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【 戦争 】
幸せの白い庭 後編
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ホテル、幸せの白い庭。
魔王の魔力を分け与える――だが決心虚しく、今日は日延べとなった。俺の体力的な問題と晩餐会の時間が迫っているかららしい。
魔力を貰えることが確定した不死者達はおとなしいもので、今俺の前で黙々と給仕をしている。
晩餐会の場所は一階の食堂。
肉の焼ける良い香りが漂い久々に食欲をそそるし、給仕を行っている蠢く死体もカラカラに干からびており、腐った様な嫌な臭いはしない。
だがそれよりも、目の前に置かれているこんがり焼けた右腕は何?
これ誰の腕? 取られた人はどうなっちゃったの?
「屍肉喰らいの腕かな。ちゃんと水で戻してあるから大丈夫かな」
魔人エヴィアは全く気にしたそぶりも無く左足をもぐもぐと食べている。
乾物かよ! いや、少しは気にしてくれ……。
「これは魔王が考えないといけない事かな。何を食べて、何を食べないかの線引きを決めるのも、魔王のこれからに大切な事だよ」
言いながらも相変わらずもぐもぐ食べてる。旨いのであろうか? しかし線引きか、食べるモノと食べないモノの……
人は食べない。人の言葉を話すものは食べない。人の形をしたものは食べない。声を発するものは食べない。動くものは食べない。
そうして最後に、この世で最も弱い命――命乞いも出来なければ、逃げる事も出来ない植物に落ち着く。いや、そこで落ち着かないと栄養が足りなくて死んでしまうのだ。
なら、全ての言葉を理解する俺はどこまで食べるんだ? 確かにかなり最初に躓いている。
おそらくあの多足キリギリスも、生きていたら「助けて!」とか言ったのかもしれない。
それでも食べたのか? 今後どこまで食べるのか?
仲間達が食べていたらどうする? 残酷だと咎めるのか?
成る程、それが決まってなかったから今まで蜜蟻の蜜だけだったのか。後になってから『自分は何て罪深かったのだ!』なんて悔やまないように。
だがその蜜蟻の蜜も、彼らが生きるための大切な糧だ。命じゃないから奪っていいなんて理屈は通らない。
……こいつ意外と考えているんだな。
ただやり方がスパルタすぎて心が挫けそうだ。
最も、この位のインパクトは必要だったのかもしえない。此処で決めれば、今後何があっても揺るがないだろう。
「俺は大丈夫だ、エヴィア。その辺りの線引きは今も昔も変わらない。俺は人は食べないよ。だが他の動物は食べる。たとえ命乞いをされても。それでいいか?」
生きるために殺す、もう決めてある事だ。だけど共食いはしない。その一線だけは越えようとは思わない。
「魔王がそう決めたのなら、それで良いかな。じゃあそれエヴィアが貰うね」
そう言って、しっかりと皿ごと屍肉喰らいの腕を持って行った。ちゃっかりさんめ。だがそうすると、俺の食うものが無いんだが……。
「さっきヨーツケールが魚を置いていったかな。多分必要になるからって言ったよ」
「あいつツンデレさんなの!?」
―――今日一番驚いた出来事だった。
◇ ◇ ◇
打ち寄せる波。周りにはけたたましい雨音と水飛沫、それに波が加わった轟音が響く。
海に浮いて、いや流されている。足が地面に着かない。
「頼むよガボッ、義輝ぃ! 俺たち友達だろ!」
――ならお前は俺の何なんだよ。
「家族がいるんだ! 帰りたいんガバッガハ……頼むよ!」
――俺にだって家族はいるよ。
目の前には青いバケツ。釣り用に持ってきたやつだ。そうか、あの時だ。
辺りを確認して状況確認したいが、雨と波が強すぎてそんな余裕がない。
船は! 船は何処にあるんだ!
「ゴホッゴホッ、義輝ぃ、すまない、すまない!」
腹部に鈍い痛みが走る――蹴られた?
威力は無いが、棒で押されたような状態になった俺は体勢を崩し、波に吸い込まれてゆく。あいつが何か言っているけど聞こえない。体が流され沈む。
クソっ! あんな小さなバケツでどうにかなると思っているのか! 落ち着いて回りを確認してから最善手を判断するべきじゃないのか!!
結局ああいったやつが生き残るんだ。思考は止まっているくせに、自分を弱者に設定して強い他者は自分を助けるのが当たり前だと本能で決める。罪悪感も無い。
今もう一回あの状態になったら、俺は奴を蹴るんだろうか?
