか」

 ああ、先に返されてしまった。数時間で魔力切れとかなら相当楽だったのにな。

「魔力の量は個人差が大きいずむ。それに体積も大いに関係するずの。人間は魔力が強い生き物だずわ。それでも5倍も大きい巨人には敵わないずな。だから人間はより大きな個体を好むようになったずり」

 成る程、それでこの世界では太っている人間が好まれるのか。ウラーザムザザの背中のアレも、人間から見たら相当美人なんだろうな。

「あれ? 太って得た魔力って、痩せたら無くなるの?」

「基本は無くなるずい。ただ極稀に、痩せても減らず、凝縮され更なる魔力を得るものが居るずの。そういった人間は、”かつての美貌”等の異名で呼ばれ畏れられているずれ」

 なんか、かつてのに誉め言葉を組み合わせると悪口に聞こえるが、普通に誉め言葉だったのか。まぁ、俺が聞いているのは自動翻訳された言葉だ。お嬢様の例もあるから、一概には言えないんだろうな。

「魔王が今考えた意味も含むずお。畏れ、それは自分が無いものに対する恐怖であり、恐怖は嫌悪へも繋がっているずな」

「なるほどね……とりあえずデカい武器持ってデカい鎧着てたら、それだけ強いって事ね」

 魔法の武具を扱えない不死者アンデット一人では、兵士一人の相手は無理だな。戦力差は大きそうだ。


「次はこの機械の事を教えてください。ええっと、とりあえずこの浮遊式輸送板ってやつ」

 上陸艇と輸送トラックを併せ持ったような形状。外見は板金打ちっぱなしといった武骨で簡単な造りに見えるが、自分の世界には無かった浮遊して動く夢の乗り物だ。あの鎧を着た兵士を満載して飛べるのだから積載量も相当なものだろう。

「それはモブレンソニール3式という2千年ほど昔に開発された乗り物だずに。魔道炉を四つ搭載しているずお。四人で動かす輸送に使う人類の機械だずむ。材質は武器や鎧と違って、普通の金属だずれ」

 四人か……前に操縦席1つ、後ろに窪んだ部分が三ヵ所。ああ、前に見たのは後ろは二ヵ所だったな。技術の進歩ってやつなんだろうか。

「前と後ろの違いってのは何ですか?」

「前は動かすために専用の魔道言葉が必要になるずあ。後ろは武器や防具と同じで、ただ出せば良いずか。魔道炉の質や魔力を出す人間の力で、運べる量や速さが変わるずえ」

 そういえばノセリオさんも同じような事を言っていたな。俺を運んだことで迷惑掛かって無ければいいけど。

「時速何キロくらい出るんですかこれ」

「積めば積むほど遅くなるずい。普通に積めば時速4キロくらいずの。」

 ――遅!

 以前乗ったのはもっと早かった。多分時速40か50キロ程だ。これも技術の進歩か。
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