いや無理だ。蹴らなかったのは、俺の今までの人生が決めた事だ。あそこで蹴ったら、それはもう俺じゃない。別の誰かだ……。
だけど悔しいな。こんな結果で死ぬなんて。
やりたい事は沢山あった。いろんな未来を夢見てた。だけどそれも今日で終わりか。
誰か助けてくれよ。もし、もしも生き延びたら……もう一回チャンスがもらえるのなら…………。
……必ずその恩は果たす。
――イイダロウ キミニキメタヨ。
魔王の魔力を分け与える――だが決心虚しく、今日は日延べとなった。俺の体力的な問題と晩餐会の時間が迫っているかららしい。
魔力を貰えることが確定した不死者達はおとなしいもので、今俺の前で黙々と給仕をしている。
晩餐会の場所は一階の食堂。
肉の焼ける良い香りが漂い久々に食欲をそそるし、給仕を行っている蠢く死体もカラカラに干からびており、腐った様な嫌な臭いはしない。
だがそれよりも、目の前に置かれているこんがり焼けた右腕は何?
これ誰の腕? 取られた人はどうなっちゃったの?
「屍肉喰らいの腕かな。ちゃんと水で戻してあるから大丈夫かな」
魔人エヴィアは全く気にしたそぶりも無く左足をもぐもぐと食べている。
乾物かよ! いや、少しは気にしてくれ……。
「これは魔王が考えないといけない事かな。何を食べて、何を食べないかの線引きを決めるのも、魔王のこれからに大切な事だよ」
言いながらも相変わらずもぐもぐ食べてる。旨いのであろうか? しかし線引きか、食べるモノと食べないモノの……
人は食べない。人の言葉を話すものは食べない。人の形をしたものは食べない。声を発するものは食べない。動くものは食べない。
そうして最後に、この世で最も弱い命――命乞いも出来なければ、逃げる事も出来ない植物に落ち着く。いや、そこで落ち着かないと栄養が足りなくて死んでしまうのだ。
なら、全ての言葉を理解する俺はどこまで食べるんだ? 確かにかなり最初に躓いている。
おそらくあの多足キリギリスも、生きていたら「助けて!」とか言ったのかもしれない。
それでも食べたのか? 今後どこまで食べるのか?
仲間達が食べていたらどうする? 残酷だと咎めるのか?
成る程、それが決まってなかったから今まで蜜蟻の蜜だけだったのか。後になってから『自分は何て罪深かったのだ!』なんて悔やまないように。
だがその蜜蟻の蜜も、彼らが生きるための大切な糧だ。命じゃないから奪っていいなんて理屈は通らない。
……こいつ意外と考えているんだな。
ただやり方がスパルタすぎて心が挫けそうだ。
最も、この位のインパクトは必要だったのかもしえない。此処で決めれば、今後何があっても揺るがないだろう。
「俺は大丈夫だ、エヴィア。その辺りの線引きは今も昔も変わらない。俺は人は食べないよ。だが他の動物は食べる。たとえ命乞いをされても。それでいいか?」
生きるために殺す、もう決めてある事だ。だけど共食いはしない。その一線だけは越えようとは思わない。
「魔王がそう決めたのなら、それで良いかな。じゃあそれエヴィアが貰うね」
そう言って、しっかりと皿ごと屍肉喰らいの腕を持って行った。ちゃっかりさんめ。だがそうすると、俺の食うものが無いんだが……。
「さっきヨーツケールが魚を置いていったかな。多分必要になるからって言ったよ」
「あいつツンデレさんなの!?」
―――今日一番驚いた出来事だった。
◇ ◇ ◇
打ち寄せる波。周りにはけたたましい雨音と水飛沫、それに波が加わった轟音が響く。
海に浮いて、いや流されている。足が地面に着かない。
「頼むよガボッ、義輝ぃ! 俺たち友達だろ!」
――ならお前は俺の何なんだよ。
「家族がいるんだ! 帰りたいんガバッガハ……頼むよ!」
――俺にだって家族はいるよ。
目の前には青いバケツ。釣り用に持ってきたやつだ。そうか、あの時だ。
辺りを確認して状況確認したいが、雨と波が強すぎてそんな余裕がない。
船は! 船は何処にあるんだ!
「ゴホッゴホッ、義輝ぃ、すまない、すまない!」
腹部に鈍い痛みが走る――蹴られた?
威力は無いが、棒で押されたような状態になった俺は体勢を崩し、波に吸い込まれてゆく。あいつが何か言っているけど聞こえない。体が流され沈む。
クソっ! あんな小さなバケツでどうにかなると思っているのか! 落ち着いて回りを確認してから最善手を判断するべきじゃないのか!!
結局ああいったやつが生き残るんだ。思考は止まっているくせに、自分を弱者に設定して強い他者は自分を助けるのが当たり前だと本能で決める。罪悪感も無い。
今もう一回あの状態になったら、俺は奴を蹴るんだろうか?
いや無理だ。蹴らなかったのは、俺の今までの人生が決めた事だ。あそこで蹴ったら、それはもう俺じゃない。別の誰かだ……。
だけど悔しいな。こんな結果で死ぬなんて。
やりたい事は沢山あった。いろんな未来を夢見てた。だけどそれも今日で終わりか。
誰か助けてくれよ。もし、もしも生き延びたら……もう一回チャンスがもらえるのなら…………。
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――イイダロウ キミニキメタヨ。
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